第38話 保育士のニャゴロー②


 このところ公園の食堂(ババァが無許可で餌をまく公園のとある場所)へどこぞの犬ッコロの子供がよく姿を見せる。

 ガッつく姿を見るに、余程腹をすかしているのだろう。

 こんな世だ。

 育児放棄なのか、はてさて捨て犬なのだろうか?

 

 「キャインッ!」


 我輩の近所のみならず、公園すらも縄張りと豪語するドラ猫のニャー吉からキツイネコパンチのプレゼント。

 世間はそんなに甘くないぞとでも言いたげ。


 あまりの衝撃に子犬たちはゴロゴロと砂煙を巻き上げながら転がりまわる。

 その姿はまるでイカサマ賭博師の投げたサイコロ。


 「グルルルル!」


 ようやくダメージから立ち直ると、今度は牙を剥いてニャー吉を威嚇。

 小さくともやはり野生の生き物。

 負けイコール死の方程式は誰もが理解するところ。

 例え飼いならされていてもそれは同じ。


 「キャイイィィィン!」


 弱い者にはとことん厳しくあたる野良オブ野良のニャー吉。

 容赦なくその前足が子犬たちを打ち付ける。

 卑怯者とは彼の為に作られた言葉であろう。


 それにしても酷い事をするな。

 いくら天敵の犬ッコロとて、あまりにもそれは気の毒であろう。

 彼等はまだ子供だぞ?

 飢える辛さはキサマも知っているであろうに。


 仕方がないな。

 ここは我輩が一肌脱いでやるとするか。

 なにせ我輩は保育士の資格を持っておるのだからな。

 ※動物界に資格を有するなどといった概念はありません


 {ガサガサガサ}


 我輩が重い腰を上げた同じころ、その音は川方面藪の中から聞こえてきた。

 なんだなんだ?

 知る限りその方向にはサイコパスしか思い当たらぬぞ?

 あの暴君シリアルキラーしか……。

 ま、まさかな。


 「キャイインキャイインッ!」


 そんな事態に陥っているとは露知らずのニャー吉。

 あやすように前足で子犬たちを二転三転転がり回す。


 子犬弄りに夢中となっている彼は、その背後に近づく不気味なシルエットに気付かないでいた。

 

 「ウニャッ!」

 {ガブッ!}


 それは一瞬の出来事であった。

 黒い影がニャー吉を覆ったかと思えば、目にも留まらぬ速さで再び茂みの中へと消えていく。

 その後を追うように数匹の子犬も茂みの中へ!


 「ニャーン……ニャー……フギャァッ! …… ……」


 断末魔だ。

 あれは間違いなく息の根を止められたな。

 ご愁傷様。


 余計な事をしなくてよかったわー。

 犬ッコロだとばーっかり思っておったが、あれはどうやら新井君の子供だったみたいだな。

 よーく考えてみれば子犬よりも子ダヌキのほうが似ていたかもな。

 もしかしたらあの断末魔は我輩があげていたやもしれぬ。

 ふぅー、くわばらくわばら。



 ― 次の日、公園横を流れる川に赤い色をした珍しいドラ猫のぬいぐるみが浮いていたそうな…… ―

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