第20話 探偵のニャゴロ―


 三河家裏庭で猫の死骸が発見された。

 それはまだジューシーで肉々しく、すぐにも起き上がるのではなかろうかと思える程に。


 そもそも死体といえば、その顔は目をつぶった穏やかな表情が普通なはず。

 ところがだ!

 誰の目から見てもその亡骸は苦痛に歪んだ表情を浮かべているのである!

 

 まるでその外観から鬼と呼ばれ、この国の人間どもにいわれのない罪で征伐されてこと切れた外国人のように!

 

 余程恨めしかったのだろうな。

 彼は目玉をひん剥いた形相て何かを訴えているかにも見えた。

 ……ヒェ。


 我輩は思った。

 これは間違いなく他殺だと!


 となれは他の猫にもこの先魔の手が差し向けられるやもしれぬ。

 何としてでも早急に事件解決をしなければ!


 正義感の強い我輩は公園にて早速捜査本部を立ち上げる!

 流石に今回は猫族だけにとどまらず、新井君やゴン太くん、それにラッコなど諸々にも手伝ってもらうことに。


 先ずは情報収集と、各々に様々な場所へ散らばってもらった。

 我輩はもう一度現場へ戻り、現場検証を試みる。


 

 現場到着後、死体のまわりの人だかり(二人)にやや慄く。

 そこにはなぜかゴミ虫が。


 「み、美也ちゃん……オェ。 いくら俺が猫の生態に詳しいからと……ゲぇ。 こ、これはちょっとキツイかも……グフッ」


 「だ、だってさ、お母さんったら酷いんだもん! 〝動物はアンタの専門だから責任もって処理しなさいね〟って能面みたいな表情で言うんだよ? こ、殺されるかと思ったもん!」


 「だからッといってなんで俺が……ゲロゲロ」


 「しょうがないじゃん! おじさんしか頼める人いないんだもん……うわあぁぁぁぁぁぁんっ!(ウソ泣き)」


 「わ、わかったわかったから! 泣かないでよ美也ちゃんっ! お、おじさんがやるから任せとけって! だからねっ……ゲェェ」


 どいうやら死体処理はゴミ虫が担当したようだ。

 それにしても美也殿はナゼ彼に?

 そもそも彼女自身は色んな意味で動物を愛しているから死体処理などわけなかろうに?


 我輩は不思議に思いつつ、捜査も兼ねてゴミ虫の近くへ。

 それにしてもクッサイな?

 なんとも言えぬ悪臭の発生源はキサマであろうゴミ虫よ?

 もう少し清潔を心掛けてだな……!


 我輩がゴミ虫を睨みつけようとしたその時だった。

 彼の手によって持ち上げられた猫の死骸が目に飛び込んできた!


 「オゲエェェェェェェェェェェェェェェ! ゲロゲロゲロゲロゲロ!」


 「あっニャゴローお前いつの間にっ!? 気分最悪なところにゲロの追加しやがってこの野郎っ!」


 そこには目を覆いたくなる光景があった。

 既に腐敗が進み、顔一面に蠅がたかって真っ黒に!

 体組織の一部も剥がれ落ちて至る場所にヤツラの子供(蛆虫)が大量に蠢いている!

 しかも……超クッサイっ!


 これに吐かずしてなんに吐く?

 クサイのはゴミ虫だけではなく、その死骸も相当な物であった。

 いや、それ以上にそのビジュアルが……ゲロエオロエオロエオロエロ


 「お、おじさん序にニャゴロ―のゲロもお願いね。この子には私が後で言い聞かせておくから」


 「ちぇっ! 美也ちゃんには敵わないな? ……それにしてもどうしてこんな場所で死んでるんだろうな? 普通猫の死に目には会えないって言われているが、それはひっそりとした場所で孤独に死んでいくのが定説だからだけれど、コイツは一体?」


 「それなんだけどね、家の周りで何度か白いウンチを見かけたの。あれってもしかしてホウ酸団子かなんかじゃない? あくまでも仮説にすぎないけど、それを猫が誤って口にしてさ、コロリといったとか?」


 「ホウ酸団子ってあのゴキブリを駆除するやつかい? そういえば以前ニュースで散歩中の犬が食べて死んだって言ってたのを見たなぁ。もしかしてだけど野良猫駆除の為に意図的に誰かが撒いたとか?」


 「うーん、はっきりとは言い切れないけど、野良猫に迷惑している人は結構いるみたいなの。どこでもウンチするし、しかもそれが超クッサイしねぇ。そもそも公園で野良猫に餌を与える無責任な人のせいで猫が増えたのが原因なのかもね」


 なに!

 犯人は餌マキババァだとな!?

 

 二人の話す全てが理解できなくとも、分かる単語の一つ一つを組み合わせれば自ずと答えも見つかる。

 このニャゴ田一ロー助はとうとう答えに辿り着いたぞ!

 早速公園に行って皆に報告をせねば!

 さぁ急げっ!



 「だったらニャゴローも気を付けないと、アイツバカだからホウ酸団子を見つけたら白子と勘違いしてたべちゃうんじゃないかな?」


 「そうかもね。一応あとで帰ってきたらゲロのお仕置きも兼ねて体で覚えさせるよー。それとありがとねおじさん! 愛してるよ!」


 「まったく三河家の面々には敵わねぇなぁ。美也ちゃんにもその血が流れてるのがありありと見て取れるや!」


 「えっへへー! 誉め言葉だととっておくねー!」



 この後公園にて大量のホウ酸団子中毒が発生する。

 不自然に集まった様々な野生動物がその餌食となった。

 そう、これはニャゴロ―が操作報告と銘打って一同に動物を集め、皆に事件の詳細を伝えた場所。

 

 ここで殺猫事件は無事解決した打ち上げ兼ささやかなパーティが催されたのだ。

 各々持ち寄った食材を分け合い、別種族との交流会も兼ねて。

 言うまでも無くその中には多数のホウ酸団子も含まれていたのだった。

 ニャー吉とニャン吉の手によって……

 ※バカな二匹は素直に饅頭と間違えただけ


 この時ニャゴロ―は偶然にもその難を逃れたのだったが、帰宅後すぐ美也の手により殺されたほうがマシとも思える教育を施されたのであった。

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