第4話 異世界
ドラゴンの危険を教えて、一緒に逃げてくれるよう頼んでみよう。
左腕を投げ、俺は走る。隊商はそこにいた。
「ドラゴンだ!ドラゴンが来るぞ!乗せてくれ!」
「嫌なこった」
馭者は日本語で、喋った。
馬に鞭を当て、隊商は全力疾走に入った。人間の足で追いつけるわけもない。
俺は、喰われた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「言葉、通じたな」
しかし馭者は、ドラゴンの危険を教えてやったにもかかわらず、乗せてくれなかった。なんて恩知らずな奴だ。
しかし、この世界にも人間がいることはわかった。別の方向に逃げれば、別の人間がいるかもしれない。
10回目で、一団を見つけた。ドラゴンがいる世界だ、群れなければ生きていけないのだろう。今度の一団はどうやら武装しているようだ。
「助けてくれ!ドラゴンだ!」
その言葉に反応し、訓練された動きで装備を整え、瞬く間に隊列が組まれた。大盾を前に、大型の弓を後列に。とはいえこの人数であのドラゴンに勝てるのか。
「お前!」
よく通る声が俺を呼んだ。
「ドラゴンは何色だった!」
色?何十回いや100回も見ている。あの真っ黒な顔を忘れるわけがない。
「黒、黒だった!」
「黒…だと」
「黒」
「黒…」
恐怖は、あっという間に伝染した。さっきまでの訓練された動きが嘘のように、剣も鎧も脱ぎ捨てて全員がそう、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。俺も彼らと一緒に走り出した。
「おいお前!」
首根っこを掴まれ、新宿にいた頃とはまるで違う重厚な俺の体が、まるで子供のような軽さで引き上げられた。豪奢な鞍は、俺を引き上げた男の身分が高いことを表している。
「何回やられた!」
「何回?」
「まあいい、まずは逃げ切る!」
やはり日本語だ。注意して見ていたが、口も日本語の通りに動いているように見える。
後ろで悲鳴が響く。人間は恐ろしいものに追われると、散り散りになりがちだ。昔、ヒグマに襲われた大学生のパーティも、それで次々と命を落としたとテレビで見たことがある。
「お前、名は!」
馬を駆る男は、後方の阿鼻叫喚は全く気にしていない様子で俺の名を聞いた。
名前。俺の名前。なんだっけ。
「もう忘れたか」
「ここは!ここは、異世界ってやつなのか?」
「異世界?ああ、そういう見方もできるか。だが全然違う!」
男は、振り返った。その顔は赤らみ、額にはツノが生えていた。
「ここは、地獄だ」
隻腕の無限転生 油絵オヤジ @aburaeoyaji
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