第21話 危険物取扱責任猫ニャゴロー


 いつも思う。

 ゴミ虫の扱う粗大ごみ(バイク)から臭うクッサイクッサイ刺激臭の根源は何かと。

  

 我輩思うにあの〝まあるい提灯(燃料タンク)〟が臭気発生元ではないかと。

 鉄で出来たガラクタの骨組み中心付近にちょこんと乗っかっているあの提灯だ。

 

 根拠だと?

 勿論ある!

 ※根拠どころかそのクッサイガソリンへ引火させようとした経験あり


 以前あの提灯トップ付近にある金属製の蓋が外されていたことがあった。

 そこへ砂糖とか呼ばれる微粒子を凝固させた四角い固形物を数個放り込んだ時のことだ。


 何のためにそんな事をだと?

 そんなものなんとなくに決まっておろう!?

 ニュータイプである我輩の直感がそうしろと語り掛けて来たのだから仕方がないだろうに!

 ※熱によって溶けた砂糖がエンジンに悪影響を及ぼすからダメ!


 ともかくだ!

 その時にフワ~ッとあのクッサイ臭いが我輩の可愛らしい鼻を刺激したのだ。

 まるでハリネズミの臭いを嗅ぐつもりで鼻を近づけたのはいいが、距離感を間違えて触った時のようにザクザクザクっとな!


 これはあくまでも推測なのだが、ゴミ虫はあの提灯で爆弾を作っているのではないのか?

 この手の臭いがする物質は液体固体を問わず、非常に危険な気がする。

 きっと体組織を再生不可にまで破壊してしまう類の物。

 そういった物質は総じて引火性が強い、或は毒性があるはずとマイ細胞たちが騒いでいる。

 ※過去に何度かシンナーやガソリンなどを浴びて激痛にのた打ち回った実体験からの推測


 ってことはだ、ゴミ虫は商店街でテロを起そうとしているに違いない!

 そんなことになれば我輩の仕事先が丸ごと異世界にでも転移しかねない!

 これはなんとしてでもこの前足(手)で未然に防がなければなるまいて!


 そうと決まれば話は早い。

 早速行動を起こすとしよう。



 ―― 霊の行動する刻 ――


 辺りは真っ暗、物音一つしない程に街全体が寝静まっている。

 何食わぬ顔でゴミ虫屋敷の本宅縁側から侵入(いつ何時も鍵が開いている)。

 重いガラス戸を動かしたことにより右前足首を捻挫するも今はそんなのに構っていられない。

 一刻も早くゴミ虫がこれから起こすであろう暴挙を防がなければ!


 いつものように廊下押入れから屋根裏へ侵入、そのまま続きになっている店舗へ。

 思った通りゴミ虫は不在だな。

 フフフ、では早速仕事に取り掛かるとするか。


 屋根裏の隙間から店舗骨組み剥き出しの天井梁へと移動、そこからまずカチャカチャマシーンのある棚へと飛び移る我輩。


 トントントーンっとな!

 あっ!


 {ズキンッ!}


 着地の瞬間先程やらかした右前足へと走る激痛!

 そのまま奈落の底へ!


 {ドッタンバッタン!}


 そして……


 {ドップン}


 なにか液体の中へと落ちた! 

 これは一体!?

 その直後!


 「ニギャアァァァァァァァァァァッ! ガハッグァッハッ!」


 痛い痛い痛い痛いっ!

 体中の穴という穴から液体が侵入する!

 その激痛といったら文字に表せない程だ!


 「なんだ! 何事だ!?」


 あまりの騒がしさに駆けつけてきたゴミ虫。

 そして彼の手によりまたしても命を救われる我輩。


 「何かが廃液のドラム缶の中に落ちやがったな……ってニャゴローじゃないか!?」


 首の皮一枚で怪しい溶液の中から持ち上げられたかと思うと同時に反吐の出るような第一声。

 なめるなよゴミ虫めが!

 これも貴様の謀り事の一つだろうに!

 まんまと罠に嵌ったわ!


 「それにしても酷い有様だなお前……ん? 爪になにか引っかかってるな? これってマッチか!?」


 しまった!

 我輩の秘密道具がヤツの目に!

 ここはなんとしてでも誤魔化し通さねば!


 「グハッ……ニャ……ニャー……ガクッ」


 首を斜め四十五度に下向け糸の切れた操り人形の如く項垂れる。

 このニャン斗神拳奥義〝死んだふり〟でヤツの隙を作り、そこで一気に逃げ出す算段だ。

 まさにパーフェクツ!


 「おーお、こんなんになってしまって……可哀そうなニャゴローよ。外から一切見えない中庭の片隅でお前を弔ってやるから成仏するんだぞ。偶然にも何者かが俺の仕事場を燃やそうと思って訪れたはいいものの、予定外の事故で未遂となり、慌てふためいているときに落としてしまったであろうマッチがこれまた偶然にもお前の爪に引っかかっていたからこれも一緒に……な?」


 

 深夜未明のこの日、小張バイク店本宅中庭で盛大な焚き火が行われた。

 火事と勘違いした近所の通報で駆けつけた消防隊員は、後に全員こう証言する。


 〝肉を焼くいい匂いがした〟


 と。

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