雨になりたい
いつの間にか涙を流していた。
人前では絶対に泣かないと決めたのに。
雨の冷たさが私の心の温度と似ていて心地いい。
見てしまったんだ。雄の本性を。聞いてしまったんだ。私の泣き声を。あんなにも愛していたあの人が、この蒸し暑さよりも熱い、かといって不快感はない、熱いものをひとつの傘の下で私の知らない女と分け合っていたんだ。
腐ってしまいそうな空気に私の全てを蝕まれてしまったようだ。
そんな空気は仕事なんかどうでもいいくらいに私をピタリと覆うプライドを濡らし続け、真っ白な舞台でしか踊れない黒々とした小人たちをシワシワにして。
乾ききった都会の瞳たちは車に引かれてしまった猫を見るような目で私を見る。なら、そのまま私を800℃の熱で血肉ごと乾かしてよ。
私はようやく手に包み込んだスマートフォンに『別れよう』と、打ち込むことができた。
そのスマートフォンにはアフリカの子供たちが私に助けを求めている。耐えきれなくなって辺りを見回すと物乞いをするホームレスが。ああ、まだ軽蔑の気持ちなんてあるんだな。私はこの人達よりもましな人生だ。心の片隅に産まれたこの気持ちは私の道徳性の押し退けて、足を1歩前に運ばせ、目の前に居たあいつを、ぶった。
超短編集 まるろー @marlot
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