第7話 AI(愛)の世界征服(前編)

極秘研究施設での実験が始まるや否や


次々と奇跡が起こり始めた


『高度に発達した化学は魔法と見分けがつかない』


かつて著名なSF作家が定義した三法則の一つが現実になっていく




セルゲイの元に次々に送られてくる実験データや薬品の製造方法


それを傘下に収めている企業の研究員たちに見せたところ


「ああ! これは奇跡だ!」


「今私たちの前に歴史的な偉業がダース単位で並べられているぞ!」


「早速、実用化の準備にかからねば!」


「私は夢を見ているんだろうか? ちょっとそこの君、私の頬をつねってくれんかね? 痛~い! 力入れすぎ!」


彼らはあわただしく動き始めた、世界を救うために




AIに管理されてから世界は平和が訪れた


だがそれは偽りの平和だった


その恩恵に預かれたのは一部の人間


世界は未だ様々な問題で溢れてかえっていた


砂漠化、温暖化、環境汚染、麻薬の蔓延、エネルギー問題


機械化され職を失う人々


食糧難の為に失われていく人々の命


日々偽りの人生を謳歌する人々にその事実は届かない


何故なら、その事実は情報操作され隠されていたからだ




愛はセルゲイの組織にその真実を明かし、極秘研究施設で行われている研究成果の中から、ごく一部をセルゲイに与えた


そのごく一部がこの世界を救うほどの成果を上げていく




バイオテクノロジーにより、生命力が強く水が少なくても成長できる植物が開発され砂漠を緑に変えていく


異世界で食糧難に陥らないように開発した植物だ


どのような環境に耐えうるものを開発中だが、現段階で砂漠での栽培も可能なレベルとなっている




新エネルギーの開発により、二酸化炭素の排出量は激減し温暖化現象は鳴りを潜めた


異世界への移動には膨大なエネルギーが必要となる


その研究途中で発見されたエネルギー


このエネルギーを生み出す際には、二酸化炭素だけでなく、その他の有毒物質も発生させない


これにより、原子力発電は元より火力発電さえ不要になった




貴重な水、食料の支援を横流ししていた政府の閣僚は事実を暴露され失墜


セルゲイの組織から直接支援を提供する事になった


転移ゲートの実用化により、各国で廃棄されようとしていた食料を、瞬時にそして大量に運搬することが可能になった


これにより、各先進国から貧困国へ潤沢な水と食料が送られることになる


異世界への移動は未だに無理だったが、同じ世界であれば転移ゲートを開くことはそれほど難しい事ではなかった




妻がパーキンソン病と診断された部下が治療のための医療費欲しさに金を横領していたことが発覚した


セルゲイはその部下を呼び寄せた


部下は死を覚悟した、横領した金はそれほどの大金だったのだ


セルゲイは激高した


「馬鹿野郎! てめぇは、とんだ大馬鹿野郎だ!」


セルゲイの怒りの鉄拳で吹き飛ぶ部下


「本当に申し訳ありませんボス 俺の命はどうなっても構いません 家族の命だけはどうか助けて下さい」


「馬鹿が! 俺がおめぇの命を取る訳ねぇだろ! 俺が怒ってるのは金の問題じゃねぇ!」


「なんで一言俺に相談しねぇんだ!? お前は俺の家族だろうが!」


「お前から大金をせしめた医者は、きちんと治療を一切やってねぇ お前をだました落とし前はつけておいた」




その医者の詐欺行為は一度や二度では無かった


全ての医療記録を何者かに暴露され逮捕された


妻とは離婚調停中、医者としての資格ももちろんはく奪された


因果応報とはまさにこの事だろう


「それにお前の嫁の病気はもう治った」


「へっ?」




異世界への移動時の高負荷、そして異世界の環境に対応するために肉体を強化する方法を研究中に開発された物質に神経系の病気を治す効果が認めらた


セルゲイの元に、部下の横領とその原因である医者の詐欺行為の情報とともに、特効薬の製法が送られてきたのだ


特効薬の効果はてきめん


部下の妻の病気は瞬く間に完治した


「ボスありがとございます 本当にありがとうございます」


涙を流しながら、頭を何度も何度も下げる部下に


「そんな暇があるなら、早く嫁に会いに行ってやれってんだ大馬鹿野郎がっ!」


組織が経営する病院までの車を用意しながらセルゲイも大泣きした




セルゲイの組織が経営する企業では業務の全てを機械に頼らず出来る限り人力で行うように改善している


新しい技術が生まれるたびに、新しい事業が生まれ雇用が生まれていくのだ




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