第7話 解放された

 見知らぬ場所に連れてこられて、一時間は経つのがわかった。

「瑠果くん……助けて」

 わたしはとても怖くなってきた。しかも、突然、殴られて、ここに連れてこられたんだもんね。

「おい! お前、一時間は寝てたよな?」

 それは知らない男性だった。しかも、あまりにも対応ができないのだ。

「起きろよ」

 絶対、対抗してはいけない。

 すぐに手を握られる。

 とても怖くなってきた。

 叫びたかったけど、言えなかった。
















「夏海!! しっかりしろ!」

 突然、大きな物音が聞こえてきた。

 その音にわたしは目を覚ますと、さっき手を握ってきた男性が警察官に捕らえられている。

 暗いけど、声で瑠果くんが来ていたことがわかった。

「瑠果くん! どこ? 暗くてわかんないけど」

「ここにいるよ。夏海」

 いきなり、抱きしめられた。

「瑠果くん……怖かったよ。ごめんね」

 優しく抱きしめられたけど、瑠果くんが怒ってるのかもしれないと思って、怯えていた。

「夏海、怒鳴ってしまって、ごめんね。あのことはイタリアで母方の叔父が養子として育ててた息子がさ、俺の双子の弟だって言われてさ」

「瑠果くんに兄弟がいたの? びっくりした。名前は?」

礼於レオ。母さんの妹がイタリア人と結婚していたけど、子宝に恵まれなくて。それで双子の礼於が養子として叔母さんたちの息子として育ててた」

 わたしは病院に検査入院することになり、後頭部にけがはしてたものの、異常はなかった。

 そのまま、病院で警察に事情を聞かれた。


 しばらくしてから、おばあちゃんが鈴乃ちゃんと一緒に来てくれた。

「おばあちゃん……ごめんね。心配かけて、鈴乃ちゃんも」

「大丈夫? 良かったね」

 そして、ゆっくりと休んで、家に帰ってから、瑠果くんが礼於くんの写真を見せてくれた。

「これが礼於、この前の葬儀のあとに撮ったんだよな。結構似てるだろ?」

 黒髪に水色の瞳をしてるけど、顔は瑠果くんにそっくりだった。

「あ、そういえば……礼於くんのイタリアでのフルネームって」

「えっと……Leo Rossi……だったはず」

「ロッシ? 珍しいの?」

「ロッシは日本でいうと、鈴木とか佐藤レベルでいる」

 瑠果くんが話してくれたことがあった。

 進路のことだ。

「俺、やっぱり、イタリアに帰国することにした。それで……大学もあっちに行くから、遠距離になるけど、いいか?」

「うん。大丈夫、遠距離になっても」


 色々なものに解放された日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る