第3話 緊急クエスト①

キース「ガストレアのみんなの期待を背負ってる。これは一瞬も油断できないな...ってええええ?!?」

 タクヤは酒場から持って来ていた酒を飲み歩きしていた。

タクヤ「ん?どうした?お前も一杯やるか?」

キース「やらねえよ!緊急クエストの最中だぞ!」

タクヤ「わかってんよ...飲まねえと楽しくやれねえだろ?」

キース(な、なんて緊張感のねえ野郎だ、だが)

キース「おい、タクヤ...だったか?さっきも聞いたが、どうしてDランクなんて低いクエストを受けようとした?」

タクヤ(う...またそれかよ!)

 キースの真剣な眼差しを受け、タクヤはしばらく考えた後話始めた。

タクヤ「依頼に重要もへったくれもない、AランクだろうがEランクだろうが俺はそこに助けを求める人がいるなら手を差し伸べる。冒険者ってのは、そうあるべきじゃねえか?」

 タクヤの答えにキースが固まる。

タクヤ(やっべえ〜、臭すぎたか?カッコつけすぎたような気がするんだが、これは...)

 タクヤはちらっとキースを見ると、目から涙が流れていた。

タクヤ「うお!なんだ!」

キース「...すまん。幼少期の頃を思い出してな、年甲斐もなく泣いちまったぜ。おいタクヤ。酒、まだあるか?」

タクヤ「あ、ああ」

 キースはタクヤから瓶を受け取るとぐびぐびと飲み始めた。



キース「...俺は、グラン公国のタンボって小さな村で生まれ育ったんだ。そこは特に貧しい村でいつも俺達は飢えてた。唯一の救いは土地が広かったこともあって食料の栽培ができたことだ。だが、その田んぼや畑は度々モンスターの襲来で壊されていった。退治しようにも力のない俺達じゃ返り討ちにされて終わりだ。だから、冒険者に依頼を出すしかなかったんだ」

 タクヤは黙って話を聞いていた。

キース「だが、冒険者の野郎共、畑のお守りなんてできねえってちっとも依頼を受けやがらねえ。挙げ句の果てには酒場のボードから引きちぎられてたこともあったよ。俺のじいちゃんは、そんなモンスターに壊された畑を何度も直しては壊され何度も直しては壊されってことを繰り返し、過労からくる病気で亡くなった...。じいちゃんはそれでも、いつか村を守ってくれる勇者様が現れるって死ぬ前まで言っていた」

 タクヤは少し物思いにふけながらキースの言葉を聞いていた。

タクヤ(えぇ〜!予想以上に重い過去聞いちゃって反応しづらいんですけど)

キース「俺は子供ながら悟った。冒険者なんてものは己の私利私欲のために動くクズ野郎だ。だったら俺が冒険者どころじゃねえ、じいちゃんの言う勇者になってこの世界を変えてやるってな」

 キースの目には涙はもう流れていなかった。タクヤはその場から立つと街を眺めながら言った。

タクヤ「凄えな、村のためにそこまで出来る人は中々いねえ。ましては人に裏切られても人を信じ続けられる男ときた。人の本質は変わらない、お前の心の中にも、じいちゃんのDNAは色濃く染み付いてんだろ?なら、じいちゃん以上にでっけえ男にならねえとな!」

 キースは安心したように瓶の酒を飲み干すと空の瓶を足下に置いた。

キース「じいさんは俺の誇りだ!お前の言葉、俺のここにズドンと響いたぜ!二人でやってやろうじゃねえか!オオカミ退治!」

 キースはタクヤの前に剣を差し出した。冒険者の間では両者の剣を互いに交差することは対等な者同士ということを意味する。

タクヤ「粋なことをするじゃねえか、俺みたいな俗野郎と対等でいいのか?」

キース「ぬかせ!そう言うのは気にしねえつったろ」

 二人は笑顔を交わすと互いの剣を交差した。



謎の悲鳴「キャー!」

キース「タクヤ!西の方角だ!」

タクヤ「おう!」

 二人は少し広い空間に出た。

タクヤ「確かにここから聞こえたな」

キース「俺も確かに聞こえた」

 辺りを見渡すが人の影もない。

キース「聞き忘れていたが、タクヤの役職は?因みに俺は剣士だ」

タクヤ「俺か?聞いて驚くなよ、なんと...役職なし!」

 キースがまた固まる。

キース「な、何だと!?冒険者だろ?適性検査は済ませてねえのか?」

タクヤ「いやー、それが適性検査の日に寝坊しちまって受けられなかったんだよ」

キース「なんつー間抜けな、空いた口が塞がらねえ。なら、自分でこれだって役職があるだろ?得意分野とか何か」

タクヤ「それが...自分でも得意の役職がわからん!まあ今まで適当にやってきたからそれでいいんじゃね?」

キース「なんてルーズなやつ、散々カッコいい事言っといて並の冒険者以下ってことか?」

タクヤ「おいおい、舐めんじゃねえぞ?拳で語り合うスタイルなんだよ俺は」

キース(参ったな、せめて囮で役に立ってもらうか?)

タクヤ「おい、どうするんだ?真っ向勝負か?」

 キースはニヤッと笑うと

キース「流石にエルダーオオカミの群れを真っ向から相手するのは骨が折れる。だから奴らの群れを分断する。タクヤ、活躍してもらうぜ!」

 キースの不敵な笑みにタクヤの額から汗がこぼれる。



ザック「チクショー!なんだってんだよ、Dランククエストを受けたんじゃなかったのかよ!?なんでエルダーオオカミがここにいるんだ!」

ザックの一味「き、きっと俺達をはめやがったんだこの女が!」

ザック「あぁ?リアーナ、どういうこった?」

リアーナ「...そ、そんな!私は何も、あ!」

 道に伸びた木の枝につまずき転ぶリアーナ。

リアーナ「み、みんな!」

 後ろからエルダーオオカミの群れが追いかけてくる。

ザックの一味「お前のせいでこうなったんだ!責任とって囮になれよ!」

リアーナ「ざ、ザックさん...」

ザック「あばよ、せめて最後は役に立ってもらおうか」

 ザックはリアーナを助けようとせず一味とともに走り去った。

リアーナ(ごめんなさいお母さん、私もうすぐそっちに行きます...)

 エルダーオオカミがまさにリアーナに襲いかかろうとした瞬間、黒い影がオオカミの牙を剣先で止めた。

タクヤ「当たりだ!やっぱあの時の可愛子ちゃんだったか」

リアーナ「...あなたは、あの時の!」

エルダーオオカミ「グルルルッ」

タクヤ「ちょっと待ってな、今この犬っころを一掃してやるから!」

 タクヤはエルダーオオカミを突き飛ばすと、目の前の一匹を斬りふせる。二体目三体めと鬼神のごとき強さを見せ、そこにいた全てのエルダーオオカミをねじ伏せた。

リアーナ(す、すごい。この数のエルダーオオカミを一人で相手するなんて)

タクヤ「怪我はねぇか?お姫様!いや...あまりのカッコよさに目が火傷しちまったんじゃねえか?それはすまねえ!」

 リアーナが固まる。

リアーナ(ど、どうしよう。ありがたいけど...この人、多分変な人だ)

リアーナ「は、はい大丈夫です。あの...ありがとうございます」

タクヤ「怪我がなくてよかったぜ、可愛い顔に傷でもついたらどうしようかと思ってたからな、助けたお礼にスリーサイズ...いや違う、名前とか教えてくれちゃっていいんだぞ?因みに俺はタクヤってんだ」

リアーナ(スリーサイズ!?今、初対面でスリーサイズ聞こうとした!?き、聞こえなかった事にしよう)

リアーナ「た、タクヤさんですね、私はリアーナって言います。性は...訳あって言えません。先ほどのガストレアを拠点にしている冒険者です」

タクヤ「性は訳あって言えない...か。了解、リアーナちゃんって呼ぶね♡」

 リアーナがまた固まる。

タクヤ「そう言えば、リアーナちゃんのお仲間は?一緒にいたんじゃないの?」

 リアーナの顔が曇る。

リアーナ「...み、みんなはその」

 タクヤはそれを感じ取った様子で

タクヤ「...仲間にそんな顔させるような奴は、俺がぶん殴ってパーティ解消させてやりてえとこだけど」

 リアーナがタクヤの変わり様に驚く。

タクヤ「あいにくそんな事はしねえ、俺の故郷じゃ『女の笑顔は何より勝る宝物、その為だけに男は働く』って言葉があるんだ。俺は君にそんな顔はさせない」

 タクヤはニヤッと笑うとザックの元へ走った。そして、去って行くタクヤの背中からリアーナは目を離せずにいた。


キース「タクヤの方はうまくやってるだろうな?」

 キースの作戦はこうだ。エルダーオオカミの習性は独特で、目が見えず、獲物が発する微弱な電気信号を追う特徴を持っている。

キース(だが、拾える電気信号にも個体差があり、その強弱によっては気付かない個体も存在する。そこでその習性を逆に利用し群れを分断、各個を撃破する作戦だ。俺たちは自らが持つ魔力を利用し、その電気信号のコントロールを可能にしている。そこで、タクヤには囮になってもらっている(笑)だが...俺が最も警戒するのはそのエルダーオオカミが何故クロムンドの、それにこんな密かな山に出没しているのかということだ)

キース「まさかな...」

キースは深刻な顔を残し、その足を早めた。

                         

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