第3話 隻腕

剣を取り上げると、服を引き裂いて左腕を強く縛る。口にも布を詰め込んだ。この剣が日本刀並みの切れ味ならいいんだが。腕っぷしはからきしだったが、日本刀は好きだった。美しいし、なにしろ人を切るためだけに作られたという存在感がある。カタギの時から博物館に見に行くこともあったが、ヤクザになってからは身近なものだった。もちろん、ヤクザが使うのは業物なんかじゃない。そのへんの町工場で作ったような粗製乱造品だ。それでも、想像以上の切れ味があった。今はそれとこの剣が同等であることに期待するしかない。

剣を振り上げる。

振り下ろす。

簡単なものだ。今まで何十回もドラゴンに喰われたことに比べれば、我慢できる。

ごとりと地面に落ちた自分の左腕を持ち上げると、以外な重さに頼もしさすら感じる。

来た。ヤツだ。見上げると同時に、ドラゴンの鼻先に左腕を投げつける。ドラゴンは俺の腕に食らいついた。

咀嚼に少しは時間がかかるはずだ。俺は全力で走り出した。


はるか向こうに、人影が見える。隊商だろうか、馬車を連ねている。助けを求めるべきか。

いや、あのドラゴンに勝てるとはとても思えない。俺は隊商を突っ切ると、さらに走り続けた。後ろの方で、悲鳴が聞こえる。人数もいたし、馬もいた。ドラゴンも満腹になってくれるかもしれない。

息が上がるまで走って、振り返った。

そこに、絶望はいた。

喉に牙が突き刺さる。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


途中までは良かった。そうだ、あの隊商の馬を奪おう。自分の左腕を切り、走って隊商に突っ込む。馬車の馭者を剣で突き殺す。馬車を馬から切り離す。なかなかうまくいかず、時間をとられるうちに、他の商人や護衛のやつらが出てくる。関わっている暇はない。馬の背に乗り、走らせようとするが、鞍も鎧もない馬に、片腕でまともに乗れるはずもなかった。あっという間に引き摺り下ろされ、俺は初めてドラゴン以外のやつに殺された。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

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