第14話 カラシニコフと引き換えに。

 親ロシア派の空爆により街は真っ赤に燃え上がっていた。今もなお、漆黒の夜空に親ロシア派のMigが飛んでいる。それは、空を舞うドラゴンの様に大きな翼の音を大空に響かせていた。

『絨毯爆撃まで、あと20分。』

 そんな赤く燃える街に、迫るのはソ連の大型爆撃機のTu-95。鋼鉄の機体は月明かりに照らされて黒光りしていた。

『了解。高度1万フィートを維持せよ。目標上空に到着次第、爆撃を開始せよ。』

『了解。地獄を味わわせてやる。』



 リーパーは燃え上がる街を走り回っていた。目標はサーシャのいた花屋。

「軍の基地へ逃げるぞ!!」 

 民間人達は我先にと大きな荷物を持ってリーパーとは反対方向に向かっている。恐らく基地に避難をしようとしているのだろう。

―――銃声!?多分7.62mmの音だ。 

 そんなリーパーの耳に銃声が聞こえた。距離は近くは無い。少し時間が掛かりそうだ。

―――銃声はどこから!?

 リーパーは走りながらインターフェースで銃声の位置を割り出す。すると、リーパーはの走るスピードが速くなる。

―――クソッ!!サーシャが危ない!!

 インターフェースに映し出された銃声の発生源。そこはサーシャの花屋のすぐ近くだった。


 

――――その兵士は、再びカラシニコフを握った。

 店に立てかけてあったAK-12を握る。そして、近くにあったマガジンを全てバッグの中に詰め、1つだけAKに装着して銃側面のチャージングハンドルを引いて5.56mmNATO弾を装填した。

「イワンコフ、、、。すまないな。」

「おじさん!!早く逃げようよ!!」

 金髪の少女―――サーシャはマレンコフの服の裾を引っ張る。サーシャは身長に合わない大きなバッグに沢山の荷物を詰め込んでいる。

「サーシャ。俺はもう逃げない。逃げたくないんだ。」

「えっ、、、?」

 マレンコフはサーシャの小さな肩を掴む。

「サーシャだけでここから逃げるんだ。」

「どうして?」

 そんなサーシャの純粋な疑問にマレンコフは黙ってしまう。しかし、マレンコフは力強く答えた。

「君の帰る場所を守らなくてはいけないからだ。」

「帰る場所、、、?」

「あぁ。この家をヤツらに取られたらイワンコフ、、、いや、君のお父さんに怒られてしまうだろう。」

「そんなのはまた造れば良いんだよ!!そんな事より早く、、、」

 マレンコフは小さなサーシャを持ち上げて店の前で下ろす。

「サーシャ、君だけでも行くんだ。いつもお父さんを待っている基地にな。」

 すると、真っ赤に燃える炎の向こうから人影が見える。その影は1つ、また1つと増えていく。

「さぁ!早く行くんだ!!」

「絶対に帰ってきてね!!絶対だよ!!」

 そう言ってサーシャは走って消えてしまった。マレンコフは銃の照準を合わせる。

「これで良かったんだよな。イワンコフ。」



 リーパーは走っていると、向こう側からサーシャが大きな荷物を持って転んでは走っているのが見えた。リーパーは急いで駆け寄る。

「あっ!!変な兵隊さん!!」

「サーシャ!!」

「あの!!おじさんが!!おじさんが!!」

「マレンコフがどうした!?」

「一人で、、ウッ、、グズン、、、ウワァァァァァァン!!」

 サーシャが泣き出してしまった。リーパーはただ、見つめる事しか出来なかった。

 そして、インターフェースでソコロフと通信する。

「ソコロフ!!ソコロフ!!」

『どうしたリーパー!!』

「民間人の少女を保護した!!今すぐ俺の所に来てくれ!!」

『それで、お前はどうするんだ!!』

「どうやら、民間人が戦闘に巻き込まれているようだ。俺も参加に行く。」

『だったら俺達も、、、』

「ダメだっ!!この娘を絶対に死なせる訳にはいかない!!」

『おい!!ロリコンもいい加減に、、、』

「俺がロリコンでも性犯罪者でも構わない!!でも、絶対に死なせるんじゃない!!」

『分かった。少女はそこに隠れさせておけ。俺達が回収する。お前は早く戦闘に参加しろ。』

「すまないな。ソコロフ。」

 リーパーは通信を切った。

「サーシャ。」

「ウゥッ、、、。」

「泣くんじゃない。」

「だって、、うぅ、、」

「良いか。今からここにお前を回収する部隊が到着する。お前はどこかに隠れてるんだ。」

「1人で、、?」

「そうだ。お前なら出来るはずだ。」

 その時、サーシャの瞳にはそう言ったリーパーはどこかへ行ってしまった父親の様に見えた。

―――一人で?

――――そうだ。お前なら出来るはずだ。

 そう笑顔で言って居なくなってしまった父親。

「兵隊さんは、、、居なくならない?」

「何の事だ。」

「そう言ってお父さんは居なくなってしまったから、、、。」

「そうか。まぁ、その時はその時だ。」

「どういう事?」

「人間、死ぬ時は死ぬ。その定めからは誰も逃げられない。死を超越した人間、いや、生物などは存在しない。」

「兵隊さんの言ってる事はちょっと難しくて分からないよ、、、。」

「そうか。でも、死んだ人間はその人間を望む者の記憶の中では生き続けるだろう。だから、親父はお前の中ではまだ生きているんだ。」

「お父さんは死んでない!!」

 サーシャは涙目ながらリーパーを小さな拳でポコポコと殴った。

「その勢いだ。」

 そう言い残してリーパーは走り去った。

「フフッ、変な兵隊さんだな。」

 リーパーが居なくなってからサーシャの瞳には涙は消えており、彼女の顔には笑顔が戻っていた。



「さぁ、狩りの始まりだぜ!!」

「クソッ!!」

 マレンコフは複数の親ロシア派兵士と戦っていた。

「良いよなぁ?人を殺すだけで金が手に入るってのは!!」

―――金?傭兵か!?

 ペチェネグを持った男がいきなり乱射を始める。マレンコフが隠れている建物の壁にペチェネグの弾が着弾し、砂ぼこりが舞う。

「これだ!!思い出すぜぇ!!アフガンの匂いを!!反政府軍の雑魚をマシンガンで粉砕するのはたまんねぇんだよなぁ!!ヒャハハ!!」

―――クソッ!!親ロシア派が傭兵を雇いやがった!!

 マレンコフは銃口を少しだけ出して傭兵達に5.56mmを撃つ。しかし、全く当たらない。しっかり狙おうとして体を出せば銃弾の雨に打たれて死ぬ。マレンコフはそんな事を考えながら残り少ないマガジンを眺める。

―――このままじゃ弾薬が無くなる。何か起こさなくてはいけない。

 数少ないマガジンをAKに付いている空のマガジンと交換する。

「これでも喰らっとけ!!」

 マレンコフは空マガジンを傭兵達に投げつける。

「おい!もうお終いか?じゃあ、そろっとフィナーレにしようぜ!!」

 傭兵達は身を隠しているマレンコフに一歩ずつ近づいていくのであった。

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