第42話 教習指導員のニャゴロー
それは我輩が商店街へ営業をしているときのこと。
偶然にもニャン吉と八百屋で鉢合わせ、休息がてら暫しここ最近の景気話をしていたときだった。
原動力がエレキテルのエコ仕様で、炭素鋼の塊を軸に成形された電車と呼ばれる人間の移動を賄う巨大な車がある。
コイツの休憩所(停車駅)が商店街には設けてあり、一度ソヤツがそこへ留まると、中からは巣の緊急事態に対応するスズメバチの如くワラワラと人間達が放出されるのだ。
なんとタイミングの悪いことに我輩達の歓談タイムと電車の休憩がガチあってしまった。
出るわ出るわ人間が蟻の子に見えるほどその数は計り知れない。
しかもこの混雑の中、走り出すバカ者までいる始末。
急ぐための小走りなら未だしも、全速力で走るとは何事だバカモノめが!
そんな無教養で自分勝手な貴様等の為に我輩が一つ指導してやろうではないか。
猛烈な勢いでこちらへと走ってくる人間の雄。
我輩は体内時計でヤツがパン屋の端から端を駆け抜けた時間を適当に計測、そこからここまでの距離を目測で算出し、脳内そろばんでこの八百屋前へ到達する時間を曖昧にはじき出す。
今だ!
熟しすぎてコバエが集りまくる黄色い果物の房へ強烈なネコパンチ!
千切れて通りのど真ん中へ皮ごと飛んで行った!
同時にサッと棚の下へと身を隠す。
そして……
{ドンガラガッシャアァァァァァンッ! ガタガタガタアァァァンッ!}
ビンゴ!
人間の雄が踏んだと同時に激しくスリップ、そして転倒のコンボ!
しかも運の悪いことに八百屋方面へ転がった為、ボーっとしていたニャン吉が巻き込まれてしまった!
「いたたたったっ! お、お前がバナナ投げやがったな! 一瞬視界に入った八百屋さんの棚から猫がバナナを蹴った姿が見えたけど、まさかこんな悪さをする為かあぁぁぁぁぁっ!」
イヤァッホーオゥッ!
全て計算通り!
走っている最中に動くものを捉えたのはいいが、色までは判別できないだろうとの推測は見事的中!
チョー気持ちイイッ!
「ニギャアァァァァァッ!」
あ、断末魔だ。
先ほどまで人間に摑まれて大暴れしていたニャン吉は急にぐったりと……あーあ。
まぁいいか。
これに懲りてあの人間はもうこの商店街でスピード違反をしなくなるだろう。
我輩から彼への交通指導はなされたのだ。
さて、次はどの人間を指導してやろうか。
この後一週間程、八百屋横の電柱脇にボロボロとなった所々赤く染まる三毛猫のぬいぐるみが放置されていたが、誰一人として気に留めなかったそうな……
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