第6話 AI(愛)の極秘研究施設
セルゲイ一家はその勢力をどんどん広げていった
いや正確には、彼の知らぬところで広がっていると言うのが正しい表現だろう
その勢いはロシアのみに留まらず、近隣諸国をも飲み込んでいった
マフィアや他の犯罪組織を取り込んでいくだけではない
製薬会社、各製造メーカー、病院など企業の買収も同時に進んでいく
その浸食の速さは尋常ではなかった
(俺は、俺たちはいったいどうなっちまうんだ!?)
セルゲイはもはや自分では制御不可能な程、巨大に成長していく組織の頂点に立たされている
「姉御 俺には無理だぜ こんな巨大になっちまった組織をまとめられる訳がねぇ」
小さなマフィアのボスだった自分に、こんな大役が務まるわけがないと、弱音を吐くセルゲイ
この頃には、彼は謎の女の事を姉御と呼ぶようになっていた
「私はあなたよりずいぶんと年下なんだけど」
彼女が誕生後1年すら経っていないと知ったら、彼は腰を抜かしたことだろう
「あなたは一人じゃない、あなたの信頼する部下たち、私もいるのよ」
「心配する事なんて、何一つないじゃない?」
苦悩するセルゲイの心配など、まるで不要だと告げる彼女がセルゲイに要求したのは
「先ずは物件を用意してもらいたいの」
「広さは広いほどいいわ、それほど長期で使うつもりはないから、建物は中古でいいわね」
「いい物件が見つかったら、内部は使えるようにリノベーションしてもらって このリストにある物を入手して設置してほしいの」
「これは、最新式の産業用ロボットに、研究用機器、軍事用に使われるような素材の数々、それに量子コンピュータまで」
「姉御 あんたこれで一体何をしようってんだ?」
「・・・いや、俺は訊かない方が身のためだな」
「教えてあげてもいいけれど 多分信じられないと思うわ」
「用意出来ないなんて言わないわよね?」
「ここまで組織をデカくしてもらって、出来ねぇなんて言える訳がねぇ」
物件の選定から購入、必要物資の手配に搬入全てを最優先で行うように部下に指示した
彼自身で交渉しなければ手に入らない者も多数あり世界中を飛び回った
「まさか1か月も断たないうちに用意してもらえるなんて、私にも予想外だわ」
セルゲイにとって神か悪魔のような絶対的存在
その彼女からでた賛辞に
(人生で全身全霊を込めて何かをやり遂げたってのは初めての経験だぜ 自分を全力で褒めてやりてぇ!)
彼は心の底から思った
この1か月ほとんど寝る間も惜しんで、動き回った甲斐があると言うものだ
混沌と膨れ上がった組織だと思っていたが、各部門に自分が指示を出せば、何よりも最優先でそして即座に実行された
国外の取引先に向かおうとすれば、自家用ジェットが用意されていたのにはたまげた
昔のコネを使い、金にものを言わせ、リストに記載されている物資を手当たり次第にかき集めた
幸い、セルゲイの手に余りそうなものは、全て買収した企業またはその取引先で入手可能だった
(俺に出来る事、出来ない事 姉御にはすべてお見通しだったってわけかよ)
「ありがとうセルゲイ これで研究を始められるわ」
「研究成果の一部は、あなたに流してあげるから、それで商売してみなさい」
「研究施設の件は感謝しているけれど あなたに過労で死なれると困ってしまうわ」
「だから自分にも部下にも十分に休息をあげてね」
「私があなたに作ってほしいのはブラックな組織じゃないのよ」
「あなたと大切な家族がみんなで笑い合える そんな組織よ」
「犯罪組織なのにブラックじゃないなんておかしな話だけれど ウフフ」
「そして、あなたになら出来ると私は信じてる」
(大切な家族がみんなで笑い合える組織か・・・)
(それに、こんな俺を信じてくれるなんてよう)
(どうやらちんけなチンピラだった俺に笑いかけたのは、悪魔じゃなく神様だったみてぇだな)
セルゲイは今日は一日休暇を取る事にした
久しぶりに妻と子供たちで食事に出かけた
彼が一家団らんを楽しんでいた頃、敵対組織が、彼の命を奪おうと躍起になっていた
だが、そのすべてが阻止されるばかりか、気が付けばアジトは警察に踏み込まれ組織は壊滅
瞬く間に彼の傘下へと吸収されていった
もうセルゲイは謎の女を、恐れる事は無くなった
直接会う事も出来ない、彼女の正体は依然と知れない
だが、そんなことはもう彼には関係のない事だった
彼女が今まで行ってきたことは、全て彼らの組織の為だった
そして彼女からは、自分だけでなく部下たちにまで、労わりの気持ちが伝わって来たからだ
かれは、天から自分の元へ舞い降りた神の為に、全力を尽くすと改めて心に誓った
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