01 “デビュー失敗”

──王国暦一九九年、九月末日、午前。王都、自警団組合本部。



「“ヴィジル”の新規登録はここでいいのか?」


 組合のドアをくぐり、僕はそびえ立つカウンターに声をかける。

 ぱたん、と本を閉じる音がしたが、返事はない。仕方なくカウンターをノックして、少し大きめに言う。


「下だ、下」


 すると、受付“嬢”というには少し歳がいっているか。栗色の髪をふわりと垂らす、おっとりした感じの女性が、カウンターの上から顔を覗かせる。


「あらあらあら、まあまあまあ。坊やいくつ?」


 受付は見るからに「かわいいものを見つけた」と言わんばかりに指を組む。場所柄そういう子供も本当に訪れてくるのかもしれない。僕は肩掛け鞄のポケットから二枚の紙を取り出し、さっとその鼻先に突きつける。


「ユーリエルだ。東方領主のサイン付き身分証、あと魔導学院の修了証」

「あ・・・あら、ごめんなさい。私は組合本部の受付長、メラニーです。よろしくね」


 普段から持ち歩いてるのね・・・と呟きながら目を通す受付長。一人しかいないのに“受付長”なのか。繁忙期には人が増えるということだろうか。その目つきは、文字を追うにつれてやや鋭くなる。


「ユーリエル・テス・エルシダシア・・・あなた、東方の・・・」


 このやり取りも、初対面の人間とは何度目だろう。もう慣れっこだが、不服であることを表明するために、軽くため息をつきながら受け流す。


「かつてそうだった、だがいまは違う」


 メラニーは察してくれたのか、ごめんね、と軽く謝り登録の手続きに移ろうとする。だがこのままでは困る。恥ずかしいが言うしかない。


「あの、すまないがなにかこう、カウンターに届くような踏み台とか、ないかな・・・」


 僕の背丈では、カウンターの上面に届かないのだ。



──────────



 受付長メラニーが、隣のレストランから椅子を借りてきてくれた。閑散としたロビーを衝立で区切っただけの応接スペース。そこにある粗末なテーブルに椅子を置く。お子様用の、ステップがついているやつだ。仕方なく促されるままに座る。椅子の上に立ち続けながら書類を書くよりはマシ・・・だと、思いたい。腹立たしいまでにサイズと高さが合う。

 メラニーはもうニコニコしながら、僕が座るさまを眺めている。思っていることはだいたいわかる。少し耳の先が赤くなっていることを体温で感じ、思わず彼女から目をそらしてしまう。


 メラニーは脇に置いた書類の束から、個人登録用の申請書を一枚抜き取り、僕に渡した。

 名前、職、その他希望・・・三項目?たったこれだけでいいものなのか。すぐに書き込み、受付長に渡す。彼女はそれを軽く一瞥する。


「“ユリエル”。名前は偽名で登録するの?身分証の“ユーリエル”とはやや綴りが違うようだけど」

「偽名ってほどではないけれど、そのほうが呼びやすいと言われることが多いからね」


 実際のところは、言い間違いで通じるレベルの偽名を使うのは“念の為”だ。わずかでも素性を隠すに越したことはない。


「なるほどね。魔導学院、学士課程修了の魔導士・・・エリートね」

「まあ、そうだね」


 自慢するようでいい気持ちはしないが、否定してもしょうがない。西方の僧院から派生した魔導院と、その教育機関である魔導学院。それなりに選ばれた人間しか入れない。

 それより、ひとつひとつの項目にコメントを付ける決まりでもあるのか?最後の項目なんかはあまり触れてほしくないけど・・・


「・・・“女性の少ない班”を希望ってのも珍しいわね。女性だらけの班希望とか、なんなら好みまで書いてくる人もよく見るのに」

「マスコットのように扱われるのは好きになれない」

「あなたかわいいからね。どっちの気持ちもわかるわ」


 “かわいい”。二言目にはこれだ。だから子供を持ちうる年齢の大人と女性は苦手だ。


「これで、個人登録に必要なぶんは終了。では“ユリエル”くん。まずご新規さんには伝えておかなきゃならない注意点があるわ」


 メラニーのおっとりとした顔が少し引き締まる。“仕事の顔”というやつか。


「ヴィジル──“登録自警団員”は、王国の兵力でもあるの。有事の際には緊急に召集がかかり、治安維持組織として、あるいは軍の一部隊として再編成されます。召集を一定期間に亘り無視した場合、処罰の対象となるわ」

「うん、調べてきた」

「まあまあ。聞いてなくてもいいけど、決まりだから最後まで言わせて。役人も大変なのよ」


 メラニーはわざとらしい咳払いをする。誰もいないロビーに少し響いた。


「現在のような平時の場合、固定給などはありません。登録により発生する義務は、その週の行動範囲についての報告だけ。召集のとき使われるわ。そして得られる権利は、民間からの依頼受注権のみ。単純ね」

「“なんでも屋”って別称も納得だ。自警団っぽくないね」

「本格的に自警団っぽくなってくるのは評価が上がって、になってからね。どこの馬の骨ともしれない人でもヴィジルにはなれる。そんなのにいきなり逮捕権とか渡したら大変でしょう」

「そりゃそうだ」

「これは、食い詰め者でも外国人でも誰にでも仕事を提供して、不穏分子を減らす。その中でも忠実かつ有能な人間には若干の警察権も渡してさらなる治安維持に貢献してもらう。その上で有事には全員ひっくるめて軍にぶっこんで自由に使う、っていう見事に王国と勤勉な労働者が互恵関係を築けるシステムなのよ」

「“面倒事を日雇いに押し付けて使えるやつはこき使う”って言ってないかそれ」


 思わず苦笑いしながら言うが、メラニーもそれを否定しない。


「でも、有事でない限り自由に動けるっていうのはありがたい。路銀を稼ぎつつ別の目的に時間を使うこともできる」

「そういう使い方をする人もいるわ。それになにより“ほぼ”お国の運営、ピンはねもないわよ。ここまでで質問は?」


 言われた内容を反芻する。多少強権的なシステムだが、これはメラニーが言ったとおり、食い詰め者や臣民権のない外国人が犯罪に走らないよう、簡単な職を提供するシステムという側面が大きいゆえか。自警団としての機能は実際、おまけや釣り餌程度の意味合いなのだろう。・・・そういえば。


「“腰紐”って?」

「“認定ヴィジル”のこと。評価が上がるか推薦を得るかして、さらにいくつかの権利と義務を負うことになった上級ヴィジルを指すわ。逮捕用の紐を身分証代わりに腰に下げてるからそう呼ばれるようになったの」

「面倒そうだな」

「ここまでいくともう、完全に本来の自警団員の姿ね。“なんでも屋”ではなく、“法の番犬”。専業に近くなって、旨味も増えるけど自由は減るわ。国に“特務”を発行してもらえるのも腰紐からよ」


 メラニーは言葉を続けながら次の書類の束を出す。


「それじゃ次は、班の編成について。人数は四人まで」

「四人?」

「申請書に四人までしか名前の欄がないのよ」


 メラニーがひらひらと班の結成申請書を見せる。そんなわけがあるか。肩をすくめてみせる。


「まあ、実際のところは法的な理由でね、五人以上での任務行動には正当な理由と衛兵司令部、軍の許可が要るわ。罰則は結構きついわよ」

「人数が少ない分には“なんでも屋”として行動できるが、数が増えると平時でも“公的な兵力”として扱われるってことか」


 しかし、四人は少ないな。・・・いや、だからこそか。単独の班では治安上の脅威になりにくいからこそ、自由を与えられる。国境付近でちんぴらまがいのがうろついたりなんかしたら、下手をすれば戦争だ。


「そんなところ。ヴィジルは役割によって大まかな“兵科”に分類されてて、将来的に戦闘を見据えた場合はバランスを考えて班を編成するのが一般的。それで・・・参考までに、兵科の一覧よ。詳細は読み飛ばしても構わないわ」


 メラニーが束の一番上にある書類を広げる。



前衛ヴァンガード

近接攻撃を主とする兵種の総称。一般的に中衛、後衛に対し強い。


中衛ハーフバック

弩による攻撃、短射程魔法による攻撃などを主とする兵種の総称。概して騎兵に強い。長柄武器ポールアームを含む場合もある。


後衛リアガード

長弓による長距離攻撃、長射程かつ高威力・広範囲の戦術魔法による攻撃を主とする兵種の総称。

(短長射程双方を扱える者は、本人が得意な兵科や不足している兵科に適宜振り分けられる)


騎兵ウーラン

動物などに騎乗しての行動を主とする兵種の総称。突破力が高く、特に前衛に強い。他の兵種との混成は通常行われない。


密偵スカウト

隠密行動を得意とし、敵情視察や情報収集に長ける兵種の総称。


補助サポート

攻撃補助や防御補助、また工兵の役割を担当する兵種の総称。


戦医メディック

医師や魔導医、回復術士など、負傷兵の治療を主とする兵種の総称。



「・・・だいぶ大雑把だな」

「寄せ集めだからね。特に戦争なんか起こると、登録自警団員であるヴィジル以外にも、いろんな地域からいろんな呼ばれ方、いろんな能力を持つ傭兵が王国へと来るわ。それを編成するには、射程と職能によって一絡げに扱うのが簡単なのよ」

「だいたいわかった。ヴィジルの班は複数の兵科で構成されていて単独で完結していると考えれば、まとまった戦術単位で使われる“後衛”と“騎兵”は実質班員の対象に含まれないということか」

「理解が早くて助かるわ・・・たまに、いるけどね」

「まじか。騎兵一人入れて何するんだ」


 メラニーは次に班の結成申請書と、班員を募集している班の一覧を僕の前に置いた。


「それで、新班結成、加入申請。どっちにする?」

「あっ、ああ・・・・・・いや、しかし・・・」


 思わず言葉を詰まらせながら衝立の向こう側を見る。見事に誰もいない。


「班員を集めるもなにも、って感じだけど・・・」

「うーん、だからね・・・時期が、悪かったかも」


 メラニーは頬を掻きながら笑う。“収穫時”について訊こうとしたその時、勢いよく入口のドアが開いた。けたたましく鳴るドアベル。何も考えていない、ということが口調からわかる声で腹の底から「こんにちはー!!」と叫ぶ声。入ってくるやいなや、こちらに駆け寄ってくる、僕と同じ翠緑みどり色の髪を振り乱す“異人ゼノ”の少女。僕は確信する。これはやばい奴だ。関わってはいけない。


「あら、ハナちゃん」

「おねえさん!・・・その子!」

「げっ」


 目が合いたじろぐ、お子様椅子に座ったままの僕。


「こちらは今日登録しにきたユリエルくんよ」


 このタイプは嫌いだ。メラニーの紹介が終わる前に逃げようとしたが、焦って椅子から身体が抜けない。


「かわいいっ!!」


 一直線に僕へ抱きついてきた異人の少女“ハナ”。勢いでキャスケット帽が飛び、中にまとめていた髪が舞う。ハナと同じ髪の色だったからか、それを見た瞬間、彼女の動きが止まった。


「ちょっ、お前、こら、離れろ!」


 その隙に脱出しようと思ったが、ハナの束縛はえらく強い。なんとか抜け出せたが、本当になんなんだ、こいつは。

 ・・・僅かな沈黙を置き、ハナは両手を旗信号のように動かした。それに呼応しメラニーはグッとサムズアップ、極めて機械的な棒読みで語りかけてくる。


「“あっ、そうそう、今ちょうど班員を一人募集している、いい班があるわよ”」

「お、お前ら・・・」


 おそらくどんな断り方をしようと一連の話は聞かされるのだろう。僕は頬を引きつらせるしかなかった。



──────────



「──で、なんで単独行動だとまずいんだ?」

「単純に言うと、戦闘を含む依頼の際、生還率が目に見えて低いわ。禁止ではないけど、非推奨、ってところね」

「なるほど。“おれ”も生還率を無視出来るほどスリルが好きとか他人との行動がダメとかいう人間じゃない。それで・・・今メンバーを募集している班は・・・」


 僕は目を合わせないようちらりと衝立の向こうを覗く。何か増えてる。金髪の女と黒髪の少女が増えてる。彼女らはひそひそ話をしながらこちらの様子を伺っているようだ。「ユリ」を含む不吉な単語がいくつか聞こえた気がした。聞こえないふりをしてメラニーに小声で囁く。


「アレ以外の。ていうか女性少ないとこって書いたよね?」

「一応希望は訊いとかないとね、どんな状況でも」

「一応って言ったな今」


 メラニーに渡されたリストにもう一度目をやると、そこにはもうひとつ、募集の情報があるように見える。


「コレは?」

「魔導医が一人、班を結成するため出してる募集なんだけど・・・」


 なんと、悪くないではないか。魔導士と魔導医のスマートな班。美しく手を汚さず事件を解決。僕は少し乗り気になりかけるも、なにかに引っかかる。

 あいつらは残り一名を募集中。在籍一名の班も募集中。

 メンバー構成の詳細を見る。先の兵科の紙と見比べてみると・・・

 あいつらは前衛、前衛、補助。片や戦医。

 二つの募集を合わせれば、四人のバランスの取れた突貫攻撃型の班が完成するではないか。つまり。


「・・・これで組めないほど、やばいのか」

「・・・ええ・・・」

「どっちが?」

「魔導医、ブラックバーン博士は・・・ちょっと過激な・・・その、人体実験で、南方領を追放されててね・・・さらに王都でも入れない街区があるとか、特務や衛兵司令部が発行する依頼が受けられないとか、いくつか問題が・・・」

「そっちかよ・・・選択肢など最初から無かった、ということだな・・・でもさ」


 彼女らに僕が加わるとどうなるか。前衛、前衛、補助。そして中・後衛の華たる魔導士。


戦医メディックがいない」

「おもしろいと思うわよ、バランスは決してその、良いとは言い切れないけど」

「あ、認めた」

「でも冬に来てご覧なさいよ、半農ヴィジルなんか全員鍬持ったヴァンガードオンリーな班が大活躍してるわよ」

「いやまあ、しかしね・・・」

「それに医者や治癒術士なんてだいたい開業医やってたり貴族の御用医師やってたり神殿にいたり教会にいたりして、ヴィジルになる物好きそうそういないのよ」

「ヴィジル“なんか”って・・・いや、それでもなあ・・・」


 僕はもう一度彼女らのほうを見る。

 楽しそうに話す翠緑の髪の少女、“ハナ”は十五歳前後。どこかで拾ったような錆だらけの戦鎚を背負い、シンプルな服の上に最低限の効果も期待できそうにない革製の胸当てをしている。短めのマズル、身体を被毛が覆い、頭にはフサフサで大きな耳。南東のアシャラとかいう国にいる“異人ゼノ”だ。

 もうひとりの黒髪の少女も歳は近そうだ。書類によると名前は“フウ”。宝玉を仕込んだ杖を背負うシャーマンで、南東の民族衣装を着ている。よく見ると長い髪に垂れた耳が隠れているのが見えた。やはり異人だ。

 静かに盃を傾ける金髪は“ベルタ”か。他の二人より若干年齢が高そうだ。ややくたびれた礼服を着た普通の王国の人に見える。しかし腰にはやはり南東の刀が二本。

 ・・・どう好意的に見てもヴィジルとは名ばかりの、南東アシャラからきた観光客というのが関の山だろう。明らかに面倒ごとの種だ。そんなことを考えていたら、僕が見ていることに気付いたハナが千切れんばかりの勢いでこちらに手を振った。うわあ・・・


「・・・子守り、か・・・」

「それ、あなたが言う?」


 メラニーがにやりと笑う。


「とまあ冗談は抜きにしても、実際、彼女らは新人としては優秀よ。個人の能力では認定ヴィジルにも匹敵するかもね。それにユリエルくんも」

「まあ、あの子らを考慮から抜いたら“おれ”は一人でゴロツキを相手にしなきゃならなくなる。それも勘弁だ。話だけでも聞いて──」


 走ってくる足音。ああ、来た。


「そうだよ!」

「うわっ!」


 すぐ横まで来たハナが力強く同意する。そして少し何かを逡巡した素振りをして、たどたどしく話し始めた。


「ええと、これはなんというか、運命的なやつだと思うのです!」

「そうかなあ・・・ブラックバーン博士はいいのか?」

「はかせは従順な被検体が欲しいとか言ってるので・・・」

「完全にアウトなやつじゃないか、どうして野放しになっているんだ・・・」

「と、いうわけで!」


 どういうわけだ。


「おねえちゃんの班においでよ、ユリちゃん!」

「おい、なんていった、いま」



──────────



 ・・・なんせ僕はこんな見た目だ。最初からなめられるわけにはいかない。


 三人が座る机に向かい、胸を張って強気な表情を保つ。・・・が、机の上に顔が全部出ない。仕方なく高めのスツールの上に立つ。身長を高く見せれば、足りない威厳も少しは補えるかも知れない。だが効果があるかと言われると疑問は残る。なので右手で外套をばっと開き、そのままくいっとモノクルを正し知的なイメージを演出する。我ながらかっこいい。たぶんうまくいってる。と思う。言葉もできるだけ固いのを選んでいこう。


「“おれ”は魔導士ユリエルだ。お前たちの班に加わるにやぶさかではないが、ひとつだけ条件がある」


 ユリちゃんが来た!と色めくちょっとアレなハナ。僕をまっすぐ見据える剣士ベルタ。あれ、ひとり足りなくない?

 まあいい。僕は言葉に合わせて大げさに手振りをしながら話を続ける。


「自警団員ではあるが、“おれ”の本来の目的は人探しだ。名前はおろか、生死すら定かではない。難しいことは理解してい・・・いてっ、いたたたた」


 何者かに腕をねじ上げられる。


「“加入させてください、お願いします”でしょ?」


 黒髪のシャーマン、フウだ。えっ、この子こういう子なの?これじゃ見た感じ年上の少女に無礼を働き腕をねじ上げられる子供だ。いや、あながち間違ってもいないのか?なんと情けないことか。


「気取ってる場合じゃないわよ。目的もなにも、あなた、わたし達と行かないなら一人で延々と農作業するしかないのよ」


 民間からの依頼を貼り出してある掲示板を指差すフウ。そこにあるものの殆どに“農作業手伝い募集”とある。その中僅かに“害獣駆除依頼”、“ドブさらい”なども含まれてはいるが、どれも地味なものばかりだ。その様子を見ていたメラニーは「農繁期だからね」と笑う。笑っている場合か。痛みに耐えながら、先にメラニーが言った“収穫時”の意味を察するに至ったが、もはやそんなことはどうでもいい。


「ふーちゃん、ユリちゃんをいじめないで!」


 ハナがフウをたしなめる。一番歳下っぽい子に庇われることに対し軽い屈辱を感じるが、大変困ったことにフウの指摘は的を射ている。しかしシャーマンのくせになんという馬鹿力か。これが異人か。額に脂汗が、目に涙が滲む。ちょっとこれ以上は、我慢できそうにない。


「痛い、ちょっと、まじで、ぼ、僕が悪かった、です、頼むから、班に、加入させて、ください・・・」

「“お願いします”が足りないけど、まあいいわ」


 フウが手をぱっと離す。その様子を微笑みながら見ていたベルタが口を開いた。


「私達の当面の目標は“特務”の報酬。王国臣民としての諸権利臣民権の拝領だ。人探しというきみの目的にも邪魔にはならないだろう。よろしく、ユリエル」

「は、はい、よろしく、おねがいします・・・」


 ──斯くして、僕らの短い物語は始まった。ちくしょうめ。

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