第8話 バラライカの音色は

 リーパーは捕虜を一人連れて親ロシア派の基地から脱出を試みる。

「こちらリーパー。捕虜を確保。残りのも開放して連れていく。オーバー」

『了解。さっさと帰ってシャワーを浴びて寝よう。アウト。』

 リーパーはソコロフにインターフェースで連絡をする。

「それより、他の仲間は?」

 リーパーは女性兵士の機嫌を伺いながら恐る恐る聞く。

「部隊の皆は殺されたわ、、、。こんな私だけ生き残って、、、。うっ、、、。」

 女性兵士は暗い顔をして瞳には涙が浮かぶ。するとリーパーは、

「おい、お前が誰だかは知らんが兵士なんだろ。じゃあ、泣くんじゃねぇ、、、。良いか?お前は自分を『こんな』と言ったな。しかし、『こんな』お前の為に何人が命がけで戦ってると思う?お前は生きて帰るのが死んだお前の部隊の供養じゃねぇのか?」

 リーパーは女性兵士の肩を力強く抑えた。女性兵士の肩からは震えが伝わってくる。

「分かったなら生きて帰るぞ。」

 リーパーと女性兵士は、施設の外へ出た。



リーパーと女性兵士の上には、漆黒の夜空と無数の星が散らばっていた。基地は静けさに覆われていた。

「そう言えば、お前の名前は?」

「それはこっちのセリフ。服装と言い装備と言い、あなたはウクライナ軍ではないようね?」

 女性兵士の観察力は鋭かった。

「俺はウクライナの同盟のEUの同志の『ストライク・ブラック』って組織の使い捨て戦闘員だ。だからこんなトコに飛ばされたんだろ、、、。俺は、、、。『リーパー』だ。よろしく。」

 リーパーは血で汚れた右手を差し出す。しかし、

「あなたのそれ本気?本名は?出身は?家族は?」

 彼女は甘くは無かったようだ。しかし、リーパーは彼女の言葉の何かに引っかかったのか、急に声が大きくなる。

「俺には家族はいない!全ては俺を裏切って、俺は全てを捨てた!」

 リーパーは急に黙る。インターフェースの中の瞳に、何かが浮かぶ。

「何かあなたにもあったようね、、、。ごめんなさい、、、。」

 彼女は自分の過ちに気づいたのか、リーパーに謝る。

「いや、良いんだ。俺が勝手に怒っただけだ。お前は何もしていない、、、。そうだろ。」

「私はバラライカよ。よろしく。」

 今度は女性兵士―――バラライカが右手を差し伸べた。

「そうか。よろしく頼む。バラライカ。」

 リーパーはその右手を掴んだ。


 リーパーはバラライカを連れて仲間との合流ポイントに向かう。基地の監視カメラには帰りもしっかりと気を付けなくてはいけない。

『おいリーパー。どうなっている!?』

 ソコロフからお怒りの連絡が来る。すると、リーパーはブチギレる。

「うるせぇ!監視カメラがあるんだよボケ!!黙って待ってろ!アウト!」

 リーパーは通信をブチ切った。

「忍耐力が足らんな。そう慌てなさんなの精神だ。」

 リーパーは呆れる。すると、

「時間になっても誰も帰ってこねぇ、、、。どーなってる?」

 親ロシア派の兵士の声が前方から聞こえる。すると、今度は後ろから、

「おい!見てくれ!こいつら死んでるぞっ!」

 親ロシア派の兵士の亡骸を発見されたしまったのは、敵の声で分かった。基地にはサイレンが鳴り響く。

「ヤベェ!バレた!」

 リーパーは胸のポーチからC4のスイッチを取り出すと、『ピッ!』とスイッチを押す。すると、さっき兵士が寝ていた兵舎が爆発、炎上する。

「さてと、パーティータイムだ!俺から離れるなよ?」

 リーパーは両手にG18Cを装備し、勢いよく走った。そして前方の敵2人の頭を撃ち抜く。そしていつも見慣れた光景がインターフェース越しの目に映る。

「ソイツのクリンコフを再利用してやれ!死人に銃は要らねぇ!」

「分かってるわよ!バカ!」

 バラライカは敵のグレネードランチャー付きのAK74とマガジンを拾う。

「アハハハハ!!これもこれで良いんじゃないか?」

「イカれてるわ、、、。」

 走りながら次々と敵の頭に鉛弾をお見舞いするリーパー。さすがに事態に気づいたソコロフから連絡が入る。

『おい!こっちも支援攻撃を行うぞ!良いな!』

「待て!管制室のクソ共は俺が葬る!良いな!殺すなよ!俺のジョークをバカにしやがったから俺が殺すんだ!」

 リーパーは急に止まってバラライカのクリンコフを奪う。そして、基地にそびえ立つ管制室に照準を合わせ、銃の下部グレネードランチャーを発射する。

 すると、管制室のガラスは吹き飛び、管制室は美しく綺麗に爆散する。

「ザマァ見やがれ!クソ共が!ファックしてやったぜ!」

 リーパーはクリンコフをバラライカに投げて返し、燃え上がる管制室に中指を立てる。

「さぁ、ヒット&アウェーだ。ずらかるぞ!」

 リーパーとバラライカは再び走り始めた。

「アンタ、、、イカれてるわ、、、。」


 親ロシア派の基地はリーパーのおかげで大混乱に陥った。しかし、リーパーはそれを面白がっている。

「ちょっと喉が渇いた。休憩しよう。」

「はぁ!?ちょっと、何いって、、、」

 リーパーは物陰に入り、バラライカをそこに連れ込んだ。すると、

―――――ガタガタガタガタ、、、

 目の前にT-54戦車が大きな音を立てて通過する。バラライカは口を開けたままだ。

 そんな中、リーパーは冷静に右手に水を持って口に入れ、ソコロフに連絡をした。

「ソコロフ。タンクを発見した。RPGは持ってきたか?」

『残念だ。RPGは持ち合わせていない、、、。』

「そうだよな、、。潜入任務のはずだからな、、、。」

 はぁ。とリーパーはため息をつく。ソコロフの声の後ろからは重機関銃マシンガンの音とスナイパーライフルの音が激しく聞こえた。敵兵に弾丸の雨を降らせて、残ったのはスナイパーが片付けているのだろう。

「バラライカ。大体あそこら辺に回収部隊がいる。お前1人で走っていけ。」

「はぁ!?」

 リーパーは暗闇を指さした。そこは漆黒の闇に覆われていたが、銃口から出たマズルフラッシュ(銃口から出てくる炎の様な物)とスコープが基地の照明で反射して輝いている光がかすかに見えた。

「俺がタンクの相手をする。その隙に逃げろ。」

「でも、対戦車兵器が無いじゃない!?一体どうやって、、、」

「大丈夫。俺には死神リーパーが憑いているからな、、。さぁ行くぞ!!」

 リーパーは勢いよく物陰から飛び出す。

「走れぇ!!」

「全く、バカなんだからぁぁぁああ!!」

 バラライカはリーパーに指定された場所に走っていき、漆黒の闇に飲み込まれた。

 T-54戦車はバラライカに気づき、バラライカに主砲を向ける。

「おらデカブツ!!お前の相手はこっちだぞ!!」

 リーパーは戦車に発砲する。発砲した銃弾は戦車の分厚い装甲に弾かれてしまう。

 効果は全く無いようだ。しかし、戦車はリーパーの方に主砲を向ける。

――――1、機銃の正面にならないように本体に近づく。

 リーパーは戦車の周りをぐるぐると回り、正面に付いている機銃から逃げる。

 すると戦車はリーパーから距離を取ろうとする。

――――2、戦車に距離を取らせるな。

 リーパーは距離を取ろうとする戦車に走って近づき、キャタピラに轢かれないように戦車に乗る。

「クソッたれ!死ね!」

 戦車上部のハッチからAK74uを構えた敵兵が顔を出す。しかし、リーパーは頭を撃ち抜く。鮮血が空中を舞う。そして死体を戦車の外に引きづり出して投げると、グレネード2つの安全ピンを同時に抜いてハッチの中に放り込んでハッチを足で踏むように閉める。ハッチを踏むときに敵兵の右手を巻き込んでしまったが力づくで閉める。

『おい!こっちにソレをよこすな!』

『早く外に捨てろ!!』

『頼む!開けてくれぇ!早く!早くぁあああ!!』

 戦車の中で爆発音が鳴る。そして戦車の中が静かになる。リーパーはハッチを開けてG18Cをフルオートで乱射する。中には血だらけの敵兵士が横たわっていた。戦車の中は血の海だった。

『リーパー、目標を確保した。敵の増援部隊が接近中だ。早く帰るぞ。』

 ソコロフからバラライカを確保したと情報が入る。

「了解。先に行け。コリブリはもう近くか?」

 インターフェースでリーパーはコリブリを呼ぶ。

『もう近くですよ。』

 リーパーの視線の先にはコリブリのヴェノムがあった。リーパーをライトで照らしている。そして、ハシゴが垂らされる。

『早く乗って下さい。』

「言われなくても。」

 リーパーは垂らされたハシゴに乗る。

「任務完了。これより帰投する。」

 そしてヴェノムは移動を開始する。

「おやすみ。クソ野郎共。」

 リーパーはヴェノムに乗り込み、炎上する親ロシア派の基地に中指を立てる。

「俺はもう寝る。朝になったら起こしてくれ。」

『了解。おやすみなさい。リーパー。』

 リーパーは疲れ切ったのか、目を閉じると深い眠りについてしまった。

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