第16話 お久しぶりの全員集合②

 さくらが困惑していると、病室のドアが再びノックされた。来訪者らしい。


「類、さくらちゃん!」


 病室になだれ込んできたのは、涼一と聡子、それに玲だった。


「みんな、どうしたの。明日じゃなかった?」


 朝方、連絡したばかりだというのに、もう親が東京からやって来るとは。


「息子が倒れたというのに、仕事なんて手につかない。だいじょうぶ、類? 類ってば、返事して」


 聡子は必死の形相で、類にしがみついた。むぎゅっと。さくらは、ちょっと嫉妬した。


「……よく見て。分からない? 点滴でつながれているけど、こうして起きているし、話もできる。ただの過労」


 うんざりした顔で、類は答えた。


「ただの過労で入院しますか。肺炎でしょ、肺炎」

「疲れがたまって弱っているところに、肺炎がくっついただけ。運が悪かったんだ。もう、大げさなんだから。家族全員集合じゃん、いつぶりだろ?」

「嵐山の旅館以来だ」


 玲が冷静に口を挟んだ。


「そうか。一年以上」


 類のベッドを囲み、とりあえず無事を祝う。

 けれど、さくらはどうしても家族みんなに謝りたかった。


「聡子さん、ごめんなさい! 父さまも玲も、心配かけました。類くんを任されていたのに、この不始末。私の責任です。ほんとうにごめんなさ……」

「いいのよ。あなたのせいだなんて誰も言っていないし、責めないから。むしろ、私が反省。多忙の類を、さくらちゃんひとりに押しつけちゃった、私ほうが謝らなくちゃ」


「たまには頼れよ。一応、元同居人の俺も京都に住んでいるんだし。お前の兄だし、成人しているし」

「はいはい。あーあ、月給十万円でも兄貴ヅラ、するんだ。できるんだ?」

「言うな」


「そうだ、さくら。この本とか、部屋から持って来てくれないかな」


 手渡されたメモには、類が読みかけていた本のタイトルや、よく使う私物がリストアップされていた。


「今すぐ?」

「うん。よろしくね。急がなくていいよ。家で、ゆっくりしてきて。ここ、人が多いしさ」

「でも」


 心配ではある。一秒でも離れたくない。

 けれど、類はさくら抜きで両親と玲に話したいことがあるのかもしれなかった。さくらは類の心情を察し、渋々頷いた。


「私も、電話をかけに行きます。さくらさん、下までご一緒しましょう」

「送り狼にならないでよ、片倉さん。さくらはぼくのものだからね!」


 さくらと片倉は、病室をあとにした。

 階下に下りるエレベーターの中で、片倉が口を開く。


「どうやらルイは、さくらさんと私の仲を疑っているようで。申し訳ありません」

「そうみたいですね。でも、仲って言っても、特になにも」

「ええ。ですが、ルイにはそう映るらしいのです」


 自身は、異常にモテるくせに、類はかなり嫉妬深い。うれしくもあるけれど、類の気持ちが重いときもある。さくらは苦笑した。


「ご自宅まで送りましょうか」

「いいえ。それほど遠くありませんし、歩きます」


 くもりがちの天気が続いていたけれど、今日は晴れ空が覗いている。


「では、私はここで」


 去ろうとする片倉を、さくらは呼び止めた。


「あの、あまり類くんのスケジュールを、つめないでください。しろうとの、私なんかが発言するのは、おこがましいですけれど、特に復帰明けは。お願いします」

「もちろんですよ。仕事はなるべく大阪のスタジオか、京都ロケで済ませるように極力調整します。北澤ルイは、うちの事務所の看板タレントですからね」

「ありがとうごいます。私も、類くんの食事管理をがんばります。栄養バランス、ちゃんと食べているかどうか、もっと勉強して、チェックします」


「こちらこそ、助かりますよ。ほんとうに、ルイはよい伴侶をつかまえたものだ。羨ましいぐらいですよ、まったく……それと、例の調査も進めています。もうすぐ、さくらさんにも説明できますので。ルイが無事に退院できたら、一度自宅へおじゃましてもよろしいですか? 安全確認をさせてください」


 入院騒動で忘れかけていたが、類には隠し子疑惑もあった。


「……はい!」

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