第8話 それぞれの道

 八月の下旬。

 少し早めに夏休みが終わり、海が丘学院の高等部三年生の内部進学を希望する生徒は、内部進学のテストを受けた。

「夏海~! 数学の問2どうだった?」

「これで、あってるはずだよ? わたしの解答も頼りにしないで……紗良ちゃん」

 同じクラスの竹野紗良ちゃんは同じ音楽部の部員で主に弦楽器全般(バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス)を弾けて、とても素敵な演奏をしてくれる。

 わたしは少しだけ、内部進学のテストが不安に思っているけど、ここまでがんばってきたし、テストも大丈夫だ。


 翌週の六限目にあったLHRで、内部進学のテストの結果が個別に伝えられた。

 これで、内部進学のテストがひどければ、外部進学することになる。

「城沢さん。次よ」

「は、はい」

 わたしは廊下に出て、先生と向き合う。

「テストの結果表。あと、この封筒はご両親に送ったのと同じものです。教室に戻ったら、見てください」

 教室に戻ると、封筒のなかにあった紙を出した。

 びっくりして、変な声が出そうになった。

 内部進学が決まったことを告げる手紙だったから、びっくりしてしまった。





 文化祭の準備も大詰めになり、今年は模擬店でチーズドッグを作ることにした。

 東京でも流行ってる韓国の食べ物で、よくインスタとかに上がったりしてるのを見る。

「チーズドッグ、看板はどんな感じ?」

「これ? どうかな?」

 みんなで作った看板は、ハングルでいろいろ書いてくれたのは、宮野柚良みやのゆらちゃんと大関隆俊くんがデザインしてくれた。

 二人は美術部に所属してて、東京の芸術学部のある大学と美大を目指してるの。

「さすが美術部!」

 そして最後の文化祭を思いきり楽しむことにした。

 放課後。

 わたしは廊下に大きく張られているのは、今年の指定校推薦の枠とかが貼り出されている。

 詩音ちゃんは地元の国立大学の教育学部を目指していて、体育の先生になることが夢なんだって。



 寮に帰ると、詩音ちゃんが勉強をしていた。

「ただいま、詩音ちゃん」

「おかえりなさい、夏海。内部進学のテスト、どうだった? 聞いちゃ悪いけど」

「パスしたけど……なかなか難しかったからな~!」

「おめでとう! 文学部のイタリア語学科、行けるね」

「うん。先生がもう内部進学の推薦も、大丈夫だって」

 詩音ちゃんがハイタッチを求めてきたので、一緒にハイタッチをした。

「イエーイ! 夏海、受験から解放されたんじゃない?」

「まだ早い! 詩音ちゃんもセンター試験、受けんでしょ? クラスが違うとまるっきりわかんないもんだね」

 詩音ちゃんは国立大学を志望しているため、受験はセンター試験から始まるんだ。

「合格点には達してない……かなりヤバいかもな」

 本人も結構焦ってるみたいだ。

「そっか……あ、わたし、お風呂に入ってくる」

「もう、そんな時間? わたしもあとで行くから、先に入ってて」

 入浴時間になったので、風呂場に行くことにした。

 食堂の前を通った瞬間。

「キャアアアアアア!!」

と、突然の悲鳴が聞こえた。

 寮長の衣李奈イリナちゃんと共に、さっきの悲鳴が聞こえた場所に向かった。

「衣李奈! こっち」

 二階にいた詩音ちゃんが手招きをしている。

 そこはわたしと詩音ちゃんの部屋の隣――一年生の狩野かのう舞桜まおちゃんと神納かんの裕璃愛ユリアちゃんが震えていた。

 裕璃愛ちゃんは震えながら、ロシア語で何か話しかけてきた。

「ご、ごめんね、ロシア語、わかんないんだよね」

 わたしがそう言うと、流暢なロシア語で衣李奈ちゃんが話しかけていく。

 衣李奈ちゃんはお父さんがロシアとのハーフで、ロシア語での会話は不自由なくできるらしい。

 裕璃愛ちゃんはロシア人のお父さんがいて、海が丘学院中等部に入学するまではロシアのサンクトペテルブルクにいた。

 やっぱり日本語はあんまり得意ではなく、そのことを配慮し、ロシア語で会話のできる衣李奈寮長がいる寮で暮らすことになったのだ。

 一方、舞桜ちゃんはというと……部屋のなかで誰かと、起き上がっていた。

「え? ひゃあ!!」

「見なかったことにしよう、寮監……多田先生を呼んでくるよ」

 わたしが多田先生を呼び、お風呂に行った。

 お風呂を上がってから、夕飯後の自由時間になったとき、部屋で詩音ちゃんと舞桜ちゃんの話が話していた。

「夏海、舞桜ちゃんのこと、聞いた?」

「え。あれね。もう見ちゃったからさ、だいたいのことは理解できましたね……はぁ……まさかね。詩音ちゃん、部屋でね……」

「わかる。あれはさすがにヤバいわ、寮でって、人に見つかるでしょ?」

 詩音ちゃんはあのことを詳しく教えてくれた。

 舞桜ちゃんは交際していた男子生徒と部屋にいたという。

「寮の決まりでは、お互いの寮の談話室には異性の生徒を連れて来てもいいけど、自室にはダメということがあったし、今回は大変だと思うよ? どうやら、中等部からの内部進学組の子に聞いたら。一回、中等部でも同じような問題を起こしてるらしいよ」

 詩音ちゃんは呆れながら、廊下の方を覗いている。

「 本人と寮監の多田先生が話してるね……今回は処分は重そうだよ? 寮長の衣李奈は自分を責めてるかもしれないな、責任感が強いからな……少し励ましに行く?」

「ううん、いいよ。わたしはここにいるよ」

 詩音ちゃんはそのまま、衣李奈ちゃんの部屋に向かった。

 テレビを見ることにした。

 寮長も二年生に引き継ぎが行われたけど、衣李奈ちゃんはその補佐として、サポートしているらしかった。


 LINEが瑠果くんから来ていた。

『内部進学のテスト、合格したのか? おめでとう!』

 少しだけ嬉しくなる。

『ありがとう、文学部のイタリア語学科に進むよ。最近、瑠果くんの方は大丈夫?』

『心配はない、イタリアの国立大学志望だからね。イタリアの高校は十九歳までだから、イタリアに帰国してから出願になるよ。もう国籍もイタリアに決めたし』

「え……イタリアに国籍もするんだ」

『十九歳で高校何年生? わたし、知らないから』

『四年生、イタリアは二十歳で大学入学してから、五年制なんだ。ストレートで卒業しても二十五歳になったとき。夏海はそのとき、就職してそう』

『がんばれ、一年遅れで現役合格してくれ』



 わたしはベッドに寝る。

 瑠果くんはイタリアに国籍もするのか。

 少しだけ、寂しくなった。

 それぞれの道ができあがってきているみたいだ。

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