第29話 00(ダブルオー)の名を継ぐ者

 シェラの乗っているヘリコプターが、SIS本部ビルの屋上へ着陸する。

「さぁ、任務終了だ。さっさと帰ろうぜ。」

 シャドウがヘリコプターに乗り込んだ―――、その時だった。

「おーっと、全員手を上げて、大人しくしてもらおうかな?」

 なんと、シェラがシャドウを左手で拘束し、SIGP229を彼の頭に突き付けてたのだった。

「クソッ!」

「あぁ、シャドウ君。大人しくしないと君の頭が吹き飛んじゃうよ~」

 シャドウは少し抵抗したが、シェラの腕の力には勝てなかった。それれもそのはず、シェラはシャドウに何かを注射した為、シャドウは力が出ないのだ。

「大丈夫。殺しはしないからさ~。大人しくしてればな。」

 急にシェラの声が低くなった。彼女は本気でシャドウを殺そうとしているのが、彼女の声で伝わった。

「シェラ!何やってんだよ!!止めるんだ!!」

 ライナーが銃をシェラに向けてシェラに近づいた。その時―――、

―――バァァァン!

 彼女のP229が火を噴いた。そして、その銃が放った銃弾がライナーの頭を撃ち抜く。

 そして、彼は死んだ。目は白目をむいて、頭からは大量に血が流れている。その生暖かい血がリーパー達の足元へ流れてくる。

「言っただろ?大人しくしろって。」

 シェラはもう、以前の彼女では無かった。味方に優しさを見せ、気遣いをする彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。

「お前の事は前から嫌いだったんだよな。うざったいんだよ。理論の成立しない中で突っ切るのが。バカは見てるだけで見苦しい。あぁ、すっきりした。」

―――バン!

 もう1度彼の屍をP229で撃つ。次は、彼のかろうじて機能していた心臓を撃った。彼の心臓からは、頭より多くの血が噴水の様に溢れ出てきた。

「あぁ、そうだ。自己紹介が遅れたな。私はシェラ。コードネーム009(ダブルオーナイン」)だ。」

「だ、ダブルオーだって、、、?」

 マイケルが恐る恐る009に尋ねる。

「だから言ったろ。同じ事を2度言わせるな。私は009だよ。殺しのライセンス(マーダーライセンス)も持ってるよ。一般人でもイギリス国内に居ればどんな理由でも殺せる一番良いライセンスだ。」

 そして、彼女はプライスに指をさす。

「お前、頭良いな?スパイが居るって感ずいた辺りがスゲェ。そこらのサルとは違う事は評価してやんよ。」

 そう言われたプライスはいきなり笑い始めた。

「フフフ!ハハハハハ!バカかお前は?そんなのサルでも分かるんだよ。そんなんで良く009が務まるぜ。」

「あ?私を侮辱したな?」

「あぁ、そうだ。そんなんも分からないのか?所詮は頭が紅茶で犯されたイギリス人の仲間だなぁ?」

「うるせぇ!アイルランド人のくせに!」

「残念。俺はイギリス出身でした。バーカ!諜報員がそんな事も知らないのかよ!ザコ!」

 009とプライスの罵り合いが始まった。リーパーはそれを面白く無さそうに眺めていた。

「そんでどうするんだ?今ここで戦うのか?戦わないのか?」

 リーパーがいきなりプライスと009との会話に入った。

「そうだな。じゃあ特別に取引をしようじゃないか。お前達じゃあ私に勝てないし。」

「お?言ったな。痴女ビッチが。」

「黙れ野郎ファッカー。」

「残念だったな。リーパーはまだ童貞君チェリーだ。」

 そんな汚い会話にシャドウが割り込んでくる。

「プッ!お前まだ童貞なのか!?」

 009があざ笑う。

「だから何だ?痴女ビッチ。お前みたいなガバガバ野郎よりマシだと思うのだが。」

「チッ!まぁ、良い。お前達とお話してるほど暇じゃ無いんでね。」

 先に話を斬ったのは009だった。

「お前達を逃がす代わりにコイツを貰ってく。次、お前達が何かやらかしたらコイツの命を奪う。どうだ?平等フェア取引トレードだろ。」

「さんざんフェアトレードしてこなかった国のバカがよく言うわ。」

「この条件が受け入れられないのなら、コイツもお前達もここで葬ってやる。」

「アハハハ!!俺を葬る事が出来るかな!?」

 そう言いながらもリーパーは冷静に考える。

―――俺は別に良い。問題はコイツらだ。犠牲が出ないのはコイツの取引だが、もしもこの取引を断ったら俺以外全員死ぬだろう。どうせシャドウも任務続行が困難だと判断した時に殺す予定だったんだ。コイツの要求を飲んだ時は悪く思うな。お前の命と引き換えに俺達が助かるんだからな。


「貴様を殺す事なんざ簡単だ。そいつが死のうと俺はお前を殺せればそれで良いんだからな。」

 プライスは009にAKの銃口を向ける。

「おぉ、随分威勢が良いじゃねぇか。でもよ、コイツを見てくれよ。」

 009がプライスの心臓部を指さす。そこには―――、

―――クソッ!まだいたのか!?

 レーザーが照射されていた。それも、リーパー、プライス、マイケルの心臓に向けられていた。

 シェラの乗っているヘリの中からはレーザーサイトを装備したUSPを3人に向けているスーツの男達がいた。

―――これで、アイツの要求を飲む以外無くなったな、、、。

 リーパーは覚悟を決めた。かつての戦友、そして今目の前にいる彼を手放す事を。

「おい、リーパー。」

「何だ。」

 シャドウが拘束されている中、リーパーに話しかけてきた。

「頼む。コイツの要求を受け入れてくれ。」

「何故だ。」

「俺はもうこんなんだし、俺はもうお荷物だ。平和の為の戦いに、弱者は要らない。そう、お前は言ってたじゃないか。」

「あぁ、そうだ。」

「残念ながら、俺は強くは無かった。そして、守れなかった。」

「、、、。」

「だから、お前は生きてくれ。」

「何言ってんだ。俺は死ぬ。この戦いで死ぬ。」

「お前言ってたよな。俺の様になるなって。でも、俺は違うと思う。お前も『死神リーパー』の様になるな。」

 シャドウはポケットから、USBメモリーを取り出してリーパーに投げた。

「それをバラライカに渡しておいてくれ。お前は見るなよ。絶対だぞ!!」

「あぁ、分かった。」

「ありがとう。お前は俺に戦いよりも大切な事を教えてくれた。かけがえのない、大切な事をな。」

「俺は何も教えて無いぞ。」

「いいや、お前が居なければ知らなかった。お前の存在自体に礼を言うよ。」

 そして、シャドウはリーパーに敬礼をした。

「分かった。要求を飲もう。」

「おぉ、分かってるじゃねぇか。リーパーさんよぉ。」

 リーパーは009からの要求を飲んだ。

「そんじゃあ交渉成立って事で良いな?」

「あぁ、勿論だ。」

「分かった。賢明な判断に礼を言おう。出発だ!!行くぞ!!」

 009は自身の乗っているヘリに合図を送った。そして、ヘリがSIS本部ビルの屋上から離陸する。

「ありがとう。じゃあな。」

 シャドウはそう言い残して009と共に空高く消えてしまった。



 SIS本部ビルには、事件を聞きつけたロンドン警視庁特殊部隊SCO19が次々に派遣され、リーパー達と銃撃戦を繰り広げていた。

「助かったのは良いけど、敵が多すぎるよ!」

 マイケルは撃っても撃っても減らない敵に銃弾の雨を降らせていた。しかし、弾薬は減っていく一方だ。

「これだ!これこそ戦争!俺の求めていた戦争と混沌カオスだ!!」

 一方プライスは、隠れもせず敵に銃を撃っていた。彼はこの状況を待ち望んでいたかのように喜ぶ。

「上から来ようったって無駄だ。」

 リーパーはスナイパーや増援を乗せた敵のヘリのパイロットの頭をG18Cで撃ち抜き、墜落させていた。

「残弾ゼロ!!」

 遂にマイケルの残弾がゼロになる。

「楽しいのは良いが弾が持たねぇ!」

 プライスのマガジンも無くなっていく。そんな時だった―――、

「待たせたわね!」

 上空からバラライカを乗せたヴェノムがやって来た。

「早く乗れ!撤退だ!!」

 リーパーはプライスとマイケルがヴェノムに乗り込むのを支援してから、自身もヴェノムに乗り込んだ。

「ねぇ!シャドウは!?シャドウはどこ!?」

「、、、。」

 そんなバラライカの言葉にリーパーは耳を貸さなかった。

「離陸しろ!!」

『了解。』

「ねぇ!ちょっと待ってってば!!まだシャドウが!!」

 リーパーはヴェノムを離陸させる。そして、ドアを勢いよく閉める。

「ちょっと、、、ねぇ、、、あぁ、、シャドウ、、、ウァァァァァ!!」

 帰ってくるはずだったシャドウが帰って来なかった。バラライカは泣き出した。

「どうして!どうしてシャドウが居ないの!!」

 バラライカはリーパーの胸倉を掴む。

「これはアイツ自身が望んだ事だ。」

「そんな訳!!無いよ、、、。」

「アイツは死んではいない。だが、死に行くだろう。」

 そして、リーパーはバラライカにシャドウから頼まれたUSBメモリーを渡した。

「これがアイツからの最後の言葉だ。受け入れろ。」

 そして、彼女から目を逸らした。リーパー達を乗せたヴェノムは曇り空のロンドン上空を飛んでいた。



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