第4話 印鑑職猫ニャゴロー
先日この地方は雪に見舞われた。
間に一日挟んでほぼ溶けたのだが、そのせいで至る場所がドロッドロのベッチャベチャ状態。
だからと言って休業する訳にはいかない。
仕事師の血が煮えたぎる我輩であった。
この日、玄関にある自分専用小扉を開けるとこう思った。
うーむ、ドアを開けたら2秒でベチャンか……。
言うてる場合か!
えぇい、こんなもの……こうしてくれるわっ!
男一匹ニャゴロー様とは我輩のことだ!
臆することなく胸を張って堂々と雪解けベチャベチャの道路を練り歩いてやるわ!
キャー素敵!
お、ゴミ虫も今日は店を開けておるな?
雪だからと言って長々休む訳にはいかぬってところか?
注:昨日は定休日
おーお、店頭に古クッサイがらくたを並べおってからに。
相も変わらずゴミ集めに精を出していると見えるなあの男は。
しかし姿が見えないのはどうした事だ?
まぁ、この世から居なくなってくれると平和が訪れるのだろうが流石にそこまで我輩も高望みはせん。
どうせいつものウンコであろう。
そうだ!
いい事を思いついたぞ!
近所でこのようなゴミを並べられるとは不愉快極まりない!
早々に清掃業の人間がこれらを撤去できるよう、我輩が許可の判を押してやろう!
注:そんな権限は猫にありません
トライなんとかやビーエムほにゃらら、そしてビモー……?
まぁなんでもいいや。
これ等特に古臭いデザインのバイクを集中的にペタペタペタっとなっと!
特にこのゴムで出来たホースのつけ根当たりへペタペタペタっと……おっと!
爪がぶっ刺さったのはご愛敬ってことで許してもらおう。
それにしてもこのゴムカバーは邪魔だな?
こうしてやるっ!
{ビリビリビリ}
お、キレイになった!
中身が出てピッカピカではないか!
更にピタピタピタっと!
うん?
横にあるこの箱はなんだ?
高級ウ……?
まさかウオか!?
この布っキレの中に高級魚が隠されているのか?
えぇい、こうしてはおられん!
こうだっ!
― ニャゴローは綺麗に収納されていた純白のウエスを段ボール箱から全て引きずり出した。漏らすことなく全てに肉球の泥印を押して。
しかも途中から楽しいやら気持ちいいやら夢中となってしまい、店主が店へと戻って来たのにすら気付かないでいた ―
「あっ! お前ニャゴロー! また悪さしやがって!」
「!?」
「あーあ、ウエスのみならず修理途中のブレーキが滅茶苦茶だな……。このキャリパーのブーツなんて特注品なんだぞ? 金を払えばすぐ手に入るって代物じゃないのにな……」
「ニャーン?」
「……今回はその可愛さに免じて軽いお仕置きで済ましてやるから恩に着ろよ」
― この直後、小張バイク店の店内から一匹のハチワレ猫が両前足で顔を押さえながら激しく転がり出てきた。時々開かれるそのつぶらな瞳の奥からあふれ出るのは涙なのか、それともブレーキフルードだったのかは店主及びニャゴローしか知らない永遠の謎である ―
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