冒険者の気まぐれ冒険譚
低浮上
第1話 旅の始まり
——冒険者、これ即ち世界中を股に掛け、自らの存在意義を世界に轟かせる者達を差す。私利私欲の為、人々の為と目的は多岐に渡り、全ての者が己が信念を持ち旅をする世界。
そしてここに、一人の冒険者がいる。
それは、目的も無く役職もない。ただ...自らの欲を満たし旅を続ける冒険者。これはそんな男の物語だ。
街人「―――――」
賑やかな商売の話、すれ違う街人達の会話、人探しと活気だった賑わいを見せるこの国は世界有数の商業都市クロムンド。商業を生業とする者が多く集まり、物資の流通が盛んなこの都市では毎日多くの厄介ごとに見舞われる。
謎の男「久々に帰って来たらなんだ、街も結構変わったなぁ」
男の名はミウラタクヤ。特に役職もない冒険者であり、ただの女好きタバコ好き酒好きと三拍子揃ったどうしようもない冒険者。特にこれといった特技もなく二回言うが、本当にどうしようもない冒険者だ。
街の商人「おーい兄ちゃん!見ない顔だな、ちょっと寄ってきな!いい物入ってんぞ!」
屋台のにいちゃんがタクヤを呼び止める。
タクヤ「お!ミールトカゲの卵じゃねえか!よく手に入ったな〜」
街の商人「これはこれは、お目が高いね〜冒険者の兄ちゃん、そう!この卵はたまたま今日の朝仕入れることが出来たんだよ」
男は嬉しそうに卵を見せびらかした。
タクヤ「だろうな〜、ミールトカゲつったら中々巣から出てこないから卵を盗み取るのは一苦労の筈だしな」
街の商人「だろ!買ってくかい?」
タクヤは少し考え事をした後
タクヤ「ん!一つ貰おう!これも何かの縁だ」
街の商人「はいよ!毎度あり!」
商人は卵を包んだ袋を手渡すと、タクヤを見送った。
タクヤ「いやー、いい買い物した。今夜の晩酌は決定だ!後は酒だな〜、この近くなら,,,」
タクヤは辺りを見渡すと一人の男に声をかけた。
タクヤ「おーい!そこのあんた!」
声をかけられた男は足を止めるとタクヤへ視線を送った。
タクヤ「呼び止めてすまねえ、少し訪ねごとをしたいんだが、この辺で一番近い酒場はどこだろうか?」
男は何も言わず、少ししてから北の方角を指差した。
タクヤ「サンキュー!それじゃ!」
タクヤは指差した方角へ走って行った。男はしばらくしてから小さなため息をつくとまた歩み出した。
酒場の客「——」
タクヤ「ここがさっきの奴が教えてくれた酒場か」
店内は街以上の賑わいを見せており、皆が思い思いに酒を片手に語り合っていた。見たところ商売人だけでなく剣士に魔術師、果てには衛兵までもが見られる。
酒場の大男「へいらっしゃい!ガストレアへようこそ!」
店に入るなり店員らしき者が近づいてきた。見たところ巨漢で声がでかい、典型的な酒場の大将といったところだ。
酒場の大男「おっと、ここらじゃ見ねぇ顔だな流れもんか?」
タクヤ「あぁ、ちょっと用事ついでにこの国に来たんだ。大将オススメの酒を一升瓶ほど、お持ち帰りできるかな?」
酒場の大男「そうかそうかぁ!ま、酒が好きなやつに悪い奴はいねえ!おすすめならいいのを仕入れてんだ、用意するから座って待ってな!」
タクヤは違いねえといった顔で空いてる椅子に腰掛けた。ガストレアはこの国の辺境でひっそりと佇む酒場でありながら、ちょっとした人気スポットであり、数多の情報が行き来する場所でもある。それだけでなく政府公認の依頼受付場所に認定されていることもあり、依頼(クエスト)を受けに来る者達が絶えないのだ。タクヤはタバコに火を灯し一服すると、ふと隅で座っている黄色の長髪の少女が目に入った。装備はボロボロで髪も痛み、みすぼらしい姿が目立っていた。そして、その少女の目には希望など写っていなかった。
タクヤ「,,,なぁ、あの子は?」
酒場の客「んあ?ああ、あいつか?小汚ねえ格好だよな全く、少し前この街に滞在してたスネークヘッドって厄介なギルドの一味だ。まあ今は違うみたいだけど」
タクヤ「違う?抜けたってことか?」
酒場の客「いんや、何でも裏切られたみたいだぜ?御愁傷様、このご時世、仲間なんて言葉だけでいつ裏切られるかわかったもんじゃねえな。ま!いい女になるだろうが、付かず触らず、君子危うきに近寄らずって...あれ?兄ちゃん?」
タクヤはいつの間にか少女の前に立っていた。
タクヤ「よお、自分が世界で一番不幸ですって顔しやがって。ムカつくんだよそういう顔してるやつ見るとな」
突然目の前に現れた男に困惑を隠しきれない少女は慌てて席を立った。その場から立ち去ろうとする少女を横目で追いながらタクヤは物思いにふける。賑やかな空間の中、タクヤの周りだけが静寂を帯びていた。
第1話 旅の始まり
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