第2話 突然の依頼
酒場の大男「はいよ兄ちゃん!おまっとさん!」
タクヤの前に一升瓶の酒が勢いよく置かれた。
タクヤ「くー!またこいつは偉く年季の入った酒じゃねえか」
酒場の大男「894年ものだな、確か11代目クロムンド皇帝が即位した時に作られた酒だ。こいつはリンガルの実を発酵させて作った最高の酒だぜ!」
タクヤ「おいおい、いいのかよそんな大事な酒開けちまって」
酒場の大男「いいってことよ兄弟、酒なんて飲まれてこそ意味があるってものさ。それになくなったらまた作りゃいい!」
タクヤはニヤッと笑い
タクヤ「気に入ったぜ、おっさん!しばらくこの酒場を拠点にさせて貰おうか」
酒場の大男「はっはっは!そいつはありがてえ!ゆっくりしていきな兄弟!」
拠点、それは冒険者(剣士、魔術師、聖職者など)のような政府から依頼の受け折りを許可されたものたちが主に継続して滞在する場所である。冒険者から拠点認定された酒場は依頼が多く舞い込む。達成された依頼の3割は仲介役となった依頼受付場所へ支払われるため、いかな冒険者といえども拠点認定された酒場は繁盛へと繋がるのだ。
酒場の大男「まあなんだ!俺の名前はダグラス!見ての通りここで酒場の店主をやってる。しばらくの間よろしく頼む!」
タクヤ「ああ!俺の名はミウラタクヤだ。しがない冒険者だが、こちらこそよろしく頼む。
ダグラスはゆっくりしていけとその場を後にした。
タクヤ「さて、と。拠点も決まった事だし、祝いとして今夜はこの辺で宿とって酒飲んで風俗にでも行きますか!」
むふふっとした顔で笑みを浮かべるとタクヤはクエストボードの前へ出向いた。
タクヤ「働かざるもの食うべからずってな、まだ時間あるから一仕事受けますか!」
タクヤはクエストボードを舐めるように見渡した後一つの依頼に目をつけた。
タクヤ「お!こいつにするか」
依頼の紙に手を伸ばそうとした瞬間別の手とぶつかった。
謎の女「あ、ごめんなさい」
タクヤ(な、なんて色っぽい姉ちゃんだ。これは...)
タクヤ「これはこれはお姫様、この依頼を受けるつもりだったのですかな?」
女性はしどろもどろした様子でぼそぼそ言っている。
タクヤ「え?何?とにかく、この依頼はDランクとはいえ一人では危険です。よければこのナイトがご一緒しましょうか?」
キリッとした表情で女性に手をさしのべるタクヤだったが
謎の冒険者「あーあー、悪いね兄ちゃん。こいつは俺のパーティーなんだわ〜ナンパしないでもらえます?」
後ろの冒険者達「ぎゃっはっはっは!ナイトだってよ!Dランククエスト程度でなに粋がってんだこのおっさん!」
タクヤの眉間に怒りマークが入る。
タクヤ「こんガキャー、随分と大人を舐め腐ったこと言ってくれるじゃねえか」
謎の冒険者「あん?お前俺らのこと知らねえのか?」
タクヤは首を傾げた。
後ろの冒険者達「なあザック、こいつガストレアの猛犬を知らねえんじゃねえか?」
ザック「あ?まじかよ、とんだ世間知らずじゃねえか。もう行こうぜ」
男達は依頼をボードから引きちぎるとタクヤの足元に唾を吐いた。
酒場のとある客「さっきから黙ってたら、Dランククエストをえらい馬鹿にしてくれるじゃねえかお前ら、そのクエストを達成することでどれだけの人達の生活が豊かになってるかも分かってねえ」
酒場のカウンターに座っていた男が割り込んできた。
ザック「誰だ?てめえ」
男は酒を一気するとこちらを向いた。黄色のリーゼント髪に背中には背丈ほどの長刀を携えていた。
酒場のとある客「お前の言う世間知らずだよガストレアの、チワワ?だったか?」
ザワッ
ザック「へえ、よっぽど死にてぇみたいだなお前。いいぜ望み通り殺してやるよ」
ダグラス「やめねえか!ここまでだ、この酒場で暴れようってんなら警備隊を呼ぶぞ!」
ザックは腰に据えた短剣を鞘に収めると男を睨んだ。
ザック「命拾いしたな、ここはおっさんの顔を立ててやるよ。次会った時は覚悟しとけや」
ザックは中指を立てると仲間達とともに酒場をあとにした。
酒場のとある客「お前は?あいつらの仲間じゃねえのか?」
呆気にとられる女性に声をかける。
謎の女「あ、はい。すいません...その、ご迷惑を」
女はまたボソボソ言うと店を出て行った。
酒場のとある客「ったく、あんな奴らでも冒険者になれちまうんだからな、今の世の中は」
ザックが出て行った後のガストレアはまた賑やかさを取り戻していた。
ダグラス「すまねえな、タクヤ。大事な話をしてなかった。あの連中の話だ」
タクヤはやれやれといった顔でカウンターに座り直すとダグラスが差し出した酒をつまんだ。
ダグラス「あいつらは最近ガストレアにきた冒険者パーティーだ。厄介な奴らだよ、冒険者ってだけで偉いと思ってやがる。一月ほど前にスネークヘッドってギルドの者が何人かここを拠点にしてた時は大人しくしてやがったのに、いなくなってからはこの有様よ」
タクヤ「追い出しちまえばいいじゃねえか」
酒場のとある客「それは無理だ」
男がまた話に割り込んできた。
酒場のとある客「マスター、俺にも適当に一つ」
男はタクヤの横に座ると話を続けた。
酒場のとある客「クロムンド法第21条にいかなる者でも冒険者の称号を持つ者への拠点選び、依頼受注等、定められる義務行動への強制を禁止する、とある」
タクヤ「まるで、やりたい放題だな」
酒場のとある客「ああ、だが法律はまだ続いてんだ。強制を禁止する、しかし冒険者の称号を持つ者が民間のものへ危害を加えた場合、この限りではない。ってな」
ダグラス「そう、あいつらが暴力沙汰に出られないのはこの法律のおかげでもある。まあ、限りではないってのにどれだけの効力があるのかは実際わかんねえんだけど」
タクヤ「いいんだか悪いんだか、肩身のせめえ話だな、ま、俺にはどうでもいい話だが」
タクヤはちびちびと酒をつまむ。
タクヤ「っと、そういえばさっきはなんか、かばって貰ったみたいでありがとうな、あんた名前は?」
男は酒を飲み干すと
酒場のとある客「俺の名はキーストン・ライネス。キースって呼んでくれ。それと、さっきの件は別にあんたの肩を持った訳じゃねえ、ああいう抵ランククエストの重要性を分かってない阿呆に一言だけ言ってやりたかっただけだ」
タクヤ「ああ、全くだな...」
タクヤ(やっべえ〜、俺も結構クエストのこと甘く見てるタイプの冒険者だわこれ、Dランクのクエストを取ろうとしたのも楽勝そうだったからで...)
キース「手を差し伸べる人がいるなら、それは依頼だ。ランクもクソもねえ、俺たち冒険者は仕事をするだけだ」
タクヤ「ふっ、その通りだな」
タクヤ(あぁ、話がどんどん進んでいく)
タクヤの額に汗が落ちる。
ダグラス「ところでキースはどこから来たんだ?その装備、この辺のものじゃないだろ?」
タクヤ(話題チェンジ、ナイスだダグラス!)
キース「よく分かったな、こいつはアムールに行った時に揃えた装備だ。この背中の剣は東洋って文化の刀だと、使いやすいもんで愛用している」
ダグラス「やっぱそうか、ここは田舎だけどそこそこ有名で客が舞い込むからな。紋章持ちにも会ったことはあるぞ、流石に拠点にはしてくれやしなかったけどな〜」
キース「そりゃすげえ、どうせなら紋章持ちに拠点にして貰いたいんじゃねえか?この辺も物騒そうだしなぁ」
ダグラスはニヤッと笑うと
ダグラス「ガストレアは大丈夫なんだなこれが、おーい!ミアナー!」
そう呼ぶと厨房の奥からひょこっと少女が現れた。
ミアナ「何?ダグ」
ダグラス「はっはっは!呼んだだけ(笑)」
ミアナは可愛らしい外見からは想像を絶する程に恐い顔でダグラスを睨みつけた。
ミアナ「次、関係ないことで私を呼んだら殺すから」
そう言い残すとまた厨房へ帰って行った。
タクヤ「な、なんだ今のお嬢ちゃん」
ダグラス「おっかねえだろ?ガストレアの厨房担当兼用心棒だぞ!」
タクヤ「はあ!?まじかよ、あんなお嬢ちゃんが用心棒?」
ダグラス「聞いて驚くなよ?ああ見えてミアナはも...」
バアンッ
そう言いかけてガストレアの入口が勢いよく開けられた。
受付嬢「大変です!イナビカリ山の麓でエルダーオオカミの群れが見つかりました!現在、冒険者の一行を含め多くの方が山に登っています。警備隊の要請もかけましたが、いつ到着するか分かりません...どなたか腕に覚えのある方で討伐または撃退をお願いできる方はございませんか!?」
酒場内は一瞬で静寂に包まれる。
受付嬢「...っ!これはAランク緊急クエスト案件とします。報酬は国からの礼金を含め多めで支払わせていただきます」
ダグラス「!?ちょっと待てレイン!緊急クエストだって?お前にそんな権限は無いだろ!」
レインは弱々しく笑うと
レイン「ダグラスさん、この件は私にお任せください。だから皆さん、どうかお力添えを...」
タクヤ(イナビカリ山って言ったら、あのクエストの目的地じゃなかったか?)
酒場の冒険者1「お、おい。緊急クエストつったら強制だろ?」
酒場の冒険者2「でも、俺死にたくねえよ...」
酒場中の男達が一斉に顔を伏せる。
キース「...無理もねえ、エルダーオオカミ。個々の力はそれほどだが、統率のとれた動きと群れで獲物を捕食する。特定危険生物にも認定されている奴らだ」
ダグラス「...駄目だ!クエストの虚偽の報告なんてどれだけの重い処罰があるか分かってるのか!?」
レインは俯いてしまう
レイン「...ですが、どれだけの重い処罰が待っていたとしても、この事態に何もしないなんて私には耐えられません!私はどんな罰にも耐えてみせます。だから、どうかお力添えを!」
酒場中の冒険者達がレインの言葉に言葉を失くす。
キース「どんな罰でも耐えるか...気に入ったぜ嬢ちゃん。その心意気、胸の内に響いちまった。緊急クエスト...参加に俺を指名しろ」
キースが静かに席を立つとクエストへの準備を始めた。
レイン「あ、ありがとうございます!」
ダグラス「違う、俺が言いたいのは...くそ、好きにしろレイン。どうなっても知らないからな」
レインは笑顔で頷く。
酒場中の冒険者達がざわざわし始める。
酒場の男1「お、お前どうよ?」
酒場の男2「じょ、冗談じゃねえエルダーオオカミなんて俺には無理だ」
キース(この案件、詳細がわからぬ故に、B級クラスの冒険者3人がかりでなんとかなるというレベルか。俺一人では少し辛いか?見た所ガストレアには他にB級の冒険者はいない)
キースはタクヤをちらっと見る。
キース「実力が未知数なのはこの男...」
酒場中の視線がタクヤに集まる。
タクヤ(は?待て待て、そんなめんどくさい事やってられるか!)
タクヤ「いやあ!あいにく今日は忙しくて...」
酒場の冒険者「俺たちの為によろしく頼む冒険者様!」
冒険者達が満面の笑みで送り出そうとしている。
タクヤ(ふ、ふざけんな!そんなのやってたら今日の俺の完璧な計画はどうなんだよ!?)
レイン「お願いします!冒険者様!あなたの力が必要なんです!」
レインに迫られタジタジのタクヤ
タクヤ「や、やってやろうじゃねえか!!若い女の子にここまで期待されたらおじさん年甲斐もなく頑張っちゃう!」
タクヤ(あ、なんか今の下ネタっぽくなかった?)
酒場の客達「うおおおおおお!男前だよあんた!いけるぞ、この二人ならいける!頑張ってこいよ!」
タクヤ(もう引き下がれん...)
歓声とは裏腹に意気消沈するタクヤ。
キース「タクヤって言ったか?一人よりも二人の方が心強え、協力感謝する」
キースが有無を言わさぬ様子で手を差し出す。
タクヤ「あ、ああ」
タクヤ(あぁ、俺の今夜の晩酌...)
レイン「なんて頼もしい冒険者方...それでは行きます、Aランク緊急クエスト依頼内容はイナビカリ山に現れた全エルダーオオカミの討伐または撃退。どうかご無事で!」
酒場から大規模に見送られガストレアを後にする二人。
タクヤ(あ〜、まじでめんどくさいことになった...たばこ吸いてえ)
そして、その背後から二人を追いかける影があった。
第2話 突然の依頼
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