春
第1話 新学期
わたしは食堂で朝ごはんを食べてから、詩音ちゃんと一緒に学校に歩いていく。
海が丘学院。
わたしたちが通っている私立の全寮制の学校で、中等部から大学まである。このうち、全寮制なのは中等部と高等部で、学校から徒歩十分くらい。
わたしはここに来たのは、高校二年の夏休みが終わったときから。
詩音ちゃんは熱海出身で、高等部から入学している。
「瑠果と冬休みのあと会ったの? 寮に帰ってきたとき、呆然としてたじゃん!」
「うん……恥ずかしい」
あんなことがあるなんて言えないよ。
それはさておき、高校三年になってから、自分の進路を決めなきゃいけなかった。
詩音ちゃんは地元の国立大学の教育学部で、体育の教師をしたいんだって。
わたしは海が丘学院大学の文学部イタリア語学科、イタリア語と文化を本格的に学びたかったから。
瑠果くん……
その家がわたしの母方のおばあちゃん家で、わたしは去年の夏休みに事情があって、夏休みの間はずっと過ごしていた。
とても仲良くなって、瑠果くんとは少しだけ近い関係になってる。
「夏海はそのまま内部進学で、決まってるんでしょ?」
「うん。海が丘には少しだけ長くいたいし。イタリア語学科は海が丘学院の大学しかないしね。県内だと」
詩音ちゃんは外部受験のため、クラスが離れてしまったけど、音楽部の竹野紗良ちゃんとは同じクラスになってた。
「紗良ちゃん! 良かった~!」
わたしはアルトサックスの奏者として、部活の定期演奏会に出演している。
紗良ちゃんはバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスが弾けるという弦楽器のオールラウンダーで、コンクールでも上位入賞していたの。
「かなり腕が上がってきたでしょ? 夏海」
「うん。春休み中はめっちゃ練習してたからね」
紗良ちゃんと一緒にセッションをして、最終下校時間になったので、帰ることにした。
紗良ちゃんは
「瑠果くんから、なんか来てる?」
LINEのメッセージが来ていた。
『本格的に進路指導が来たよ…ほんとにイタリアに帰国したくねぇ…日本の大学じゃ、ダメなのかな?』
瑠果くんの高校は県立でも進学校で、東大と京大に十人くらいは現役合格するみたい。海が丘学院も私立では進学校で、海外留学をする学生も多い。
わたしは部屋に戻ると、詩音ちゃんが寝ていたので、私服に着替えたあとに寮の食堂に行った。
「
「ありがとう。夏海ちゃん、すっかり
衣李奈ちゃんがわたしたち部屋に向かう。
ロシアとのクオーターの衣李奈ちゃんは、この寮の寮長に任命されている。
わたしはその間に食器におかずとご飯、みそ汁を盛りつけていく。
衣李奈ちゃんが戻ってきた、わたしのように食器に盛りつけていく。
「詩音ちゃんは?」
「あ~、爆睡してて、まだ起きる気配すらない。しばらくはあんな感じよ。夏海ちゃんの分は今度穴埋めさせとくね」
わたしはすぐに机に食事を今週の係の子と、並べている。
夕飯を食べてからも、詩音ちゃんは来なかった。
「詩音ちゃん? 起きてる?」
部屋に戻ると、詩音ちゃんの寝ているベッドに話しかけた。
「夏海、フラれた。うち」
「え? フラれた?」
「うん。春休みのときに、言われた。別れよって」
詩音ちゃんに声をかけられなかった。
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