第43話 緑のおばさんニャゴロ―


 我輩の遊び場……もとい、ルート営業内にある川沿いの公園。

 ここは様々な種族が日々多様な生活を送る場所。

 互いを尊重し、大なり小なり干渉をしつつも上手く生活を送る生物たちの理想郷。

 (ニャゴローの勝手な思い込み)


 我等猫族は勿論のこと、紳士的で心優しきいつもどこかに赤いペンキと猫の毛らしきものをつけている新井君ファミリー。

 

 エサ撒きババァが食堂へとばら撒いたカリカリを隙あらば奪い去って行くお掃除のプロフェッショナル、タヌ吉君一家。


 前足をそっと差し伸べると目にも留まらぬ早業で飛びかかり、肉球部分へと甘噛みを繰り返す、巻き糞さながらとぐろを巻くのがデフォルトの枯葉模様で頭が三角のヘビ。


 計算ずくなのか、毎度死角から突撃してそのまま寝技に持ち込み全身舐め回し攻撃の汚らしい愛情表現全開のゴン太君。


 他にも様々な種族が入り乱れ、毎日が平和に過ぎていく公園内。

 よきかなよきかな。


 だがしかーしっ!

 そんな平穏をぶち壊そうとしている種族がいる!

 そう、人間だ!


 片手にヘンテコな手帳を持ち、あちらこちらで”モンスターがどう〟とか”ゲットだぜ〟だとか訳の分からないことを口走る。

 

 まぁそれはいい。

 問題はその時に前を見ず、その手帳を凝視しながら移動を繰り返すもんだから他の種族と接触事故を起こすのだ!

 危ないのだよ人間めが!


 ついこの間もニャン吉が園内通路のど真ん中で昼寝中にロングシュート宛らの蹴りを入れられちょっとしたけがを負った。

 幸い肋骨全骨折と内臓出血だけの軽症ですんだからいいものの、もしそれが我輩ならば全治3日の大けが即入院コースだぞ?


 なめるなよ人間めが!

 貴様等はあの坂の病院がどれ程恐ろしいか分かってないのだろうが!

 万一そんな事態になろうものならばきっと我輩は我輩でなくなるに違いないのだ!

 ウニャアアァァァァァァァァァッ!!


 ……。

 失礼、あまりの恐ろしさについ我を失ってしまった。


 とにかくだ!

 この先そんな事故が起きない為にも我輩が一肌脱いでやろう。

 ”犬のお巡りさん〟ならぬ”猫の緑のおばさん〟をしてやろうではないか。

 泥船に乗ったつもりで全て我輩に任せておけ!



 この日、坂の病院へ一匹の飼い猫が緊急搬送された。

 なんでもスマホ片手に”パッチモンGo!〟をしていた人間によって激しく蹴り飛ばされたと。

 しかも運の悪いことは重なるもので、そのまま茂み奥にあるアライグマの巣へ突っ込んでしまったとか。

 激しい雄叫びが上がった暫く後、フラフラながらも茂みの中から再び通路へと戻って来たときは全身の毛を毟られ見るも無残な姿だったとのこと。

 数歩歩いたところで力なく倒れたその猫は、散歩に来ていた人間たちにより偶然発見されると即公園職員へ連絡、そして彼等の手により坂の病院へと運び込まれたのだった。

 

 皮肉にも一肌どころか全身の毛を脱いだニャゴローであった。

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