第30話 望む者、望まぬ者
『――――、よぉ、バラライカ。元気にしてるか?お前がこのメッセージを見ているって事は、俺は死んだって事だ。そうだろ?まぁ、悲しむなって。そうだ。聞いたかもしれないが、俺の昔話をするよ。話す事も無いしな。
俺は、日本の大阪ってトコに生れた。俺の親は借金まみれで、ヤクザ―――ジャパニーズマフィアからも借金をしていた。俺には妹がいた。俺の2コ下だ。親は借金が返せなくなって、ヤツらに殺された。そして、俺達はバラバラになった。妹は強制的にアイツらにさんざん犯された後に殺された。俺が男で良かったよ。でも、俺は妹を助けられなかった。本当にそこは悔やんでも悔やみきれない。一生背負っていく事になると思う。
そんで俺は売られた。アフリカの
そんである日。俺の居た部隊は襲われた。部隊は全滅、俺は1人で交戦してた。
でもな、向こうがこう言ってきたんだ。『俺達は君の敵じゃ無い。ようこそ我が家へ。』ってな。俺は嘘だと思ったが、確認してみた。そしたら、彼らは武器を下ろしてこっちに手を振ってたんだ。しかも笑顔で。そしたら、こっちに向かってきて俺と握手をしたんだよ。それで相手は何て言ったと思う?『君は今からヒーローになるんだ。』って。彼らは『ストライク・ブラック』の兵士達だったんだよ。そして、俺はさんざんそこの隊長に世話になった。まぁ、後に部隊は全滅したけどな。
そして、1人で居たとこでリーパーと出会ったんだよ。アイツは相変わらずしけた顔してたよ。アイツから、『お前、日本人か?』って日本語で言ってきた。久しぶりの日本語だったな。その時はまだアイツの師匠は生きてたんだけどな。死んじまった。死因は忘れたが、リーパーは涙1つ流さなかった事は覚えてるよ。
そして、そんなリーパーとバディを組む事になった。アイツは1人が好きらしいんだがな。俺はそんなクールで頼りになる相棒を手に入れたんだ。
これが俺の全てだ。これ以上何も無い。困った時は俺の相棒を頼ってくれ。アイツは世界で1番強いヤツでな。必ず力になってくれるはずだ。
君からは多くの事を教えてもらったよ。リーパーとの出会い、そして何よりも君との出会いは、大きかったよ。
あと―――、もしも仮に俺がもう1度君と会う事があったら言いたかった事を言うよ。それじゃ、幸運を――――――。』
それが、彼の最後の言葉だった。
襲撃作戦終了後、リーパーはIRAの海洋プラントに用意された自室でインターフェースを着用し、ミーテングチャットで報告を行っていた。
「――と、本作戦で我がストライク・ブラックの兵員―――シャドウ・ブラックが
『それで、誰に捕まったのですか?』
IRA司令官は心配そうにリーパーに聞く。
「それが、ダブルオーの1人に捕まった。」
『それでは、助けに行く訳にはいきませんね、、、。』
司令はがっかりとした声でそう言った。
『そうか。しかし、それに見合った戦果であったのだろう?』
EUのメイトリクス大佐がリーパーに当然であるかのように尋ねる。
「あぁ、勿論だ。俺はMI6のエージェントを1人排除した。マーダーライセンス持ちをな。」
『流石、
「当然だ。」
リーパーはお世辞を真に受けず、さっと流すと、ミーティングチャットの回線を切った。
すると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「誰だ?」
「私だけど。」
ドアの向こうにいたのはバラライカだった。しかし、リーパーはドアを開けようとはしなかった。
「要件は?」
「話がしたい。」
「そこで言えば良いだろう。」
「良いから出てきなさい!」
バラライカはリーパーに怒鳴りつけると、ドアを強く叩いた。
そして、リーパーはドアを開ける。
「今何時だと思ってやがる?俺は寝ていたんだぞ。」
リーパーはミーティングチャットをしてた事をバラライカには伏せた。しかし、
「うそつき。アンタんとこのボス達と話してたくせに。」
どうやらバラライカは知っていた様だ。
「ちょっと来て。」
「何故だ?」
バラライカはリーパーの腕を掴んで引っ張る。
「良いから来なさい!」
リーパーは大人しくバラライカの言うままに付いていった。
バラライカはリーパーをプラントの空き地に連れてきた。漆黒の夜空には幾つもの星が散りばめられており、月が海面を照らしていた。
「アイツからのメッセージは見たのか。」
「まぁ、見た。」
「そうか。」
そして、リーパーは設置してあった転落防止用の鉄柵に座る。黙った2人を、冷たい夜の海風が吹き付ける。
「ねぇ、どうしてシャドウを助けないの!?まだ生きてるんでしょ!?」
バラライカはリーパーに聞いた。彼女の口調は強かった。
「敵との取引だ。アイツを渡す代わりに俺達が助かる。アイツのお陰で俺を含め3人の命が助かった。それに―――、」
リーパーは座ってた鉄柵から降り、バラライカに背を向けて言った。
「俺は恐らく、後にアイツを殺さなければならなかった。だから、丁度良かった。それだけだ。」
リーパーがそう言った途端、バラライカは瞳から涙をこぼし、リーパーに殴りかかった。
しかし、リーパーは簡単に右手で受け止め、ねじ伏せた。そして、しばらくしてから離した。
「何のつもりだ。」
「何がアイツを殺すよ!!アンタはアイツの友達だったんでしょう!?」
バラライカは涙を流しながらリーパーに怒鳴った。
「アイツと友人になったつもりは無い。」
「それでも、、、それでも仲間だったんでしょ!!」
「アイツがどうなったか分からないお前が言うな。そもそも、お前が原因だ。」
「何でよ!!」
「お前が来てからアイツは戦場に私情を持ち込むようになり、的確な判断も出来なくなって、更にはCAMの副作用も起こすようになった。どう考えてもお前のせいでアイツは兵士で居られなくなった。それの尻拭いを俺がする手はずだった。結局アイツは俺に殺されるか、戦場で的確な判断が出来なくなって死ぬかで結局死ぬ運命だったんだ。」
「そんなの関係無い!!早く助けなさいよ!!」
「それはお前の望みだ。違うのか?」
リーパーがそう言うと、バラライカは下を向き、リーパーにしがみついた。
「ねぇ、、、シャドウを助けてよ、、、、」
そう言われても、リーパーは同情しなかった。
「あの時、、、私を助けてくれたみたいに、、、、彼を助けて、、、、」
「俺は
「お願い、、、、助けてよ、、、」
「何度も言わせるな。無理だ。」
「何でもするし、今までの悪かった事も謝る。だから、、、、」
「そんな物は俺は望まない。」
リーパーはそう言ってバラライカを勢い良く振り払った。バラライカの身体が吹き飛ばされた。
「―――ッ、女に手上げる何て、、、最低、、、。」
「あぁ、俺は構わない。」
そして、バラライカは再びリーパーのマスクに覆われた頬を殴ろうとする。
しかし、またリーパーにねじ伏せられてしまった。
「こういう時は素直に殴られるのよ!!バカ!!」
「そうか。」
リーパーはそう言って彼女の手を離す。
手が離された瞬間、バラライカはリーパーに平手打ちを喰らわせた。
パチッ!と音がしたが、リーパーは動じなかった。
「どうせ、痛くなかったんでしょ、、、。」
「あぁ、そうだな。全く痛くなかった。」
「もう良い!!」
そう言ってバラライカはリーパーの前から消え去った。
リーパーに冷たい風が再び吹き付ける。
「だから、持ち込んじゃいけないんだ。『恋心』ってヤツは。」
そして、持っていたモンスターエナジーのタブを開ける。
「こんな汚れ仕事、アイツと出会ったら直ぐに辞めれば良かったんだ。お前もバカだよ。」
リーパーは1人、月明かりに照らされながら手に持ったそれを飲むのだった。
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