第50話 現場ネコのニャゴロ―
毎日なにかと忙しい我輩。
先日、とある案件で作業中にうっかりミスから肉球を削り落とすといった軽傷を負った。
幸い大出血及び肉球一部欠損のみで済んだから良かったものの、もし、削れたのが猫にとって命よりも大事な髭や爪だったならと……ふぅ、考えただけでもぞっとする。
そう言えばゴミ虫も最底辺労働者だったな。
となれば毎日が危険と隣り合わせであろう。
仕方ないな。
安全管理猫の資格を持っている我輩自らゴミ虫の作業環境をチェックしてやるとするか。
思えば即実行が我輩の信条、早速すり足忍び足でゴミ虫の店へ。
おーお、汚い汚い。相も変わらずゴミ虫は虫唾の走る顔をしておるな。
しかしこれまで何度も言ったと思うが、ヤツの仕事に対する情熱や丁寧さだけは感心せざるをえまい。
オキシゲンとやらに犯されたステン状態のフェッルムってのをチッカチカにハゲールで磨き倒す根気もさることながら、その辺りにゴロゴロ走っている鉄のバッタ(オートバイ)の装飾を、短時間で神輿(ロケットカウル及びテールカウル)を乗せた祭り使用(暴走族風)へと変化させる手腕は多くの生き物を唸らせる。それはもう、見事以外の言葉が見当たらない程に。
それに比べて店主であるゴミ虫の容姿と言ったら……トホホ以外の言葉が見つからない、
まぁ、ヤツのキモイ外観は今回スルーして、その腕前をケガなどで失うなどといったことが起きぬように我輩がひと汗流すとしよう。
―― 作業場にある道具を乗せたカートの陰へ身を潜めて数十分、その時は訪れた ――
「うー、アタタタタ。ここらで少し休憩するか」
過酷な労働でやらかしたのか、ゴミ虫は腰をさすりながらチチママのいる奥の部屋へ。
チャーンス!
先ずはヤツの作業していた場所を念入りにチェック。
おぉっ!
早速危険予備軍を発見!
半透明な容器に入ったピンク色の水。
コイツはとてもクッサイのだ。
あまりのクサイ臭いで脳がやられては大変だ。
{バシッ}
全体重を乗せた我輩の一撃!
これがクリティカルとなって半透明の容器は戦意を喪失しその場で横たわった!
{トクトクトク……}
「ニギャッ!」
(クサッ!)
容器から流れ出る多量の赤くて臭い謎の液体。
室内に充満する悪臭でこの物質が如何に超危険物質なのかということを、あの鈍感で愚鈍なゴミ虫でも流石に理解できるであろう。
悪臭撃退ヨシッ!
他の危険個所を散策しているうちに体のあちこちが悴んできた我輩。今日はやけに冷えるなと思いつつ確実に仕事を遂行する。そんな時にアレを発見!
スイッチポンで熱風を吐きだす鉄の箱(石油ファンヒーター)だ!
(本来作業場は火気厳禁だが、奥さんから調子が悪いので修理してほしいと頼まれていた為に置いてあった)
上手い具合に壁とヒモで繋がっているな。
となればこれをカチッとな……
点火準備ヨシッ!
我輩がスイッチポンしたその時だった!
「ニャゴロ―!?」
ゴミ虫に見つかった!
知らない間に戻って来たのだ!
「あれ? どうしてファンヒーターの電源が入っているんだ?」
ヤツは脇目も振らず真っ先に鉄の箱へ!
スイッチオフと同時に我輩へ手を伸ばす!
「フギャアァァァァッ!」
しまった!
急襲に驚いたため、真上へ飛びあがるなどといった凡ミスをしてしまった!
「暴れるなニャゴロー! それにしてもガソリン臭いなお前?」
完全に首根っこを捕まえられた我輩。
しかも持ち上げられている為、身体が宙ぶらりんとなり、もがき倒そうが荒れ狂うように暴れようがなんの意味も持たない。完全敗北状態とはこの事である!
「ほこりを被ったヒーターのスイッチにハッキリと肉球の跡がついてるぞ? ってことはお前……ま、まさかガソリンをまいて火をつけようとしたんじゃあるまいな? うん? な、なんとか言ってみな?」
つまんだ手を返して自分の顔の前に我輩を近づけプルプルと優しく問いかけるゴミ虫。
この愚か者の手から逃れるために一芝居うつとするか。
「ニャーン?」
クリックリの目でゴミ虫を見つめ、甘える仕草の我輩。どんな猫嫌いであろうともその魅力の前には成すすべも無し!
我ながら完ぺきな演技である。
「そんなにかわいい顔しても流石に今日は騙されないぞ? いいか、放火は重罪だ! だが、ワシもそこまで鬼じゃない。幸い引火しなかったから、この落とし前をつけることでお前を許してやろう」
長々と講釈を垂れるゴミ虫だったが、オタク特有あまりの早口でイマイチ聞き取れなかった我輩。それでも最後の”許してやろう”だけは聞き取れた。
相変わらずツンデレだなゴミ虫は。
結局のところ我輩が可愛らしくって愛くるしくって仕方ないのであろうな。
今回も甘ーい決断で許してくれるようだ。
「よし! じゃあニャゴロー、体をピンと伸ばして背伸びのポーズをするんだ」
「?」
「お前の身体を使ってだな、このこぼれたガソリンを拭き拭きっと……」
この後、バイク屋から転がるように飛び出してきたガソリン臭のプンプンする白と黒の丸まった雑巾が、たまたま通りかかった宅配便のトラックに弾き飛ばされるといった事故モドキが起きたのだが、如何せん轢かれたのが雑巾だった為、運転手も気に留めることなくその場を過ぎ去ったのであった。
※ 粘膜にガソリンはしみるので注意しましょう ※
職猫ニャゴロー どてかぼちゃ @dotekabo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。職猫ニャゴローの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます