第3話 焼き焼きニャゴロー


 ここ最近の話だが、商店街を警備巡回していると、あることに気付く。

 頑固親父の経営する寿司店付近に差し掛かると、やけに芳ばしい香りが我輩の嗅覚を刺激する。

 

 正面には蒲焼屋がドンと偉そうに店を構えているが、その臭いと系統が違うように思える。

 なぜなら甘ったるさが一ミリすら感じられないからだ。


 我輩鼻を高く突き上げクンクンとその臭いの足取りを追う事数十歩、ある場所に辿り着いた。

 蒲焼屋に軒を並べるすぐ隣横、入り口でバタつく暖簾にはこう記されている。


 〝じゃ焼き〟


 なんだと!?

 まさか蛇を焼いて食うのか人間は!?

 

 〝じゃ〟とは確か蛇の違う呼び方のはず!

 それを焼くなどと!


 我輩とて迂闊に手を出さないぞヤツ等には!

 特に頭が三角のヤツには何度も煮え湯を飲まされておるからな!

 まだ僅かなこの猫生において、顔や前足をパンパンに腫らしてしまった事数知れず!

 

 何も苦手なのは我輩に限った事ではない。

 これは他の猫達にしても同じ。

 直ぐ噛むんだからヤツらは!

 んもうキライッ!


 そんな凶暴な輩を焼いて食うなどと……素晴らしいではないか人間よ!

 よくやった!

 

 それにしてもなんと食欲をそそる匂い!

 涎が那智の滝からイグアスにまで進化してしまったぞ!


 すると、入店する為に若き男女のつがいが扉を開けた。

 グッタァ~イミン!


 プロテニスプレイヤーの弾丸サービスよりも速く店内へと飛び込むと、速攻棚らしきものの下へと滑り込む!

 イェイ侵入大成功!


 すぐさま情報収集を開始!

 凹凸がナノミクロンより少ないカメラレンズよりも高性能なマイキャッツアイズが二つ同時に辺りの状況を捉える。

 それらをキンカンより小さな我輩の脳へ伝達、結果をはじき出すまでに要した時間は僅か12分50秒、その答えはなんと……


 ゲロではないか!

 あれは間違いなくゲロであろう!?


 人間はゲロをも楽しいお食事にしてしまうのか!?

 世も末ではないか!


 一部学の無い猫や犬が食べるのはまぁ分かる。

 なにせ勿体ないからな。


 だけどユー達は知識や教養を持ち合わせたホモサピエンスではないか!

 そんな食物連鎖ピラミッドの頂点におけるチミ達がゲロを食すだなんて!

 アンビリーバボゥッ!


 あ、因みに我輩はゲロを食べたりしないから。

 ニャン吉やニャン太郎はよく食べているのを目撃するがな。

 しかも他猫のヤツを。

 まぁ、彼等はアレだからな……。

 

 それにしてもなんと切ない事実を知ってしまったのか。

 あの小動物の敵である美也殿やデンジャラスビューティの小織殿までもがあんなゲロを好んで食べるだなんて……少々ガッカリ。

 まぁ、御子息やゴミ虫が食べるのならばやっぱりなと思うのだが。


 今日はなんだかやる気が失せたな。

 さっさと帰ってご飯でも食べるとするか。



 この日、御子息不在の三河家では偶然にも〝もんじゃ焼き〟パーティーが開催される。

 末っ子の美也が美味しそうに食べるのを見ていたニャゴローだったが、食わず嫌いは大人の恥と言わんばかりに彼女へ近づき口を大きく開けソレをねだってみた。


 この結果、上顎とベロに大やけどを負い、暫くペースト状の物しか食べられなくなったのは言うまでも無い。

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