第11話 鼓動

 リーパーは兵士達との会話を酒を交えながら楽しんでいた。すると、リーパーの端末に着信が入る。

「ちょっと失礼。」

 リーパーは食堂を出て、着信に応じる。

「こちらリーパ、、、」

「イェェェェェエエエエ!!」

 端末の向こうからは耳を割くような大声が聞こえた。リーパーは慌てて端末を耳から離す。

「いきなりうるさいぞ。」

「よぉ元気?飯食った?」

「話を聞け。」

 相手は日本語で話しかけてきた。

「お前ウクライナに行ってるっぽいじゃん!!最近調子どう?」

「お前の電話でテンションダダ下がりだ。」

「まぁそう言うなよ~仲間だろぉ~」

「はぁ、、、」

 リーパーは頭を抱える。

「俺は今任務中なんだ。休暇中のお前とは違う。」

「まぁそう言わずに、、、。そうだ!お前の迎えは俺になったからよろしく~それじゃ、」

「おい!ちょっと待てぇ!!」

 通信は向こう側がブッツリと切った。リーパーは呆れながら端末をポーチにしまう。

「ねぇ、今、、、誰との電話、、、、。」

 食堂の入り口から顔を覗かせているバラライカが青ざめた顔でリーパーに聞く。

「あぁ、通信の相手か。あいつは俺の、」

「彼女だろ?ん?」

 ケレンスキーが話に割り込んでくる。

「はい残念でした。お嬢ちゃん。こいつには彼女はいるのでしたー。ガハハハハ!!ざんねーん。」

「そ、そんなんじゃない!!バカ!!」

「グハァッ!!」

 バラライカはケレンスキーの股間を思いきり蹴り上げる。ケレンスキーの顔は青ざめて、床に倒れてもがき、苦しんでいる。

「衛生兵!!衛生兵!!」

「はい!って、ケレンスキーさん!!どうしたんですか!?」

 食堂にたまたまいた衛生兵が駆けつける。

「た、、タマが、、、。潰れた、、、。クソ、、痛てぇ、、、。」

「酒に酔ってまたちょっかい出したんでしょう。はぁ、、、。ほら、大丈夫ですか?」

「あぁ、、。痛てぇ、、。痛てぇよぉ、、、。」

 ケレンスキーは衛生兵に連れられて、股間を抑えながら医務室に行った。

「痛そう。」

「んで、さっきの、、、、誰なの、、、?」

「あぁ、さっきの相手か。そんなのを知ってどうする?」

「べ、別に良いじゃない!!」

「そうか。さっきのは、俺の知り合いだ。」

「ど、どんな知り合いなのよ?」

「ん?ちょっと、、、いや、、、結構ヤバいイカレ男だ。顔は結構イケメンなんだけどな。あいつは刃物には目が無くてな、、、。帰りにウクライナの刃物でも、、」

「フーッ、良かった、、、。」

 バラライカは安心したかのように息を吐く。

「ん?どうしてお前が安心してんだ?」

「は!?あ、安心何て、、してないし!!」

「そうか。じゃあ俺は戻る。」

「あっ、ちょっと!!」

 バラライカはリーパーの右手を反射的に引っ張る。

「どうした。何か用事でもあるのか。」

「い、、いいや、、。別に、、。わ、、私今日、変だね。うん、、、。変だ、、私、、こんなヤツになんか、、、。」

「何か俺の悪口が聞こえたようだが、触れると面倒くさくなりそうだから早く寝ろ。」

 リーパーはバラライカにそう言い残して食堂に戻った。バラライカはリーパーの背中を見えなくなるまで見続けた。

「私、、、。変だ、、、。」

 バラライカは胸に手を当てる。バラライカの心臓の鼓動は大きく、早かった。


 

 ウクライナ東部 親ロシア派 前線基地『ウラジーミル』

 そこには巨大な前線基地――――ウラジーミル要塞が築かれていた。高い塔の様な建物の小さな窓の一個一個からはライトマシンガンのPKP『ペチェネグ』の銃口が見えた。

 そんな要塞のヘリポートにロシア軍の迷彩をまとった緑色のMi-26『ヘイロー』が着陸する。

「あぁ、長い旅だった。」

 ヘイローからガタイの良い兵士が次々と降りてくる。

「取引の件、感謝します。『アルファ・プール』。」

 親ロシア派の高官が降りてきた兵士の隊長の様な兵士―――腕に赤いバンダナをしている男に敬礼をし、高そうな葉巻を口にくわえさせてから銀色に光ったライターで火を点ける。

「あ?あぁ、悪いな。」

「それで、ギャラの方は、、、」

「ソヴィエトの頃のよしみだ。後払いで良い。ドルで頼む。こっちも信用してもらえるように頑張っからさ。」

「専用の部屋と鉛弾を用意してますが、、、、」

「悪いなぁ、、、。部屋は借りるが銃弾《バレット》は持ってきてる。こっちもそれが商売なんでな。」

「さすが一流の傭兵《マーセナリー》は違う。」

 高官はその傭兵を褒めちぎる。その傭兵も機嫌が良いように葉巻をふかす。

「こっちはアフガンで補給を断たれながらも後退せず、敵の武器を奪って戦ってたからな。それに比べればウクライナ軍なんざアメ公以下だぜ。ガハハ!!」

「隊長!この後の予定は?」

 この男の部下だろうか。顔をガスマスクで覆った兵士がキレのある敬礼をして男の前に立つ。

「とりあえず我々のセーフハウスを設営、そしたら自由行動だ。皆にも伝えておけ。」

「了解!!《バラショー》」

 男の部下は敬礼をすると、男の前から消えた。

「それと、最近は戦場で『死神リーパー』が出るそうです、、、。」

「あぁ?リーパー?」

 男は葉巻を強く握る。

「えぇ。その兵士に我が軍の兵士は散々な被害に遭っており、ヤツの通った後は血の海と死体の山ができるそうです、、、。」

 高官は恐ろしそうに語る。

「そいつはウクライナ軍の連中か?」

「いえ、ウクライナ軍では無さそうです。」

「ハッ!!そんなモンは俺達『アルファ・プール』の敵じゃねぇ!!何か『リーパー』だ!俺達が『死神殺し』になってやるよ!!」

 その男は大きな声でリーパーと呼ばれる兵士を侮辱し、あざ笑った。

「待ってろよ。死神野郎。」



 リーパーはヴェノムの中でインターフェースを装着し、暗いヴェノムの機内でストライク・ブラック幹部達とミーティングチャットを行っていた。

「予定より増援が遅れるとは一体どういう事だ!?」

 リーパーが感情をあらわにする。増援部隊の物資が輸送中に襲われた件について怒っているようだ。

「やったのは恐らくイギリスのMI6の連中だ。」

 EU大統領は冷静に物を言う。

「奴らはEUを離脱した。そして、我々がイギリスを包囲していることももう勘付いているだろう。」

「―――――クソがっ!!」

 イギリスは去年、国民投票を経てEUを正式に離脱した。身勝手なイギリスのEU離脱は世界から大バッシングを受けたものの、何食わぬ面をして国際社会で振舞っている。

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。」

「落ち着いてられるか!!早く奴らを片付けるんだ!!」

「今は待つ時だ。リーパー。」

「ま、マスター!?」

 マスターが興奮状態のリーパーを止める。マスターもまた冷静だ。

「我々の目的は世界征服なのだ。いつかイギリスとも全面戦争になるだろう。それまで復讐は温存しておくべきだ。」

「―――了解です。マスター。」

「しかし、ブリデンの連中も放っておいたら我々の活動に支障が出てしまうな。何か対策を練っておく必要がある。何か意見のある者は。」

 ミーテングチャットが静まり返る。そんな中、バチカンの女神官が美しく、優しい声を上げる。

「あの方々と争ってはなりません。同じイエス・キリストを信仰する者として和解するべきです。そうすれば世界は破滅の道から逃れられるでしょう、、、。」

――――バチカンの連中の綺麗事はいい加減止めて欲しいぜ。

 ミーテングチャットからは多くのため息や落胆の声が聞こえた。しかし、女神官はそんなのはお構い無しだ。

「我々IRAは出来る限りの手を打ちましょう。」

 IRAの司令官が声を上げる。IRAはアイルランドのテロ組織だが、100年以上もイギリスと戦ってきた組織である。現在は『正規軍』はアイルランド軍になってしまったが、現在も活動を続けるIRAの組織もある。表向きはテロ組織だが、アイルランド国民から英雄の様に扱われている。アイルランド独立もIRAの功績も小さい訳ではないのだ。

「それは心強い。ぜひとも頼む。」

 ミーテングチャットからは歓声も聞こえる。

「それでは、対イギリス戦闘はIRAが中心となって行う。異議は無いな。」

 ミーティングチャットの多数決では、バチカン以外が『YES』の回答が表示される。

「イギリス人共には我々IRAが制裁を下し、粛清しましょう。左手に投票箱を、右手にアーマライトを、、、。」

 


 

 


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