第10話 優しさで包み込んで

――――ンンッ、、、。何か暑いな、、、。でも、、。柔らかくて、、、、。何だか分からないがいい匂いがする、、、。

 リーパーは、薄っすらと目を開ける。すると、自分の体に何かが密着してる事が分かる。

――――これは、、、。

「バラライカじゃねーか!!何やってんだよ!?」

 さすがのリーパーも飛び起きる程の大事件――なんと、バラライカが自分に抱き着いていたのだ。

 しかし、バラライカは起きない。ハハッ、このままどっかに行って済ませれば良いや―――。そんなリーパーの甘い考えは通用しなかった。それは何故か。理由は簡単。バラライカの脚がリーパーの脚に絡まっているからだ。

 うまく外そうとして起きてしまったら、「あんたバカぁ?」じゃ済まない。

 それこそ本当にラーゲリ(強制労働所)に送られてしまう。

「あれ、おかしいな。全く離れない、、、。」

 うまく外す以前の問題発生。バラライカの脚から脱出できない問題が発生。

――――あ、、、。終わった、、、。

 リーパーは完全に積んでしまった。

――――そうだ。このまま寝たふりをして、起きたら開放されるはず。よぉーし。

 リーパーは寝たふり作戦を開始する。

――――バカめ。俺の作戦勝ちだna、、、。

 リーパーは寝たふりではなく、普通に寝てしまった。目をつぶると寝る。それがリーパーなのである。


 3分後、

――――あぁ、、、。私、、、。寝ちゃったの、、、か、、、。

 今度はバラライカが目を覚ます。

――――よいしょ。って、、、。そうだった。私はこいつに抱き着いて寝たんだった!!ヤバい!!早く起きないと!!

 バラライカは起き上がろうとする。しかし、問題発生。

――――ヤバい、、、。こいつが脚を、、、絡ませて、、。抜け出せない、、、。いや、私が絡ませてるのか、、、。ははは、、、。

 リーパーの脚にバラライカは自分の脚を絡ませている事に気づく。

――――このまま抜け出してそっとしておけば、、、。そんなバラライカの甘い考えは通用しない。リーパーの脚の重みで自分の脚が潰れていて動かせないのだ。

――――もう、こうなったらヤケクソだ!このまま一気にいけばバレない!!

 バラライカは一気に脚を引き抜く。すると、バラライカの脚は抜けたもののリーパーがうめき出したのだ。

「うぅ、、、、。よく寝たぁ、、、。って、お前何やってんの?」

「シェェェェェェェェェエエエ!!」

 バラライカの顔色が一気に青ざめる。一方リーパーは、さっきの事など忘れてしまった様子。

「い、、いや、、、その、、、あの、、、えぇ、、あぁ、、」

「?」

 リーパーは不思議そうにバラライカを見つめて首を傾げる。

「あぁっと、、、。そうだ。あ、、あんた!寝てるときにわ、、私を、、、、!!」

「いや、俺が最初ここで寝てたんだから何かしたのはお前だろ。」

 バラライカは何か良い言い訳を考えたものの、リーパーに即論破されてしまう。そしてバラライカの顔はソビエト連邦の国旗の様に真っ赤になる。

「う、うるさいっ!!私は悪くないったら悪くないっ!!」

「何言ってんだ?このビッチは?」

「最後の一言が余計なんじゃい!!」

「はんでほれは!!(何で俺が!!)」

 バラライカは素顔のリーパーのほっぺをぐにー。と引っ張る。今度はマスクをしていない為、よく伸びる。

「そうだ!昼飯!」

 リーパーは飛び上がって基地施設に向かって走り出す。

「早くお前も来いよ。」

 そう言い残してリーパーは去ってしまった。

「全く、本当にバカなんだから、、、。あいつ。」

 バラライカもトボトボと歩き始めた、ある平和な日の一コマなのであった。


 リーパーはいつものように食堂に行く。

「リーパー!捕虜だった可愛い女の子とイチャイチャしてたんだってな!!ガハハ!!」

「まだ昼なのに酒か?ソコロフ。」

 ソコロフは昼から酒を飲み、すでに酔っぱらっていた。顔が真っ赤で酒臭い。

「良いじゃねーか!!昨日は頑張ったんだし!!どうだ?お前も。」

「あまり酒を飲まない方が良いと、アドルフ・ヒトラーは言った。」

「うるせぇナチ公!こっちはスターリンなんだよ!!ガハハ!!」

 まともな会話が成立しない。

「良かったなリーパー!!当分は大丈夫だな!!ガハハハハハ!!」

「ケレンスキー、、、。お前まで、、、。」

「それとも、あの娘ともう『ファック』しちまったのか?ガハハハハ!!」

「はぁー、」

 リーパーは呆れて下を向く。ケレンスキーもソコロフももう完全に酔っぱらっている。

「ちょっとそこのクソ親父共!!誰がこんなヤツとヤらないといけないのよ!?」

 バラライカが食堂に乱入。ソコロフの胸倉を掴む。

「止せ、ソイツはお前の上官だぞ!」

「うっさい!!あんたは黙ってて!!」

 バラライカはリーパーの忠告も聞こうとはしない。

「おぉ、威勢の良いお姉ちゃんだな!!」

 ソコロフはバラライカの手を勢いよく放す。

「もうリーパーとはヤったのか?」

 ソコロフは意識が朦朧としながらバラライカにそう言う。

「「してねぇって言ってんだろ!!」」

 二人のタイミングはピッタリだった。

「じゃあお姉ちゃん、、、。勝負をしようじゃねえか、、。」

「ほう、、、。それで、、、。何の勝負よ?」

「それはな、、、。『脱衣テトリス』だ。」

「ほう。面白そうね。」

―――――どこの国にも『脱衣』系のはあんのか、、、。

 リーパーは呆れて頭を抱えた。

「負けたら服を一枚づつ脱いでいって、全裸になったら負け。それで、負けたら言う事を何でも聞く。良いな?」

「ハッ!!テトリスは得意なんでね。私が買ったら20グリヴナね。」

「分かった。じゃあ俺が買ったら、、、。」

「あんたが勝ったら、、、。」

「『夜の相手』をしてもらおう。一晩な。」

 その言葉を聞いたリーパーは、ソコロフの胸倉を掴みかかり床に叩きつけた。

「うはぁっ!!」

 ソコロフは床に勢いよく叩きつけられる。

「リーパー!!もう止めて!!」

「止すんだリーパー!!」

 リーパーは周りの皆に止めらる。食堂は騒然としている。

「理性を保てなくなった人間はもう人間ではない。人間は理性があってこそ人間と呼べるからな。もう、理性の無いやつはただの『害獣』であるが故に人権など存在しない。だから、仲間が一定の理性を保てなくなったら俺が殺す。もう仲間では無いからと、俺は以前言ったはずだ。」

 リーパーは倒れているソコロフの胸倉を掴み上げてそう言う。

「ハハッ、、、冗談だ、、、。」

「今回は見逃す。しかし、次にその様な汚らしい発言をしたら俺はお前を、、、例え冗談で言ったとしてもぶっ殺す。分かったな?」

 すると、食堂に騒ぎを聞きつけたチェブラーシカがやって来る。

「ちょっと!何の騒ぎ!?」

「隊長殿がやらかしてリーパー先生にお説教食らってる。」

 ケレンスキーが簡潔に説明をする。チェブラーシカはそれを察する。

「リーパー。もう止めてあげて。」

「フーッ、、。そうだな。」

 リーパーはソコロフを放す。

「今日は自室にいるんだ。」

「アイアイサー」

 ソコロフは自室にノロノロと戻っていった。


「それでよぉ、俺の初陣の時はよぉ。もう、迫撃砲がすごかったんだぜ。」

「フッ、ミンチにならなくて良かったの一言に尽きるな。」

「だろぉ。そんで、、、」

 リーパーは、酒に酔った兵士達との会話をさっきの事は無かったかのように振舞って楽しんでいた。

「あら?浮かない顔ね。」

 チェブラーシカはぼーっとしているバラライカの元へ。

「いや、何であいつはあんななんだろうって、、、。」

「あぁ。そんな事で、、、。意外と優しいでしょ?リーパー。」

「え?いいや、そんな事無いって、、、」

「えー?私は彼はあんな感じでも優しいと思うよ。さっきだって、ソコロフにちょっかい出されてたあなたを助けてくれたのは、リーパーでしょ?」

「ハッ!?ち、、違う、、あんなのは自分で、、、」

 バラライカは顔を真っ赤にさせる。

「フフフッ。それでも、ああやって助けてくれたのよ。それを、優しさって言うんじゃない?」

「そうかもね。」

「そして、あの優しさの裏では何かあったのよ。過去に。」

「えっ?あなたあいつの過去知ってるの?」

「え?いいや、知らない知らない!と、言うよりも話さないのよ。彼は自分の過去を。」

「そう言えば、前に『全ては俺を裏切って、俺は全てを捨てた』って言ってた、、、。」

「そうね。やっぱり何かあったのよ。彼には。でも、その過去が今の彼の優しさに繋がってるんだわ。きっと。それじゃあ、私は帰るわ。」

 そう言って、チェブラーシカは自室に戻った。

「あいつは本当にバカなんだから、、、。でも、、、。ありがと。」

 バラライカはそう呟いた。そんな呟きは、リーパーには当然聞こえなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る