第5話 非正規ギルド誕生

 ——ガヤガヤ

酒場中の冒険者達「オラー!!飲んでるか?タクヤ!?キース!?」

タクヤ「おうよ!タクヤ一升瓶一気飲みいきます!」

酒場中の冒険者達「わっはっはっはっは!やれやれ!」

キース「負けてられるか!俺も行くぜ!」

 ブウウウウウウッ!!

 そしてキースが盛大に吹く。

酒場中の冒険者達「ぎゃっはははは!!」

タクヤ「100年早いわ!若造が!」

キース「あんだと、変態野郎!服着ろや!」

タクヤ「祭りは神聖な場だ!服なんか着てられるか!」

キース「意味わかんねえよその理屈!」

酒場中の冒険者達「二人とも最高!!」


レイン「賑やかになりましたね、あの二人が増えてから(笑)」

ダグラス「ああ、全くだ(笑)今回の件も含めて本当に最高だぜあいつら!」

レイン「ふふっ、本当ですね全く、それとタクヤさんの脱ぎ癖はどうにかならないのですか?」

ダグラス「そう言いながら、しっかりと物を見てるもんなあ(笑)」

レイン「な!なーんの事でしょうか!?あははは!あー!忙しい忙しい!」

 顔を真っ赤にしてその場から立ち去るレイン。

ダグラス(今回の件、レインは何も言わねえが...考えすぎか?)

ダグラス「楽しんでるか!冒険者達!今夜は騒いで騒いで騒ぎまくろうぜ!」

酒場中の冒険者達「うおおおおおおお!!!!」

タクヤ「酒が足んねえぞマスター!!!」

キース「俺もー!!!」

ミアナ「アホどもめ」

 しれっと厨房からのぞいていたミアナが一言。


レイン「ええ、はい。ですからそう何度も言ってます」

電話越しの相手「ああ、分かっているが確認だ。今回の騒動、緊急クエストを選定し冒険者をクエストに2名向かわせたのは貴様だな、レイン・アルヤスカ」

レイン「はい、私です」

電話越しの相手「...分かっているのか?お前の行動はクロムンド法第17条における罰則の対象だ。それにしては、私には君の声が弾んでいるように思うのだが?」

 レインは電話越しに呟く。

レイン「...それは、街の人達がみんな無事だと聞いたからだと思います」

電話越しの相手「...何?」

レイン「私の行いは確かに間違っています。二人を危険に晒したことも事実です。それは言い訳の余地もありません。ただ、皆さんの笑顔を守りたい。その一心で法律を破るのなら...」

電話越しの相手「街の者の笑顔を守るため法律を破る...か。レイン、貴様は何も分かっていない。そのような絵空事はな...子供の考えと変わらない。貴様のような奴が社会を乱すのだ」

 レインが言葉を詰まらせた時だった。

タクヤ「それなら、私はいつまでも子供のままでいい...だろ?ごめんなレインちゃん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

レイン「タクヤさん!それにキースさん、ダグラスさんも...」

キース「おい、娘。お前は何も間違っちゃいねえぞ、俺達冒険者は民草の期待を背負ってんだ!その期待の中で死ねたら本望!どんどん使い捨てにしやがれ!」

タクヤ「キース、結構酔ってるなお前(笑)言ってる事よくわからん」

ダグラス「一人で抱え込まねえで、俺たちにも相談しろレイン」

 レインは顔を合わそうとしない。

電話越しの相手「調子のいい御託を。貴様ら、分かっているのか?緊急クエストは一般のクエストとは訳が違う、あの紙切れ一枚に何重もの法律が組み込まれる。それはクエストへの参加、参入を当事者に強制させることも可能なのだ。回りくどい様なら単刀直入に言おう、今回の件。レイン・アルヤスカはお前達に死にに行けと命令したのと同意義のことをしたのだ」

 レインの顔が青ざめる。

タクヤ「...でも生きてる」

 タクヤの言葉にレインが反応する。

電話越しの相手「...それは結果論だ。貴様が死んでいたなら、その責任をどう取るのかという話をしているのだ」

タクヤ「はぁ、さっきから終わった話をぐちぐちとうるせえな。生きてるって言ってるだろうが、全ての冒険者は民の幸福のもと尽力しなければならない。って法律がなかったか?これは全ての法律に優先される」

電話越しの相手「...上位法の第一条か、冒険者がいらん知識を」

キースとダグラス「タクヤがなんか理屈っぽいこと話してる...」

タクヤ「この法律に乗っ取ってレインちゃんは緊急クエストを出しただけだ。そのためなら、キースのいうとおり俺達冒険者を使い捨てにしてくれて構わねえだろうが」

電話越しの相手「...君は民のため自らの人権を投げ出すのか?」

タクヤ「ああ、そう言ってんだろ」

電話越しの相手「話にならないな、受付嬢がその様子では、依頼を受けるものも程度が知れるというもの」

キース「黙って聞いてたらてめえ、俺らだけじゃなくレインちゃんをこれ以上馬鹿にすんじゃねえ!」

電話越しの相手「この話は終わりだ。その娘の処罰は追って伝える。牢獄行きは免れんと思え」

キース「ちょっと待てや!てめ...」

レイン「皆さん!もうやめてください!」

タクヤ「レインちゃん...」

レイン「処罰は...覚悟していました。お二人にはそれぐらいのことをやってしまっているという自覚もあります。ですが...これから先、地下の冷たい牢獄に閉じ込められて何年も生活しなきゃいけないなんて、本当はたまらなく怖い...」

 レインは涙をこぼす。

タクヤ「...。」

 レインは涙を拭った。

レイン「ええ...分かっていますとも。今回の行動は私の勝手なエゴなんだと、ですが、じっとしてられなかった...。街の人たちが危険な目に会うのが本当に嫌だった。ですが、本当に怖いのは自分の心情を曲げてしまった時。お二人には申し訳ありませんが、後悔はしていません!牢獄行きも怖くなんてない!」

電話越しの相手「...。」

タクヤ「...聞こえるか?電話越しの野郎、お偉いさんだか国家権力だか何だか知らねえが、今ここで宣言してやる。もし、レインを逮捕しに警備隊を寄越しやがったら、その瞬間お前らはこの俺の...」

 タクヤは辺りを見渡す。

タクヤ「...いや、俺たちガストレアの敵だ。相手なってやるぞ!国の犬どもが!」

 レインの周りにはいつの間にかガストレアの冒険者達が取り囲んでいた。

酒場の冒険者1「レインちゃん連れて行くなんて許さねえぞ!」

酒場の冒険者2「そうだそうだ!」

 皆が口々に叫ぶ。

ダグラス「レイン、お前がこれだけの者たちの心を動かしたんだ。何度も言ってるだろう?誰もお前の行いを咎める奴なんていないんだよ」

 レインの目から涙が溢れる。

レイン「みんな、本当にありがとう...」

キース「おいクソ野郎!なんとかならねえのか!?」

タクヤ「ちょっと待て、お前が言うと話がややこしくなる!」

ダグラス「タクヤ...お前もさっき結構ひどいこと言ってたぞ」

タクヤ「え?本当?」

 ダグラスはやれやれと言った様子で頷く。

電話越しの相手「...何という奴らだ。馬鹿げた話を、只の一酒場の連中がたった一人の仲間を守る為に国家権力を相手にする...か。面白い、だが規則は規則、法は絶対だと言っている」

タクヤ「ちっ、この分からず屋め!」

電話越しの相手「まあ待て、法律は絶対と言ったのだ」

タクヤ「何?どういうこと?」

電話越しの相手「ふん、私も焼きが回った様だ。情けない、法律は絶対と言っただろう?緊急クエストを発令出来るのは正式にギルド認定された場所のギルドカウンターだけだ。それならどうすべきか、みなまで言わずとも良いだろう?」

 ダグラスが口をあんぐり開ける。

タクヤ「あん?言ってる意味が良く分からねえが...」

ダグラス「よ、要するにそれは...」

 ダグラスが興奮した様子で話す。

電話越しの相手「そうだ、そうすれば法の罰則には該当しない。問題は、緊急クエストを発令したタイミングがギルド設立前だという件だが...それはこっちで何とかしてやれんこともない」

酒場の冒険者1「おいおい、それって!」

酒場の冒険者2「ああ!まさか俺達ギルドの冒険者!?」

酒場の冒険者3「嘘だろ?まじかよ!」

酒場の冒険者達「うおおおおおお!!」

 歓声が町中に響き渡る。

ダグラス「ちょ、ちょっと待ってください!わ、我々はその...施設規模といい人員といいギルド登録の条件を満たせてはいません!」

電話越しの相手「なんだ?知らないのか?正規のギルドではない。この世界には形式上は正規ギルドと変わらない非正規ギルドというものが存在する」

ダグラス「非正規ギルド?」

電話越しの相手「そう、例えば他のギルドとの依頼交換や情報共有など、その他多くの制限がかかり、ほとんどギルドとして機能しないものだが、クエストに関したあらゆるものの制約が緩和される。今回の緊急クエストの件も非正規ギルドでは可能になるということだ。どうだ?私も暇ではない、決めるならさっさと決めるんだ」

 その場にいた全員が満場一致で答えは出ていた。

ダグラス「可能であるならば、お願いしよう」

電話越しの相手「いい返事だ、今回の件にあっては目を瞑ろう。ギルドに関しての手続きの書類等だが使節団の者をおいおいそちらに送るだろう」

タクヤ「何でえ!話がわかるおっさんじゃねえか!」

電話越しの相手「私はまだ27だ、おっさんと呼べる年ではない!」

 タクヤは嬉しそうに返事する。

電話越しの相手「...ああ、レイン・アルヤスカ、最後にお前に一言だけ言いたい」

レイン「な、なんでしょうか?」

電話越しの相手「偉そうに言える立場ではないが、よい仲間を持ったな」

 その場にいた皆が顔を見合わせ微笑んだ。

レイン「はい、あなたに言われなくとも!」

電話越しの相手「ふっ、次は電話越しではなく直接、君たちと面と向かって酒でも飲みたいものだね...特にタクヤと言ったか?君とはね」

タクヤ「いつでも待ってんよ、非正規ギルドガストレアでな!」

 電話越しの相手は含み笑いを残し回線が途切れた。

レイン「皆さん、本当にご迷惑をおかけしました」

タクヤ「...俺がみんなの言葉代弁して言わせてもらうぜ、良いってことよ!」

 皆はお互い笑い合い、その場には誰一人としてレインを責めようものはいなかった。


ダグラス「え〜、今夜酒場にいらっしゃる皆様!今日はめでたい日だ!何と酒に食いもんに何でも無料だー!潰れちまえ!酒好きども!」

酒場の冒険者「うおおおおおお!!!」

タクヤ「マスター!愛してるう!」

キース「俺もーーー!」

ダグラス「俺もお前らが好きだー!」

ミアナ「きっしょ」

 またまた厨房から覗くミアナがひと言。レインも楽しんでいる様子だった。



 深夜、皆が疲れて寝静まると荷物を背負い足音を立てずに店を出る影があった。

レイン「皆さん、最後まで楽しい思い出をありがとうございます。新天地でも...頑張ってやって行きますね、私は...本当に皆さんが大好きでした」

タクヤ「なら、どうして出て行こうとするんだ?」

 突然の声に驚くレイン。

レイン「た、タクヤさん!?」

 そこには腕組みをして立っているタクヤの姿があった。

レイン「...思えばタクヤさんには一番ご迷惑をおかけしました。この街の者でもないのに、無我夢中だったとはいえ、調子のいい言葉で翻弄して...彼の言うとおりです。私は自分のことしか考えていないただの子供。いえ、迷惑をかけるだけの疫病神...って寝てる!」

タクヤ「ああ、話終わった?なら戻ろう!」

レイン「...っ!戻りません!私はこのまま出て行き...」

タクヤ「怒るぞレインちゃん」

 びくっ

タクヤ「はっきり言うぞ、レインちゃんの今回の件で悪いところ、それはダグラスを頼らずに一人で独断決行してしまったこと、つまり責任というものを軽く見てしまったこと。それが電話越しのやつが子供だと言った点だ」

 レインは俯いて聞いていた。

タクヤ「レインちゃんは悪いことをしてる自覚はあると言った。それに対してその処罰も覚悟してると...だけど違う、本当はわかってない」

レイン「そんな!私はわかって...」

タクヤ「分かってない!切羽詰まった状況だったとはいえ、誰も止められなかったのは俺達みんなの落ち度だ。だけど、今回の件で罰を受けるのはレインちゃんだけだと思ったのか?」

レイン「っ!」

タクヤ「そうだ、ダグラス...それに黙認したキースや俺、他のみんなにも少なからず罰はかかる。それは分かっててみんな言わないだけだ」

 レインはまた塞ぎ込む。

タクヤ「責任ってのはな、社会に出れば常に個人に付き纏うものだ。その言葉の重みを理解してる者が本当の意味で大人になる。だけど、追われてやるのは義務や責任。追いかけてやるのは使命に夢。やることは同じでも、考え方次第で苦労にも楽しみにも変えられる。責任が全て悪いわけじゃない」

 レインは何も言わず聞いていた。

 タクヤはため息をつくと

タクヤ「っと、おっさんの慣れねえ説教はこれでおしまい。こっからが本命、山での緊急事態の情報とエルダーオオカミの出現情報の入手速度、そして現在の山の有人状況、それらを加味しての緊急クエストへの切り替え判断、そして警備隊の派遣。全てが完璧だ。長く旅をして来た経験を踏まえて言わせてもらうと...レインちゃん、君はこのガストレアにいなくてはならない存在だ」

レイン「...!」 

 レインは何も言わず、溢れるものをぐっと堪えている。

タクヤ「そんじゃ、もっとはっきり言うか?...能力云々はどうでもいい、ガストレアのみんなが、レインちゃんのことが大好きなんだ、この酒場にいて欲しいんだ」

 その言葉とともに、レインの目から堪えていた涙が溢れだす。

レイン「わ、私は...皆さんに迷惑をかけて...」

ダグラス「そうゆうところも全部含めてレインだろ?」

レイン「...!?」

酒場の冒険者1「そうそう、張り切りすぎちゃうとことかなあ」

酒場の冒険者2「たまに空回りするとことかな!(笑)」

酒場の冒険者3「天然なところが...俺は結構好き」

酒場の冒険者4「そうだよな!仕事できるオーラ出しながらの萌えポイントだよなあ!」

レイン「皆さん、起きてたのですか!?」

タクヤ「寝てるフリっていう一芝居打たせてもらったんだ、こうでもしねえとレインちゃん本当に一人で何もかも抱え込んで潰れちまうと思ったからな」

レイン「...皆さん、本当に怒ってないのですか?」

酒場の冒険者「怒ってる訳ないじゃん!逆にオオカミにびびっちまった俺たちが恥ずかしいぜ(笑)...こんな情けねえ俺達だけど、これからも一緒にギルドやってくれないか?」

ダグラス「俺からもお願いだ、ガストレアのギルドカウンター看板娘はレイン以外に務まらん!」

キース「お前とは気が合いそうだ、お前がいるなら俺はこのギルドに入ってやってもいい」

酒場の冒険者「なんでお前は上からなんだよ(笑)」

タクヤ(これはもう...俺の出番はないな)

 タクヤはいそいそとその場を後にする。

 レインが肩の荷物を降ろし袖で涙を拭うと

レイン「やれやれです...仕方ないですね!このギルドにはどうしても私が必要みたいですから、ギルドカウンターの仕事。このレイン・アルヤスカが受け持ってあげましょう!」

キース「おお!その意気だ!」

 酒場のみんながやれやれという顔をする。

酒場の冒険者「それでこそ、レインだな!」

 レインは笑顔で頷くと

レイン「...それと皆さん!」

 みんなが一斉に足を止める。レインは息を整えると

レイン「私は、ガストレアのみんなが大好きです!」


                        第5話 非正規ギルド誕生





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