第33話 獣医師のニャゴロ―
梅雨を終え、所かまわずレーザービームを掃射する忌まわしき天空に浮かぶ火の玉で、全身火だるまの幻に打ち震える我輩にもようやく訪れた休日。
人間ふうに言えば、サンサンと光り輝く太陽が夏の到来を感じさせる蒸し暑い週末に気怠さを覚える我輩ってな感じか。
その上うっとおしいことに、この時を逃すかとばかりに虫ケラがミンミンミンミン煩く喚き散らす。
労動物基準法により定められた有休を消化すべく、公園の食堂へと足を運ぶ。
少々バテ気味なのだが、こんな日にこそ情報収集をと体に鞭打ちなんとか目的地へと到着。
そこには既に複数の猫達が寄り合っていた。
カリカリで宴でも開いておるかと思いきや、魂の抜け殻でもそんなにだらけてはおらぬぞと言いたくなる程にだらしなく寝っ転がるいつもの面々。
そりゃこの暑さ、毛皮のコートを常に纏っている猫達からすれば堪ったものではないわな。
勿論我輩もそのうちの一匹であるのは変わりない。
ここで珍しい輩を発見。
三毛猫のニャン吉である。
本来商店街を縄張りとする彼の前へと腰を下ろし、早速情報収集を試みる。
我輩が天使の歌声に勝るとも劣らずの鳴き声を掛けようとしたその時だった。
{ドサッ!}
「グニャッ!」
遠くの方から大きな物音が!
しかも同時に猫の鳴き声がした!
瞬時に腰を上げ音のした方向へと顔を向ける猫達。
ダレダレたったのを忘れたかのような素早い動きは野性そのもの!
万が一それが新井君だったりした場合、自分たちの身が危ぶまれるから当然と言えば当然!
「ニギャ……ギャ……」
悶絶する猫のような声がする。
しかもどこかで聞いたような?
全員同じ思いなのか、声のする場所へ一斉にダッシュ!
駆けつけたその場所にいたのはなんと!
「ニャ……ニャーン……」
ニャー吉ではないか!
この小汚いドラ猫模様は間違いなく彼そのもの!
一体何があった!?
「…………」
ニャン吉が問い詰めようと猫パンチを数発見舞うも沈黙を守るニャー吉。
あれ?
なんか変じゃない?
しかも口から泡をふきだし始めたぞ?
もしかして瀕死?
ちょっとヤバイのでは?
生命の危機を感じ取った我輩は漫画界の神によって創作された間黒男の如く延命措置を試みる!
応急処置など悠長なことは最早言っておられぬ!
助手にニャン吉を従え、先ずは彼と二匹で弱った心音へ連続ネコパンチの追加ブーストを!
この時ボキッと嫌な音が数回するも今はそれどころではない!
無呼吸で力いっぱい殴ったせいか、ニャー吉の心音はなんとか正常に戻る。
少し胸の辺りが陥没したがこの際それはどうでもいい。
「ニ……ギャギャ……」
だがまだ苦しそうだ。
これは口からあふれ出る泡のせいで呼吸もままならず苦しいのだと踏んだ我輩。
その証拠に胸が紫色に変色、俗にいうチアノーゼの兆候である。
※先程のネコパンチで内出血しているだけ
ここでニャン吉に指示を出す。
右斜め四十五度からニャー吉の顎めがけて貴様の全体重を乗せた前足を打ち下ろせと。
我輩のテレパシーを受け取ったのか、彼は即行動へ!
{ゴッキン!}
ナイス猫パンチ!
ニャー吉の首が風車のように一回転!
一命をとり止めたのか、その後ぐったりと首を垂れて眠った。
これでニャー吉はもう大丈夫だろう。
ご苦労と声を掛ける為、ニャン吉の近くによると彼は頻りに右前足を気にしていた。
ペロペロペロペロ何度も舐め回すその右前足に目を向ける我輩。
うーん、なにか違和感がある。
あっ!
よーく見ると大きいじゃん!
彼の顔と同じぐらいビックじゃん!
※心臓マッサージの時に複雑骨折してバンバンに腫れあがっているだけ。しかも打ち下ろしで更に悪化
なんと羨ましいことか!
その大きさならどんな相手も張り前足一発で沈められるじゃんか!
ハイタッチの意味を込めてその大きな前足へ我輩渾身の一撃!
{バチッ!}
「ニギャッ!」
余程嬉しかったのか、ニャン吉は飛び上がって近くの茂みへと落下!
同時に激しい咆哮が!
「キャルルルルル!」
{ガッシャンバタバッタン!}
その音にビビった猫一同は一斉に散開!
あっと言う間にこの場から姿を消した。
え?
我輩はどうしたかって?
実はこの時どさくさに紛れて近くの木に登り、事を最後まで見届けていた。
実はニャー吉のヤツ、新井君に追われていたようだな。
逃げおおせるも、今我輩が登っている木に激突して大ダメージを負ったようだ。
で、ニャー吉を見失った新井君だったが、ニャーニャー騒ぐ猫軍団に気が付き近くで様子を伺っていたみたいだな。
いくら強いとは言えこの数相手だと流石に自身も無傷では済まないからな。
まぁ、賢明であるな。
そこへニャン吉が運悪く飛び込んできたからさあ大変!
ターゲットがニャー吉からニャン吉へと変更されたのだ!
そしてその後彼は……ちょっと言葉では言い表せないかな。
そうだな……鳥になったとでもいっておこうか。
頭上にまあるく光る輪っかを輝かせながら空高く飛んで行ったとだけ言っておこうか。
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