第41話 施工管理技士のニャゴロ―


 長きに渡る蒸し暑さと、これでもかと迷惑を振りまくミンミン爆音族から解放された昨今、空気の乾燥したなんとも心地の良い居眠り日和の季節が到来した。

 相も変わらず我輩はゴミ虫バイク店のガラクタ座席部分に丸まり、ヤツの職人技術を盗んでやろうとクリックリのおめめを全開にしてその仕事ぶりを見学していた。


 が!

 如何せんこの心地よき乾いた風の召喚士が我輩の睡魔を現世へと呼び覚まそうとする。

 眠い!

 眠すぎるっ!


 こんな場合、無理は体に猛毒であるとなにかの書で読んだ気がするな。

 ここは本能のままに少しだけでも眠るとするか


 ゆっくり二つの瞼を閉じ、ウトウトと夢の世界へさぁ出発ってなそのときであった。


 {ドガガガガガガガ! ガタガタガタ!}


 大地を揺るがす激しい振動と鼓膜のカタツムリがダッシュで逃げ出すような爆音が我輩を襲った!

 一体全体何事だっ!?


 一瞬で覚醒した脳が我輩の体を操ると、先ずは首を持ち上げキョロキョロ辺りを見回す。

 無論情報を手に入れるためにだ。


 「お、始まったな。 ニャゴロ―がサボらないよう目覚ましをセットしといてやったぞ? そのかいあってお目覚めのようだな?」


 「ニャン?」


 「それは冗談だが、今日一日あの坂の病院方向からウチの前あたりまでアスファルトを張り替えるんだそうだ。とはいってもニャゴローには意味も分からんだろうし関係ないだろうがな」


 ゴミ虫は我輩へ何かの説明を始めた。が、長文過ぎて一部分しか理解できなかった。


 『ハチワレニャゴローが捌いた目覚ましい成果をかいつまんで坂の病院へ報告、左団扇であら不思議』だと?


 なめるなよゴミ虫が!

 そんな回りくどい褒め方をしなくとも直接我輩をナデナデすればいいであろうが!

 だいたい我輩とて職人魂を持つ仕事師の端くれ、コレぐらいの成果で満足する程うつけでもないわ!

 今からもっと大きな仕事を熟すからその時こそ我輩を褒め称えよゴミ虫め!



 ― ニャゴローは腰を上げるとすぐさま猛ダッシュで病院前辺りの工事現場へ向かう。到着後、真っ先に重機内操縦席へ侵入すると、今まさに操作中である土木作業員の膝に乗り、彼の目を見つつニャンと一声。するとどうだろう? 忽ちその作業員はニャゴローの虜に! 操作中にオペレーターがよそ見をすれば当然その重機は暴走し、周りで作業中の人々を次々巻き込んでの大事故へと発展! 作業員達が大パニックの中、今度は狙い済ましたかのようにエンジンがかけられたままのダンプカー運転席へ飛び込んで操作レバーをガチャガチャといじくり回すニャゴロー。荷台にあるホカホカのアスファルトが全部ブチまかれたのを確認後、今度は道路端で停止しているアスファルトカッターのスイッチオン! 序に隣にあるガウジングもスイッチオン! その先っちょはそっと黒と茶色の鉄ボンベ横へ。こうしてちょっとした爆発も起きると、警察も出動してのお祭り騒ぎに! 現場が地獄絵図さながらの事態となるものの、幸いにも死者はなく、怪我も軽度でその被害は工事関係者だけにとどまったそうな。しかも目の前が病院だった為、早期治療が可能となり、被害をこれだけでとどめたのに一役買った格好となる。しかし一番最初に原因となった重機オペレーターは心神喪失となり、暫くの間は檻のある病院へ入院するハメとなった。この結果、そもそもの事故原因が特定できず、この〝坂の病院前テロ騒動〟は迷宮入りに。よって犯猫であるニャゴローがまたしても無罪確定となったのは言うまでもない ―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る