第10話 整備士ニャゴロー


 「お、ニャゴローじゃないか? 俺の仕事中に堂々と顔を見せるのは珍しいな?」


 そう、我輩は今、ゴミ虫の仕事場にお邪魔している。

 コヤツはキモい上にムカつくし、常に中華料理屋の換気扇臭(加齢臭)を身にまとっている。

 見る度にこう思う。


 〝死ねばいいのに!〟


 それは我輩に限らず、この町に住む生き物全てが抱く感情だろう。

 一緒に生活しているチチママとチチ娘はどうかしていると思う。


 だがしかぁーし!

 仕事に傾けるその情熱は是正に職人芸!

 人生修行なりを地で行く男、更には小張家を背負って立つ大黒柱の正式名ゴミ虫!

 他人では気付かぬ細部に至るまでお客様目線で仕上げるその出来栄えは誠意&誠実のテンコ盛り!

 あんびりーばぼぅでえくせれんつなのである!


 悔しいが、その部分だけは認めざるを得ない。

 その証拠に、こんな小汚い店だが仕事の依頼が絶えないのである。

 店頭に並ぶ商品(オートバイ)も回転が速く、それだけ多くの仕事を熟している証拠。

 

 それにしてもあんな粗大ごみみたいな商品(高価な旧車)をよく買うな?

 人間とやらは本当にモノ好きである。

 ※扱っているのは二輪車全般だが、店頭には高価な絶版二輪車が並んでいる


 そんなゴミ虫の仕事を観察及び吸収する為に今日はこの店を訪れたのだ。

 勘違いするなよ!

 キサマに会いに来たわけではないからそこんとこ履き違えるな!


 「今日はどんな悪戯をしにきたんだうん? お前が大人しいとこの世が終わる気がしてなんか怖いな」


 おとな……し……い……だと?

 まさか大人しいと言ったのかコヤツは!?

 なめるなよゴミ虫めが!

 我輩とてジッと耐えることもあるわ!


 「ホント、おまえは見た目だけならカワイイのになぁ。まぁ性格はこの油で真っ黒のウエスより汚いがな」


 ぶっ殺すぞゴミ虫めが!

 我輩は人語を解せないと思ったら大間違いだぞ!?

 なにが〝本だし酢和えは目玉にかいわれ菜っ葉、魔性カブラでマカロンウエハースとリキュール〟だ!

 それぐらい分かるわ!

 とはいえ、言っている意味は今一つ理解できないがな!


 「ハハハ! まあ、大人しくしているんだったら大歓迎だぞ!」


 

 こうしてニャゴローは一日中ゴミ虫の仕事ぶりを観察していた。

 店の入り口付近に置いてある古臭い廃品(超絶高価な絶版二輪車)の座席部分で。

 この場所は道路から丸見えな為に道行く人の目に触れ、行き交う人々の足を止めさせた。


 更にはニャゴローを撫でたり抱いたりしたいが為、店内へと足を踏み入れた人々の中にはついでにバイクを購入する兵までが現れたのだ。

 一台数百万円の絶版車から庶民的なスクーターまで、その売り上げは一日で昨年一年間を上回ったのだとか。


 こうしてニャゴロ―は知ってか知らずか大嫌いなゴミ虫の商売を手伝ったのであった。

 時々ニャゴロ―に対して見せるバイク店主人の優しさは、こんなところから来ているのかもしれない。

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