第12話 衛生管理者ニャゴロー②


 『ちわーっす!』


 元気に挨拶をしながら顔を出したいところだが、とてもそんな雰囲気ではない魚屋。

 一面真っ赤な水に覆われ〝血うわっス!〟てな感じでチョー悲惨。

 何が起きたのだ?


 暫し手前の電柱陰に潜み偵察……いや、情報収集。

 事前情報の入手如何では今後の仕事に大きな影響を与えるからな。


 すると店の奥から店主の怒鳴り声が! 

 それはこの町を吹き飛ばすほどに激しく、弱き者達ならば震え上がって失禁間違いなし!


 {ガシャンガシャン! ゴロンガチャガチャッ!}


 「待ちやがれっ! こんの野郎っ!」


 店内から目にも留まらぬ速さで飛び出してきた四色の毛糸ダマ!

 まさかあれは血染めのニャン吉!?


 少し遅れてそれを追いかけ二本足をドリフトさせながら店を後にする店主!

 その手には……人斬り包丁がっ!

 ヒィッ!

 ※マグロ解体用


 {ジョロ……ジョロロロ}


 なんと失禁したのは我輩!

 小動物にも劣る弱きものとはこのニャゴロー自身!

 あうぅっ。


 どうやら一面の赤い水はニャン吉の血?

 だとすれば致命傷を負っているではないか!

 直ぐに助け……いや、我輩には関係あるまいて。

 

 危ない危ない、つい正義の魂が顔を覗かせそうになったわ。

 なにもニャン吉如きの為、この我が身を危険に晒すまでもなかろう。

 まぁあれだ、野草の一本ぐらいは供えてやるから安心せい。

 

 なんだか興ざめしたな。

 今日は魚屋のずさんな衛生管理に対してビシッと言ってやろうと思ったのだがまぁいいや。

 それにしてもニャン吉は一体何をしでかしたのやら……。



 実はこの日、魚屋へ一本のワインが届けられた。

 それはお得意様からで、日々新鮮な魚介類を届けてくれる店主へ感謝の意を込めて。

 しかも複数店が協力しての相当に高価で貴重な年代物。

 頂いてすぐに店主が方々へお礼の電話をしている最中、事件は起きた。

 

 いつものように魚の祖裾分けを頂こうと店を訪れたニャン吉。

 クレクレアピールで主人へ甘えようと近くのレジへ大ジャンプ!

 この時目測を誤り傍にあったワインへと体当たりをかまして地面へ落としたのだ。

 

 それを見た店主は、ここ最近暴れ回っている三毛猫(着ぐるみを着たニャゴロ―)と勘違いをし、間違いなくわざとやったのだと憤慨、遂には成敗するつもりでニャン吉を追い回す事態へと陥ったのだった。

 つまり一面の赤い水とはブチまけられた高級ワインであった。

 

 そして数十分後に戻ってきた店主の手には、高級ワインのついたマグロ包丁があったのだった。

 あれは一体……。

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