第7話 鑑定士ニャゴロー


 いつもと変わらぬ日々。

 なんと幸せな事か。


 この商店街で商売をしておる人間どももさぞや我輩に感謝をしておるだろうな。

 なぜならこのニャゴロー様が陰でコソコソ仕事をしているからこその平穏。

 よーく感謝をするのだぞ。


 

 そんな時、とある作業員達が目に留まった。

 眼を細くして見ていると、彼等は頻りに肉屋へと出入りを繰り返している。

 その意味を見極める為、まずはウオッチングからスタートである。



 「ではご主人、このサーバー上部にタンクをセットして完成ですので一つお試しください」


 「おぉ! ご苦労さん! いつも学生さん達がコロッケを買い食いしてくれるんだが、よく喉に詰まらせるみたいでね、せめて水ぐらいは無料でと思ってねー」


 「お優しいですね。そりゃきっと喜ぶこと間違いなしですね。ささ、一杯どうぞ」


 「うまい! 出来れば表に設置したいんだが……」


 「延長コードを取り付けましたんで大丈夫ですよ! 足にコロコロもついてるからご主人お一人で簡単に動かせます」


 「それはありがたい! ではこれからもよろしく頼むよ」


 「ありがとやしたーっ!」


 

 うーむ、ヤツラの会話がここでは聞き取れん!

 思うにあのヘンテコなロボットみたいなのを購入したのか?

 それにしてもあれは一体……。

 

 「なるほどねぇー。まぁ、片付けるのは店終わるときでいいか。さーってと、夕方用に仕込みをするか」


 お!

 肉屋の主人が店の奥へと消えて行ったぞ!

 チャーンス!


 こっそり店頭に設置されたロボット(ウォーターサーバー)へと近づく。

 直ぐ近くまで来ると同時にジャンプ!

 ロボット首部分(上部タンク)の最上段へ音もたてずに着地成功!

 この機械がなんであるか早速調査開始!

 差し詰め鑑定士ニャゴローと言ったところか。


 うーむ、これはなんだ?

 赤と青のレバーがついておるのだが……。

 

 ― ニャゴローは青いレバーをじゃれるように前足で何度も叩く。

 すると…… ―


 {ジョロロロロロ}


 あ!

 なんかでた!

 これは……オシッコではないか!?

 我輩の前足にかけおってからに!


 えぇい、負けるものか!

 こうだ!


 {シャアァァァァ}


 ― ニャゴロ―は激しく放尿開始。タンクに両前足でぶら下がり、懸垂状態のまま器用に給水部を狙い撃ち! ―


 どうだ! 

 ロボット如きに遅れを取る我輩ではないわ!


 ― この時バタつく後ろ足があろうことか赤いレバーにヒット! 同時に出てくる熱湯を蹴りたくる! ―


 「ニギャアッ!」


 タマタマにヒット!

 あまりの激痛に両前足を放してしまった。

 となれば当然……


 「グニャッ!」

 {ドスンッ}


 コンクリートで固められた地面へ熱い接吻。

 全身の骨を砕かれるほどの情熱的な抱擁。

 おまけのボイルドエッグ二個追加。

 ターキーレッグならぬにゃんこレッグをお土産にお会計お願いします。


 違うわ!

 ラブラブチュッチュな新婚ではないぞ我輩は!


 幸い頭部への衝撃は弱く、牙数本折れたのと脳挫傷程度で済んだ。

 アバラもほぼ全て骨折、少々内臓も破裂を起しておるがまぁ良しとしよう。

 問題は後ろ足の火傷である。

 しかも両足。


 あと……タマタマはどうでもいいや。

 これまで使った事もないしこの先使う予定も無いからな。

 舐めときゃそのうち治るであろう。

 

 しかし肝心要の足回りがやられてしまった。

 おかげでこの先の仕事に影響が!

 ダッシュもジャンプも逃走も出来ず、これではおまんまの食い上げではないか!

 

 とはいえ無理はよくない。

 こりゃ暫くの間欠勤……いや有給だな。

 トホホ。


 

 ― こうしてニャゴローの怪我が治るまでの間、商店街に平和が訪れまくったのは言うまでもない。 ―

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