第15話 別れ
「さぁ、来いよ。」
マレンコフの元に傭兵が一歩ずつやって来る。もうすぐそこにいる。
「俺は、、、逃げない、、、イワンコフが身をもって教えてくれたんだ!!うぉぉぉぉぉおお!!」
マレンコフは建物の陰から飛び出した。
「うぉぉぉぉおおお!!」
「死ねぇぇぇえええ!!」
マレンコフはAKをフルオートで発砲する。しかし、
「グハァッ!!うあぁぁあああああ!!」
傭兵達が銃で降らせる銃弾の雨に打たれてしまった。マレンコフの体に無数の穴が開き、そこからは生温かい血が溢れ出ている。
―――よくやったな。マレンコフ。
「イワン、、、、コフ、、、、か、、、。久し、、、、ぶり、、、だ、、、な、、。」
マレンコフの目にはそこに居るはずもないイワンコフの姿が見えた。
「あ、、、、あぁ、、、、。あぁ、、、、。」
マレンコフはもうぐったりとした様子で仰向けに倒れていた。
「もう終わりにしようぜ。」
ペチェネグを持ち、赤いバンダナを腕に巻いた傭兵がマレンコフに近づいてきた。周りの傭兵達は銃を構えて警戒している。
―――俺は、、、もう、、、駄目なのか、、、?
「まさかこんなに生き残ってたとはな。」
その傭兵の後ろから声がする。
「誰だ貴様っ!?」
傭兵が振り返る。すると、VRのようなものをした全身黒ずくめの兵士が部下の首にナイフを突き刺していた。その部下の首からは大量の血が流れていた。
「お前のヘリをロケットランチャーで撃ち落としてやったと思ったが生きてたのか。」
「貴様が、、、
「まぁ、コードネームはそうなってる。」
すると、その男は笑いだす。
「ハハハッ!!ガハハハハ!!お前が死神か!!」
「何が面白いんだ。」
「面白いよなぁ?だって、お前は今、俺の目の前で死ぬのだから!!ガハハハハッ!!俺が、死神殺しになってやるよ。」
その傭兵と部下達が一斉にリーパーに銃口を向ける。しかし、リーパーは全く動じてない。
「死ぬ前に聞きたい。お前はどこ出身だ?」
「俺はなぁ。スペツナズだよ。アフガンにも行った。」
スペツナズとは、旧ソビエト時代からあるロシアの特殊部隊だ。高度な訓練を受けており、ロシア最強の特殊部隊だ。
「お前の部下は?」
「俺の部隊は全員ロシア軍のエリートだ。軍から引っこ抜いてきた。あんな戦争をしない軍には用は皆はもう用は無い。」
「ほう。どういう事だ?」
「俺は戦争が大好きなんだよ。この銃で民間人やら兵士やらをぶち殺すのが好きなんだ。ロケットランチャーやグレネードで人を吹っ飛ばしてバラバラにするのも良い。ナイフで血だらけにするのもまた楽しい。俺はアフガンで死と隣り合わせだった。でもな、その時に敵を殺しまくったのが楽しくって楽しくってたまらねぇんだよ。その感触が止められないからソ連が終わった時に軍を辞めて傭兵になった。戦争をしない平和路線の政府は嫌いだ。」
「だから傭兵になったのか。」
「そうだ。戦争こそが俺達『兵士』の生き様なのさ。」
そして傭兵は人差し指を銃のトリガーに掛ける。
「あばよ。死神。今度は俺が死神だ。」
「ハァ――――ッ、、、。コイツを使う時がまた来たか。」
リーパーは大きく深呼吸をする。そして、自分のポーチの中から箱を取り出して開ける。そしてそこから拳銃型の注射器を取り出して小さな試験管をセットする。そして、注射器の針の保護キャップを外すと自分の首筋に刺した。
「さぁ、ショータイムだ。」
リーパーはその注射器のトリガーを引いて薬品を注射する。リーパーの心臓が大きく鼓動し、体に大きな衝撃が走る。
「―――――――ッ!!」
傭兵が何かを喋っている。しかし、リーパーには何も聞こえない。そして、傭兵達はゆっくりとトリガーを引く。
しかし、リーパーには銃弾など降って来る雪のような速さにしか感じられない。そんな遅い銃弾をリーパーは素早く避ける。そして、素早く傭兵の頭にG18Cの照準を合わせて発砲する。リーパーの発射した銃弾も見えるに程遅いが、傭兵達は避けようとはしない。そして、ヤツらの額をえぐるように着弾する。そして、その額からは鮮血と何やら灰色のゼリーの様な固形物が飛び散る。
「―――――ッ!!」
赤いバンダナの傭兵は銃を捨てて逃げる。しかし、リーパーは逃がさない。素早く他の傭兵をダウンさせたリーパーはヤツを追いかける。
しかし、ヤツの脚は遅かった為、すぐにリーパーは追いつく。
「―――――ァ!!」
何かを叫びながら最後の傭兵はリーパーに拳銃を発砲してくる。しかし、これも先ほど同様に降って来る雪位の速さにしか感じない。そんな銃弾をリーパーは避け、両脚にまずは2発お見舞いする。
撃たれた傭兵はゆっくりと崩れ込み、ゆっくりとリーパーの顔を見る。
そんな傭兵をリーパーは見下ろすように見る。彼の顔は涙と鼻水で見るも無残な顔になっていた。
そして、ゆっくりと銃の照準を合わせたリーパーは、最後の一発を喰らわせた。
「死神だ、、、、。」
最後の傭兵はそう言って絶命した。最後に撃った銃弾はいつもの様にトリガーを引いた瞬間に着弾していた。
傭兵の部隊を排除したリーパーは、負傷したマレンコフの所へ戻る。
マレンコフはもう虫の息だった。もう、手の施しようが無い。
「マレンコフ。」
「あな、、、、た、、は、、、。」
リーパーはインターフェースとマスクを外して素顔を見せる。
「あぁ、、、、。あ、、、の、、時、、、の、、、。」
「そうだ。死ぬ前位は楽にしてやる。」
リーパーはポーチから使い捨ての注射器を取り出してマレンコフに注射する。
「楽になっただろ。」
「えぇ、、。楽になりました。」
「それでもあと少ししか持たない。」
「はは。少し伸びただけでも幸せですよ。体は動きませんがね。」
痛み止めの効果か、痛みが消えてまともに喋れる様になったが体はもう動かないらしい。
「私の代わりに胸に入っている写真を見せてくれませんか?」
「あぁ。分かった。」
リーパーはマレンコフの胸ポケットの写真を取り出して彼に見せた。その写真はサーシャとその家族の写真だった。彼女の両親も笑顔で映っている。
「イワンコフは、私の初めての友達なんです。私は昔から孤児で両親を知りませんでした。孤児院の中でも一人ぼっちで世話係も私を無視していました。孤児院を出ると私は軍に入りました。そして、部隊の元にウクライナ行の命令が来ました。そこからは前も話しましたよね。」
「あぁ。」
「彼は私に身をもって教えてくれたんです。逃げてはいけないと。私は逃げたから彼を、友人を失った。そして決めたんです。彼と彼の妻のターシャの娘だけは守ろうって。でも、彼女に結局お父さんが死んだ事を隠したままだった。目の前で見た光景を彼女には伝えられなかった。そして、私は死ぬ。」
「死は誰にでも訪れる。」
「そして、今は私の番ですね。申し訳無いですが、私が死んだ後のお願いを聞いてもらって良いですか?」
「出来る物はする。」
「彼女に父親の事を伝えて下さい。辛い仕事ですいません、、、。」
「あぁ、大丈夫だ。」
「ありがとうございます。」
「他には。」
「最後のお願いです。どうか、どうか、サーシャが悲しまないで暮らせるウクライナ、、、いや、世界にしてくれますか?」
マレンコフはリーパーを焦点が合わない目で見つめる。
「そんな世界があるかは誰にも分からない。でも、あると信じて生きていく事は出来るんじゃないか。」
リーパーは立ち上がってそう答えた。
「あなたならきっと出来ますよ、、、。」
マレンコフはそう言って瞳を閉じた。
そんなマレンコフの首に架かっているドックタグを取り外す。ドックタグとは、兵士が戦死した際に身元が分かるようにいつも首に架けている金属の小さなプレートである。
「サーシャの親父によろしく言っておいてくれ。彼女は元気だと。あと、お前の任務は終わりだ。退役おめでとう。」
リーパーは横たわっているマレンコフに敬礼をして、立ち去った。
―――マレンコフ。ありがとう。俺が教えた事を守ってくれて。
―――いや、あんなのは当然だろう。今度は鉄格子越しじゃなくて面で向き合ってウォッカを飲もう。そういえば、サーシャは良いのか?
―――良いんだ。俺の自慢の娘はきっと生き抜くさ。あの地獄でも。
―――いいえあなた。それは違うわ。
―――どうした?ターシャ。
―――生きていこうと思えば、どこだって天国になるはずだわ。
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