第31話 フードテスターのニャゴロ―


 蟲蠢くじっとりねちょねちょ不快レベルコンプリートの季節が襲撃してきた。

 脱衣できない我輩猫族には体温調整が難易度レベルマックスで体調も崩しやすい。

 そして何よりも、物が腐り易くて命の危機に直面する機会がグンと増すのだ。

 特に拾い食い(ゴミ漁り)が日々の糧となる野良にとってこの問題は避けて通れない。


 『食中毒』


 御屋形様(三河家奥様)と一緒に見るTVショーではこのワードが頻発。

 同時にサルマネだー(サルモネラ)やオイッスゴローちゃん(O157)などの言葉も。

 美也殿といつも見る番組では決して手に入れられぬ貴重な情報。

 ※娘の美也は警察24時や時代劇専門でニュースなど一切見ない


 頻りに注意を促されるのは主に生食。

 例えそれが肉であろうが魚であろうが。

 

 何にしろこのままでは我輩の仲間たちが非常に危険。

 てな訳で明日から早速商店街の各店舗へ品質管理調査へ赴くとしよう。



 ― 肉屋にて ―


 「お、ハチワレの猫なんて珍しいな? あれ? お前ってもしかしていつも服着ているニャンコか?」


 電柱の陰に隠れて様子を伺うつもりがどこぞのバカ犬の遠吠えに驚き飛び出したところを肉屋の目に付き即確保される。

 我輩としたことがなんたる不覚!


 「てっきりいつも悪さする三毛猫がまた現れたのかと思ったぞ? お前なら大歓迎だ! ささ、特製牛骨スープをやるから一緒に来い」


 店舗内へ監禁か!

 その上毒で我輩を殺そうというのか!?

 なめるなよ人間め!

 断じて口になどするものか!


 「ほーれほれ! そんなに嫌がらないで飲んでみろ? なんてったって家の自信作なんだから!」


 肉屋主人は指先をその毒液に突っ込むと、今度はそれを我輩の鼻先へとこすりつける。

 固い意志の元、絶対に口にするものかと思いつつも本能がソレを拒否する!

  

 {ペロッ}


 無意識のまま鼻を舐めてしまった。

 勿論毒液はそのまま口から体内へ。


 ってあれ? 

 コイツ美味いぞ?

 もしかして食べ物か!?


 いつも仕事熱心な我輩に対しての報酬か?

 なーんだ、だったら最初からそう言えバカモノめが!


 そうと分かれば話は早い。

 一気に飲み干すべく顔を近づけ舌先を毒液の中へ!


 {ジュッ}


 ニギャアァァァァァァァァァッ!

 あついあついあついあついあついぃぃぃぃっ!


 舌をねじ切られるような痛さに耐え切れず、転がりのた打ち回る!

 悶え苦しみ足元もおぼつかないまま肉屋を飛び出し闇雲に走り出す!


 そして……


 

 ― 八百屋にて ―


 「あれ? お前は着ぐるみの猫じゃないか? やけにヨレヨレして元気がないな? いつも儲けさせてもらってるから今日はお礼をするよ。丁度今コーンスープが出来たばかりなんだ! ほうらこれを飲んで体力回復へ……」


 以下肉屋と同文



 この後同じようなやり取りが魚屋やウナギ屋でも交わされた。

 出来たばかりの煮つけや焼き上がったばかりの蒲焼を口の中に入れられ、我輩は違う意味で舌が溶けてなくなる程の大火傷を負ったのであった。


 それでなくとも猫舌だっつーの!

 ほんとにもうっ!

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