第37話 調律師のニャゴロ―


 どこからともなく脊髄を絞り取られるようなノイズが聞こえてくる。

 いや違うな?

 目頭から指を突っ込まれて脳みそをかき混ぜられるような不協和音か?


 音の発信源を追求すべく玄関扉小窓から頭のみ出してみる我輩。

 軒を並べる他の邸宅からも同じように顔を出す家主たちを目にし、それは直ぐに分かった。


 どうやら原因元はゴミ虫んところのようである。

 しかし彼は現在店先で仕事をしているのを見るに、ヤツのせいではないようだ。

 

 うーむ、ならば犯人は誰だ?

 これは謎の勢力がこのニャゴロー様に原因を突き止めろと言っておるのに相違ない。

 

 アイ分かった!

 見事解決して見せようぞ!

 そんなワケで久しぶりの探偵業をしてみるか。



 ゴミ虫本宅へと続く裏道(隣の家と小張家の境界隙間)に到着。

 勘のいいヤツのことだ。

 万一見つかると地獄の果てまでも追いかけてきかねん。

 だがらヤツの菜園兼畑付近の棚を利用して隠密行動をした。

 

 しかし所々棚に巻き付く蔓へと取り付けられた新聞紙でガサゴソと音を発してしまう。

 どうやらこれは侵入者を事前察知する罠のようだ。

 

 誤:罠

 正:新聞紙の袋をかぶせて大切に育てられている巨峰


 なめるなよゴミ虫め!

 こんなもの全て叩き落としてくれるわ!


 叩く時はガサガサするが、地面に叩きつけられるときはグチャっとなった。

 なんとチンケな罠か!

 所詮ゴミ虫の知恵などこんなものよ!

 ニャーッハッハッハ!


 しかしここで不測の事態発生!

 我輩を捉えるこの星の重力が突如ゼロに!

 

 「よ、ようニャゴローよ。裏庭でガサガサと音がするから何かと思って見に来れば……やはりお前だったか」


 どうやらゴミ虫に首の皮を掴まれ宙へと持ち上げられたようだ!

 は、放せゴミ虫めが!


 「ちょっと、なんか騒がしい……あれ? どうしたのお父さん? それにニャゴローまで?」


 「お、おう真紀子か。コイツ、お前が弾くピアノが大好きみたいだから心ゆくまで堪能させてやってくれ」


 「ふーん。 オッケーわかった! じゃあお父さん用意して!」


 

 この後、我輩はぬいぐるみ用に作られた小さな椅子に縛り付けられ、瞼を閉じられない様にセロテープで固定、更にはデカいピアノではなく、なぜか玩具みたいな電子音を奏でるやすっちいキーボードへと取り付けられたコード(イヤホン)を耳の中へと押し込まれ、これまたテーブで外れないように固定、延々娘の弾く悪魔を呼ぶかのスクリーム音色を聞かされ続けたのであった。


 皮肉にもこの時絶対音感を習得した。

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