第34話 PCサービスカスタマーのニャゴロー


 「ニャゴロー今日は大人しいわね。フフン、いい子よ」


 我輩は今、小織殿の部屋にいる。

 彼女はこの三河家長女で、猫である我輩の目にさえ超絶美しく映る。

 そのうえ才女であり、なんでもインターネッツ関連の職場で働いているとか。

 才色兼備とは彼女のような人物を指すのであろうな。

 そのせいか、なんとなーくだがイラっとする。

 ※嫉妬


 だが、彼女とて欠点が無いわけではない。

 一度逆鱗に触れ、感情が大噴火でも起こせば……ヒィ!

 あの動物界では悪魔と呼ばれる美也殿が可愛く見える程にそらもうマジヤバ恐ろしいのだ。


 何がどう恐ろしいのかって?

 それが分かれば苦労せんわ!

 思い出そうとすればマイ細胞たちがブルブル痙攣をおこすといった事実から察しろ!

 ※毎回記憶が無くなる……破壊されるほど物理的な何かをされているだけ


 「ふぅー、もう少しだわ。ちょっと一息いれよっかな」


 仕事が終わったのだろうか?

 先ほどまで小さなノートカチャカチャを弄り回していた小織殿。

 そんな彼女は大きく伸びをしながら我輩を見てこういった。


 「ちょっと下に行ってコーヒー淹れてくるからね。私の言いたいこと分かるでしょ? まだ人生、いや猫生を楽しみたいでしょ?」


 なんだと?

 〝ちょっと舌だしてコイツ苛立たせろ〟だと?

 相も変わらず不可思議なことを言うお方だな。

 

 しかもだ!

 〝ワシヤワシヤ琴割れるでしょ? まだ実践、いや熱線で叩きたいでしょ?〟とな?

 最早意味不明もレッドゾーンを振り切っておるわ。


 とりあえずだ!

 ノートカチャカチャの前へ行けば彼女の言った意味が多少なりとも分かるのでは?

 仕方がない、これも仕事だと思って素直に従うとするか。


 床で丸まっていた体を起こし、小織殿ではないが大きな伸びをした後、ノートカチャカチャのある机の上へと素早く移動。

 言われた通りに舌を出してペロリと舐めてみる。

 

 するとどうだろう?

 数字の羅列を表示しているTV部分がグニャリと歪んだ。

 もしかして苛立っている?


 暫し様子を見てみようとその場で腰を下ろす。 

 同時にカチャカチャっと音がした。


 {シャララ~ン♪}


 なんだ?

 琴と呼ばれる楽器の音がしたと思ったらTVの数字が文字へと切り替わった?

 

 {ブッツン}


 あっ!

 読む間もなくTVが真っ黒となった!

 もしかしてこれが〝琴を割る〟との意味か?

 ※偶然に起きたキーの同時押しによる強制終了

 

 ならば我輩仕事コンプリート!

 ニャーッハッハッハ!


 {タンタンタン}


 「フンフフ~ン」


 数分後、鼻歌交じりに部屋へと戻ってきた小織殿。

 彼女へ仕事の報告。


 「ニャーン」


 カチャカチャの上へ仰向けに寝そべりボディランゲージでの意思表明。

 これは完全服従の意味とは違う。

 なぜなら爪を全て出しているからな。

 我輩にかかればこんなものよとの意思表示なのである!


 {ガッチャン! パシヤッ}


 「あ……ちょ……ニャ……なにして……」


 ニャニャ?

 手にしたカップを床に落としての喜び表現か?

 ふぅ、人間とは本当に理解不能だな。


 「……そう、もうこの世に未練はないのね」


 

 どうしてだか、我輩自身の視界がこの後真っ暗となった。

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