第12話 少女が想った死神
リーパーは1人、基地の入り口にVRのようなインターフェースを装着して立つ。久しぶりに戦闘訓練をするのだ。彼のインターフェースには、戦闘訓練用のプログラムがあり、リーパーがインターフェースに映し出された追加現実『AR』の敵兵を倒していく、というものだ。
―――START
リーパーのインターフェースにその文字が現れる。リーパーはマガジンが入っていない殺傷能力0のG18Cを素早く構えて基地の中に侵入している。
『ヴゥゥン!』
敵兵がいきなり表示される。リーパーはその敵兵の頭めがけてG18Cのトリガーを引く。しかし、何かを発射したりした
次々に現れるARの敵兵が現れては頭に撃ち、現れては頭を撃つというハードな事をリーパーはしていたものの、周りから見れば何も無い空間に銃を向けて空撃ちするという何ともシュールな絵になっている。
―――MOVE OUT
矢印が表示され、リーパーは指示に従う。
『ヴゥゥン!』
目の前に一気に3人の敵が表示されるが、リーパーは左から『バン!バン!バン』と頭を撃ち抜く。
『ヴゥゥン!』
次は曲がり角の曲がったところに多数の敵兵が表示されていた。リーパーは角から顔と銃口を覗かせて、1体ずつ頭を撃ってエリアを殲滅する。
―――SAFE THIS AREA
次は防衛線の模様。何も無い所に防衛目標の仮想オブジェクトが表示される。
―――このオブジェクトは、、、。ハッ、笑わせてくれる、、、。
防衛目標の仮想オブジェクトは貧乳のロリータだった。さすがのリーパーも苦笑いだ。
そして、周りからは敵兵が侵攻してくる。
―――どいつもこいつも俺をロリコン呼ばわりしやがって、、、。誰がロリコンだ。俺は貧乳が好きなだけなのにどうしてそうなるんだ。
「まぁ、何でも良いや。」
――FINISH
訓練終了の文字が表示される。リーパーは見事戦闘訓練をやってのけた。リーパーは少し疲れた様子だった。評価はAマイナス。まぁまぁと言ったところだろうか。精密射撃の観点から見ると少し物足りないような気もした。
そして、暑苦しいインターフェースを外す。
「やっぱ新鮮な空気、そして美味しい水が一番だ。」
そう言ってペットボトルの水を全て飲み干す。しっかりリサイクルをするのか、飲み終わったボトルはラベルを外している。
リーパーは端末を開く。何やら新しい通知が届いていた。
【通知】
ウクライナにユーロ空軍1個小隊『ヴァイス・シュヴァルツ』を派遣。これにより、ウクライナ又はその付近で活動中のストライク・ブラック戦闘員は航空戦力を早急に要請が可能。
「そんなモンは良いんだよ!!地上部隊を寄こせ!!地上部隊を!!」
リーパーは地上戦力を欲していた。なぜなら、ウクライナ東部のストライク・ブラックはリーパーだけだから。
「あぁ、腹減った。」
リーパーは訓練をして少し腹が減ったのか、少し早いが食堂へ行くことにした。
「?」
リーパーが食堂に向かう途中、基地の鉄格子の向こうで基地を眺めている少女―――サーシャがいた。
「あら?あの娘が気になるの?」
たまたま近くにいたチェブラーシカが声を掛けてきた。
「いや、前に絡まれたからな。変なガキだ。」
「いや、多分あなたの方が変なガキだと思うけどそこは置いておいて、確かあの娘は―――」
「サーシャだろ。」
「そうそう!幼女には目が無いのね!さすがロリコンだわ!」
「ロリコンじゃねぇ!」
リーパーはロリコン呼ばわりされると怒るのだ。しかし、チェブラーシカはそんなのを構わずに話を進める。しかし、声のトーンも顔を暗くなってきた。チェブラーシカが暗い顔を見せる事は滅多に無い。
「あの娘のお父さんの事、、、知ってる?」
「あぁ、死んだんだってな。」
「そう。捕虜になった時に殺されたのよね。」
「あぁ、聞いた。それじゃあ、何でサーシャは基地を眺めてる?」
「あの娘は帰りを待っているのよ。もう帰ってこないお父さんの事を。」
少しの間だけ沈黙が訪れた。リーパーは2本目の水を開けて飲む。
「誰もその事を伝えようとはしないのか。」
「あの娘には早すぎるわ。お父さんの死は、、、。」
「いや、俺は死んだのを知らない方がかわいそうだと思う。長く待ち続ければ続けるほど父親が死んだ時のショックは大きいだろう。」
「でも、、」
「現実とは辛いものだな。」
そう言ってリーパーはその場を去り、食堂へ向かった。
「現実は、、、辛いんだ、、、。」
リーパーは食堂へ向かうため、基地の中に入る。基地の中はどこの部隊かは分からないが、掃除の担当となっている部隊が清掃をしたのだろうか。床がピカピカになっている。
「り、リーパー!」
バラライカが待ち構えていたかのようにリーパーを呼び止める。
「バラライカか、どうした?」
「ちょっと、時間、、、良い?」
「これから飯を、、」
「良いから早く私の部屋に来なさい!」
「だから飯、、、。」
「い、い、か、ら!」
「はいはい、、、。」
リーパーは服を強引に引っ張られてバラライカの部屋に連れていかれた。
バラライカはリーパーを部屋に連れ込むと、鍵を掛けてカーテンを閉めた。この基地の兵士用の個室はとても狭い。例えるならば日本のビジネスホテルよ部屋位の広さだ。バラライカの部屋にはクローゼットと机、そしてベッドしか無かった。
「何か飲む?」
「早く飯が食いたい。」
「コーヒーね。――――全く、デリカシーが無いんだから、、、。」
「何か言ったか?」
「何も言ってない!!」
バラライカは顔を赤くしてコーヒーを準備する。さっきから彼女は何かセカセカして、落ち着きが無い。しかし、リーパーはそんな事は気にしていなかった。
「はい。コーヒー。」
「冷たいのが良かった。」
「うるさい!さっさと飲む!!」
「はぁ、、、、」
リーパーは机にマグカップを置く。そして、椅子に腰かける。
「ねぇ。」
「何だ。」
バラライカはリーパーに話しかける。しかし、次の言葉が出るまでに少しの間沈黙する。
「あんたの過去を知りたい。」
「―――知ってどうする。」
「あんたの事をもっと知りたいの!!」
バラライカはリーパーを立たせて、ベッドに押し倒す。
リーパーはバラライカに押し倒されたが、何も抵抗をしない。
「―――俺の過去を知ってどうする、、、、お前に俺の何が分かるっていうんだ!!」
「あんたの事は全然分からない!でも、、、でも、、、」
バラライカの喉元に何か言い難い言葉が登って来る。こんな事を言って良いのだろうか?そして何より、自分の気持ちがバレないだろうか。バラライカの脳裏にそんな事が浮かぶ。しかし、そんな事からずっと逃げていたら、リーパーはどこか遠くに行ってしまう。そう感じたのだ―――。
「でも、その傷を癒せるのは、――――私だけだから!!」
「俺は全て捨てたんだ。ただ、それだけだ。」
そう言ってリーパーは上に乗っているバラライカをどかす。そして、立ち上がる。
そして、さっき机に置いたマグカップを右手に持ってコーヒーを一気に飲み干す。
「!?」
その時、リーパーは何か異変に気付いた。舌に残る強烈な苦み。リーパーが感じ取ったものは、、、。
―――クソッ!!睡眠薬だ!!
そう感じた時にはもう意識は朦朧としており、強烈な眠気がリーパーに襲い掛かる。
―――急いで、、、、外へ、、、出ないと、、、マズい、、、、。
しかし、リーパーはドアノブに手を掛けた所で意識を失って眠ってしまった。
その様子を見たバラライカは、リーパーの元へ歩いていきリーパーを持ち上げてベッドに置く。
「あんたが、、、あんたが私の気持ちに気づかないのが悪いんだから、、、。」
バラライカはリーパーの横で横になり、リーパーの体に抱き着く。
「少しだけ、、、少しだけ、、、私のになってよ。」
バラライカは寝ているリーパーのインターフェースと黒いマスクを取って、自分の唇をリーパーの唇に重ねる。
「んんっ、、、。んっ、、。」
リーパーの舌にバラライカは自分の舌を絡める。バラライカは強く、激しくリーパーを求めるが、リーパーは何もしてこない。
そして、バラライカはリーパーの唇から何か寂しく、名残惜しそうに自分の桜色に染まった唇を離した。
「無理やりされてんのに、、、、何で抵抗しないのよ、、、。何で私の気持ちを分かってくれないの、、、、。」
バラライカの瞳には光り輝く雫が浮かんでいる。そして、その雫はポタポタとリーパーに落ちていく。
「もう私、嫌だって言っても止めないし謝らないから。」
そう言ってバラライカはリーパーの装備を外し、服に手を掛けて脱がせ、ズボン、そして下着を脱がせたのだった――――
リーパーは意識を失ってからどれだけ時間が経ったのだろうか。リーパーは勢い良く目覚めると、自分は全裸になっていて隣には全裸のバラライカが自分に強く抱き着いていた。
――――どうしてだ。どうして自分は抵抗をしなかった!!
リーパーは自分の抵抗出来なかった弱さを責める。
「俺は、、、、共産主義者以下の下劣な人間だ、、、。」
リーパーは自分の服を着て装備を着けるとバラライカの部屋から出て行った。
「あいつは、、、、私の事を愛してくれなかった、、、、。」
決して手に入らない物だと悟ってもなお、彼女は死神が居なくなった後、光が微かに差し込む自分の部屋で冷酷な死神を想うのだった。
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