第9話 介護士ニャゴロー


 ― 前回から引き続きの老人ホーム内にて ―


 カブト虫の子供たちを大解放した我輩は、身を低くして柱や物陰に身をひそめつつ更に奥へと営業活動を再開。


 それにしてもここは変な臭いが充満しているな。

 まるで死神が放つ冥界に漂う異臭のようななんとも言えない……うーむ。


 あっ!

 やっべ人間だ!

 見つかった!


 ……あれ?

 どうした?

 我輩を見ても騒いだりしないのはナゼ?


 お!

 よく見ればコヤツは相当なジジイではないか?

 ハハァ~ン、さてはボケてるな?

 それならばキュートな我輩を見ても感情の起伏も起きないであろうな。


 それに改めて周りを見ればジジイババアばかりではないか?

 ここは若者が全て出稼ぎに行ってしまい、老人だけが残された過疎の村か?

 

 なるほど、それならば堂々と歩いても大丈夫そうだな。

 ヤツラは同じ人間から相手されないゆえ、食べ物一つで構ってくれる動物へとことん甘いからな。

 ※ニャゴロー独自の考え


 そこから階段を使って更に上の階へ。

 こちらは逆に誰一人として歩いている者がいない。

 うーむ?


 それにしても中は坂の病院みたいな造りとなっておるな。

 拷問部屋によく似た小部屋が幾つもある。

 ドレドレ、室内はどうなっておるの……うおっ!


 ヒイィィィィィッ!

 こ、これはっ!?


 体内へ数えきれないぐらい管をブッ刺されている人間がいる!

 ここは拷問部屋ではなく改造人間部屋か!?

 ※酸素吸入や尿管カテーテル


 しかもこの部屋だけではないぞ!

 隣部屋や向こう部屋まで全て同じような改造人間が!

 既に生きているのか死んでいるのかさえ区別できぬほどに沈黙を保つ老人達。

 まるで魚市場のマグロみたいであー愉快!


 いや違うわ!

 こ、こうしてはおれぬ!

 今すぐ助けてやるからな!

 そうれっ!



 この日、坂の病院医院長が経営する老人ホームで大惨事が起きた。

 それは、寝たきり老人ばかりを狙った無差別殺人未遂事件。

 

 幸い、誰一人として命を失わなかったものの、抜かれた管の近くから無数のひっかき傷が確認される。

 しかしそれ以外、何一つ証拠のないまま事件は迷宮入りとなった。


 ところが!

 暫くして襲われた老人達に奇跡が!

 彼等はそこら辺りにいる只の年寄りと何ら変わらなくなる程まで超人的に回復。

 これは坂の病院がフルポーション(ゲームでの完全回復薬)の開発に成功したとの噂が忽ち商店街を駆け巡る!


 こうして坂の病院は評判を落とすどころか、奇しくもこの事件によりより一層信頼を得る結果となった。


 事実、老人達のひっかき傷跡からは無数の未確認な菌を検出。

 病院内の極秘ルームで調査の結果、それらの効用により寝たきり老人が回復したと判明!

 

 しかしこの事実は決して表へ公表される事はなかった。

 実験体である一匹の猫が突如として大暴れをし、貴重なデーターを破壊してしまったのだ!

 結局菌の培養どころかそれ等が何処から来たのかさえも突き止められないままこちらもまた迷宮入りとなった。


 因みに坂の病院で実験体となる猫と言えば彼しかいないのはもう御分りだろう。

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