第31話 すれ違いの夏休み
七月。
類の、十九歳の誕生日プレゼントは、類本人のリクエストで『二十四時間さくらを独占』だった。
一日、マンションから一歩も出ずに、ふたりきりで過ごした。
さくらとしてはそれでいいのかと首を傾げたが、類は大興奮で大満足だった。
大学の夏休み期間中も、類は忙しい。
帰省や旅行の計画をたてようとするも、夏休みはここぞとばかりにスケジュールが分刻みの仕事でびっしり埋められていた。
なんと、夏休みも含めた海外ロケも含まれている。『ルイは渡さない』という、社長の高笑いが聞こえてきそうだった。
一緒に行きたいとお願いしてみたものの、あっさりと却下されてしまった。
さくらはがっかりしたが、耐えた。
社長の陰謀による引き離し作戦に違いない。しばらく逢えないだけで、壊れるとでも考えているのだろうか。
ほんのひと月、逢えないだけでだめになるような仲ではない。絶対。
なかなか行けないでいた、さくらの母のお墓が九州にあるので、一緒に行きたかったのだ。類も実に残念そうに『ごめんね』と訴えるので、責められなかった。類のせいではない。
東京の実家にも、帰りづらい。ひとりだと、よけいに。
類と玲の父親が違うと聞いてからは、なおさらだ。
どんな顔をして聡子に会えばいいのか、分からない。
真相を聞きたいけれど、きっと聞き出せないだろうと思う。だったら、知らん顔をしていたほうがいい……ほんとうは、とても気になるけれど。
八月。
類は長期ロケで留守。
電話など、連絡はたまにくれるが、時差があったりして、なかなか話せない。
さくらは、ずっと京都にいた。
十六日夜に行われる、五山の送り火を部屋から眺める。ひとりで。
ベランダからは、五つすべての火が見えた。こんな眺め、市内ではそうそうないだろう。贅沢で壮観だったけれど、類がいなので味気ない。
去年は殺伐としながらも、みんなが集まったのに。
玲も、なんとなく祥子とよりを戻した感じで仲よくて、つまらない。おとななら、こんなときにお酒を飲むんだろうなと、想像してみる。
大学の課題も、早々に終わってしまった。
ふらりと関西観光をしたり、短期のアルバイトなどを入れて暇をつぶしたりした。
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