#彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら

湊賀藁友

さようなら、ありがとう

「別れてくれ。

 ……他に、好きな子がいるんだ」


 呼吸が、止まりそうだった。


 嘘だ。

 嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!!!!


「なん、で……?

 私たち、うまくやってきたと思ってたのに……!

 ねぇ!私だけって言ったじゃん!!

 私のこと、好きって……!!」


 「ごめん」と彼がうつむいて告げるけど、聞きたいのはそんな言葉じゃない。


「ねぇ、何で……?

 私、信じてたのに……」


「……君のことは、大好きだったよ」


 『だった』とか、言わないでよ。


「でも俺はもう__________!」


 やめて、その先を言わないで。


 噂なら聞こえてた。

『彼、最近あの子とばっかり一緒にいるよね』

『なーちゃんと付き合ってるんじゃないの?

 ……もしかして、浮気ってこと?』

『うっわ最低……!』


 たまたま聞こえた会話がどれだけ私の心をえぐったのか、あなたは知らないでしょう?



 愛して、たのに。



「____タピオカしか愛せないんだ」


「……やっぱり、あの子だったんだね」


 こぼれる涙を抑えられないまま、私は言った。


 パァンッ!!!


 彼の頬を叩いた音が、よく響く。


「……もう、いいよ。

 もう二度とその顔を私に見せないで。

 さよなら、オレンジジュース」


「ナタデココ……。

 ……ごめん……」


 ごめんって言うクセに、向けられた背中は未練なんて少しも感じさせなかった。


 そっか。

 もう私のことなんて、好きじゃないもんね。



 あふれる涙が止まってくれないけど、それでも声は出さなかった。____のに。


「ナタデココ……!」


 後ろから、誰かに抱きつかれた。


 この声……。


「ミルク、ティー……?

 何でここに……っ!」


 同じクラスのミルクティーだ。

 涙を拭こうとするが、その手を彼に掴まれて動かせなくなる。


「……悪い、見てた…」


 途端に顔が赤くなる。


「……いい性格してるね」


「自分でもそう思うよ。

 ……俺、お前がオレンジジュースの野郎と別れたの見て嬉しかったんだ」


 何なの!?

 苛立ちと恥ずかしさでミルクティーの手を振りほどき、彼と向き合う。


「そんなに私のことが嫌い!? もういいからほっといてよ!!!

 どうせ私は何の魅力もない、食感と食物繊維だけの発酵食品なんだか______」


「そんなことない!!

 お前は優しいし、可愛いし、タピオカにはないお腹への優しさだって詰まってる!

 ____俺、お前のことが好きなんだ。

 こんな時に言うのはアレなんだが……。俺と、付き合ってくれないか」


 嘘、でしょ?

 ……ミルクティーがそんな風に私のことを見てるなんて、全然気づかなかった。


 嬉しい。

 すごく嬉しいけど……。


「……ごめんね。私、まだオレンジジュースのこと忘れられないの」


「……そうか……。

 急に悪かっ__」


「だから、友達から始めましょう」


 そう告げれば、しゅんとした様子だったミルクティーは一気に目を輝かせた。


「ああ、もちろんだ!

 よろしくな!」





 まだミルクティーを好きになるかなんて分からない。


 でも、それでもこの先は幸せな未来が待っている気がした。







 さようなら、愛していた人。


 ありがとう。

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