第39話 安全管理者のニャゴロ―


 魅力いっぱいの人間社会。

 狩りをしなくとも容易く手に入る食料。

 暑い日には涼しく(魚屋の冷蔵陳列棚)、また寒い夜にはぬっくい(車のボンネット及びエンジンルーム内)快適設備の数々。

 そこは動物達の楽園リゾート。


 だがしかーしっ!

 彼等と共存を目指す動物達は、日々危険と隣り合わせ。


 魚屋で寝ていたはずなのに、いつの間にやら肉屋の冷蔵ケース内へ移動。

 なぜか肉体から離れた感じをうけつつ、客観的空中視点からの脳裏へ直接焼き付く映像で……ホワィ?

 しかもそこには悲しき姿となった自分自身の姿が……


 かと思えば、『キュルルル』音と同時に全身へ走る激痛!

 やはり同じように空中視点でズタボロのボロ布と成り果てた自分自身の……


 いや、これはあくまでも猫界における噂話。

 風説の類なのだ。

 ……たぶん。


 そんな犠牲者を少しでも減らす為、日夜ボランティア精神でアニマルライフサポートへと励む我輩であった。



 ― 商店街にて ―


 あっ!

 八百屋の陳列棚に山積みとなった早もぎ歯茎破壊果実が!

 

 万一地揺れでも起きたならば崩れて雪崩状態となり、大変危険ではないか!

 こいつは未然に防ぐ為にも、先に我輩の手で崩して安全確保を!


 アチャチャチャアァァァッ!

 爪を剥き出し激しくネコパンチの連打連打連打あぁぁぁぁっ!


 隣にある黒いスジの入った緑色のデカいボールもこうだっ!

 全身のバネを使って渾身の猫キック!

 

 よっしあぁぁぁぁぁっ!

 殆どがパックリ割れて中身を大放出!

 緑色のボールなどあっかい物質をぶちまけ一面血の海みたいであー愉快!

 

 巻き添え食って同様に並べられているギュッと押せばその場が茶色く変色する人間の赤子の尻みたいなピンクがかったボールが全て地面へ転がり落ちたのはまぁ良しとしよう。

 

 ふぅ、これだけやればもう安全だろうな。

 ふいの山崩れで巻き込まれる者など皆無となったはず。

 八百屋よ、もう少し安全に気を配って商売をするんだな。

 我輩がいつもキサマを助けるとは限らないからな。


 あぁっ!

 安心したのも束の間、魚屋でも瀕死となった生き物達の姿が!

 しかも口からブクブク泡を吹いての絶命寸前と違うか!?

 その上手足を全てロープで縛るだなんて……これぞ外道の所業!

 待っておれ、今助けてやるからな!


 前足でロープを……うぐっ、なんかムズイな?

 だったらパンチの要領で……イタッ!

 刺しやがったなコヤツめが!

 

 賢明な救助をしている我輩に対してなんたる態度!

 キサマなど連続ヘビーネコパンチをお見舞いしてやるわっ!

 アタタタタタタタタオワッタアァァァァッ!


 (ザクザクザクザク)


 ぎゃああああああああああ!

 肉球がズタズタの血まみれにいいいいっ!

 ※救助していたのは全身棘鎧を纏った毛ガニ


 えぇぃ不愉快だっ!

 キサマごとこの店を破壊してやる!



 ―――――――――――――――


 暫くして、魚屋主人が遅めの昼食を食べ終え店へと戻ると、そこには原形をとどめないほどメチャクチャに破壊された商品の魚介類が所かまわずぶちまけられていたそうな。

 幸いにも無事だった防犯カメラの映像を見ると、まるで暴走する掘削機のように暴れ回る一匹の猫が映っていたのだとか。モノクロ画像で色は確認できないまでも、濃さで三色に分かれた模様からそれが三毛猫だと連想するには然程時間を要しなかった。

 しかし人間達は知らない。それが三河家長女の使用するファンデーションをこっそり拝借して姿を偽ったニャゴローだとは。

 聡明な彼はこれまでの経験から姿を偽れば自身に災いが降りかからないと無意識のうちに学んだのであった。

 そして当然の如く、この日を境に商店街から一匹のリアル三毛猫が姿を消したのであった……。

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