第40話 グリルシェフのニャゴロー


 暑い日が続く最中、現在我輩はニャン吉と世界経済の行方について討論を重ねていた。

 幅はカツオ一匹程度もあろうかと思われる灌漑用水のへチに使われているコンクリート部分に座って。


 本来直射日光が当たればヤカンだフライパンをも上回るコンクリートの表面。

 どちらも美也殿に何度か押し付けられたから体がソレを覚えている。

 とはいえ、毛が焦げ落ちてほんの少し焼けただれるだけの肉体的害は少ないからなんてことはない。

 

 レンジとやらの中で10秒過ごしたときを思えば月と鼈。

 あの時ばかりは強靭な肉体を誇る我輩ですらヴァルハラの門がすぐそこに見えたのだから。


 そんなアッチッチのコンクリート部分へ座ってても平気なのかだって?

 チッチッチ!

 今いる場所は日陰となっており、逆にヒンヤリ超気持ちいいのである!

 冬場の車におけるボンネットの上部分の逆だと思っていただければ宜しいかと。


 ニャン吉などジッとしていられぬ性格ゆえ、ゴロゴロゴロゴロ場所変え位置変え冷たい部分を転がりまわる。

 おいおい、あんまりそちら側へ行くと……


 {ジュッ!}


 「ニギャッ!」


 ほら見た事か!

 言わんこっちゃないわ。  


 日陰など僅かしかないこの場所。

 丁度陰となる部分の境目あたりには輝きの床がある。

 ※台風で飛ばされてきたのか用水のへチに沿って巨大なトタン板が横たわる


 それなどまんま焼けたフライパンだぞ?

 お前も美也殿にやられて知っているだろうに、全く学習能力の無い……


 「ニギャアアァァァァァ!」


 あ、おい!

 こっちへ来るな!

 落ち着けニャン吉よ!


 {ドン!}


 「グニャッ!」


 言わんこっちゃない!

 我輩に体当たりをかましおってからに!

 

 「ニギャギャ……」


 運の悪いことにニャン吉のもがいた後ろ足がどうやら我輩のみぞおちへとヒットしたらしい。

 これはちょっと苦しいかも……


 これ以上の追加ダメージを被るのは避けたいところ。

 一旦ヤツとの距離を置いて……


 我輩は数歩後づ去りをして安全圏へと避難。

 ところが!


 {ジュッ}


 「ニギャアァァァァァァァァ!」


 あっちぃっ!

 これはヤバイやつだ!


 上半身を起こして大きく反転を敢行!

 しかし軸となった両後ろ足がスリップ!


 {ジュジュジュッ!}


 我輩大パニック!

 前足をも地面に下ろし、四肢を懸命に踏ん張ろうとするも、今度は焼けたコンクリートが肉球から香ばしい臭いを醸し出させる!

 

 あかーんっ!

 脱出せねばっ!


 我輩はその場で大ジャンプ!

 垂直に飛び上がった為にそのまま同じ場所へと落下!

 しかし多少のズレが生じ、コンクリートの角で額を強打!


 {ドッボーン!}


 そのまま用水へと落ちてしまった。

 不思議と記憶はそこで途絶えた。



 ― 台風後の川はゴミで溢れかえる。この用水も例に漏れず一面がゴミだらけに。そこにはハチワレカラーの動物らしきぬいぐるみもあったのだとか…… ―

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