第3話 うそつき

 次の日

「起きて下さい!リーパー!リーパー!?」

「もうちょっとだけ寝させてくre、、、、。」

 ヘリのパイロットのコリブリとリーパーの攻防戦がヴェノムの中で行われていた。

 リーパーは朝に弱いのだ。

「ふぁ~。眠い眠い。」

 リーパーの髪の毛は寝ぐせで立っている。

「朝食です。」

 コリブリがレーションを渡してくる。

「ドライフルーツあるか?フルーツ食わないと頭が起きない、、、。」

「はいはい。ありますよ、、、。」

 コリブリはドライフルーツの入った銀の真空パックをリーパーに渡す。

 そのパックをリーパーはナイフで開封し、中からはおいしそうなドライフルーツの匂いと共にドライフルーツミックスが出てくる。そして、それを一つ取り出して口の中に放り込む。

「あぁ、、、。フレッシュなフルーツが食いてぇ、、、。」

「任務が終わるまで我慢してください。」

 なんだかんだ言って、ドライフルーツを食う。そして、持参した『モンスターエナジー』をごくごくと飲む。

「うへぇ、、、。こいつだけは止められない、、、。」

「あんまり飲みすぎると死にますよ。」

 リーパーは薬物中毒者のような顔をして、朝食のモンスターエナジーとドライフルーツを食った。


 リーパーは物凄く暇だったため、基地の中をブラブラと散歩していた。

 そして、基地の鉄条網の近くにベンチがあったためインターフェースを着けたままそこで眠る事にした。リーパーは暇さえあれば眠るのである。

「へーたいさん。」

 鉄条網の外から幼い少女の声がした。

「、、、。」

 リーパーはそんな声は聞こえもしなかった。何故なら爆睡しているからだ。

「へーたいさんっ!!」

 その少女は大きな声で呼んでみた。しかし、

「、、、。」

 相変わらず爆睡している。

 少女は足元に転がっていた石ころを手に持ち、リーパーに投げつける。しかし、

「、、、。」

 寝返りを打っただけで全く起きない。

「ぶーっ!」

 少女は怒ってどこからか、結構太くて長めの木の棒を持ってきてリーパーを思いきり突いた。すると、

「何の様だ?」

 リーパーは起き上がってキョロキョロと辺りを見回す。すると、

「へーたいさーん。何してるの?」

 鉄条網の外には金髪、色白で大きくなったら恐らく、、、いや、確定でハリウッド女優越えの顔、そしてまだ成長途中のぺったんこの胸の少女ロリがいた。

「見れば解るだろ。訓練だよ。」

「嘘ばっかり。」

 少女の目はごまかせなかったようだ。

「へーたいさん見ない顔だね?どこから来たの?」

「生まれたのは日本だ。んで、俺はドイツ辺りからここに手伝いみたいな感じで来た。」

「へー。」

「自分で聞いたんだから興味を持ってくれよ、、、。」

 少女はポケーっとした顔でリーパーを見つめる。

「何だ?」

「その変なのはなに?」

「仕事道具だ。」

「何のお仕事?」

「ハーッ、、、。兵隊なんだから人を殺す仕事だよ。」

「えっ、、、。」

 少女はリーパーの言葉で氷のように硬直した。

「なーに。お前は殺さん。」

「『せーどれー』にするんだ、、、。」

「どこでそんな汚い言葉を覚えた?しかも、俺はお前を性奴隷になんかしねぇ。俺はロリコンか。」

「本当?」

「当たり前だ。」

「ロリコンなんだ、、、。」

「そっちじゃねー!!」

 リーパーは、話が噛み合わない少女にイライラして中指を立てそうになったが少女に立てるべきではないと冷静になった。

「へーたいさーん。お名前は何て言うの?」

「俺か?別に知らなくていいだろう?」

「ケチ。」

 そう言って少女は、リーパーに親指を下に向けて『ブーイング』をした。

「そういう悪い事は誰が教えるんだ?」

「そんなのじょーしきだよね。」

「とんでもない国だな、、、。」

 リーパーは頭を抱えた。

「私の名前はサーシャ。よろしくね。変なへーたいさん。」

 その少女は――サーシャは、この戦場にほど近い危険な街で、太陽のように眩しい笑顔を死神リーパーに向けた。そして、リーパーが何かをしゃべろうとした瞬間にどこかへ走って行ってしまった。彼女はリーパーの『リーパー』という名前を知らないだろう。しかし、彼女はリーパーの名前を知らなくて良かったのかも知れない。なぜなら、あの輝かしい笑顔の陰になってしまうかもしれないからだ。

「変なクソガキだった。」

 リーパーはただただ立ち尽くし、サーシャの走っていく後ろ姿を見ていた。


 太陽が空の真上に上がった正午。リーパーは暇で暇で仕方が無かったため、街に出かけてみる事にした。街には、砲撃で崩れたらしい建物や、壁に残る銃弾の跡が残っていた。腹が減ったリーパーは、どこかで飯を食おうと飯屋を探していた。

 ここは港町。きれいなケルチ海峡が一望できる街。しかし、過去には親派が占拠していた、、、。なんて暗い過去も持っているこの港町。しかし、街は活気あふれていた。

「おじさん。あそこの花に水あげておいたよ。」

「ありがとう。助かるよ。」

「あとここの花。もうちょっとこうしたら?」

 リーパーが歩いていると、近くで聞き覚えのある声を聞いた。そして、リーパーは声のする方へ向かう。

 その聞き覚えのある声は小さな花屋の店先から聞こえた。その店先には金髪、色白、ぺったんこの――――サーシャがいた。

 サーシャは店で、『おじさん』と呼んでいた男の手伝いをしていた。

 リーパーは少し気になったのか、インターフェースを脱いでバックに詰め、サーシャが見た『リーパー』では無い恰好をした。そしてその店へ。

「あ!いらっしゃいませ!」

 サーシャは店に入ったリーパーに元気の良い返事をし、眩しい笑顔を見せた。

 しかし、サーシャにはリーパーだということはバレていないようだ。

「お客さん。何をご注文で?」

 店の奥からサーシャが『おじさん』と呼んでいた、腕の筋肉がすごいイカツイ男が出てきた。

「あぁ、、、、。セ、、、戦友の墓に添える花を、、。」

 ノープランで入店したリーパーは、適当に花のオーダーをする。

「あぁ、そうですか。何かご希望は?」

「いいや。お任せで、、、。」

「サーシャ。お客さんのお友達のお墓に添えるお花を選んできなさい。」

「分かった!」

 サーシャはそういうと、店先の花のところへに飛んでいった。

「AK-12、、、。」

 リーパーは、店の奥に置いてあったAK-12を指さす。AK-12は、ロシア軍で採用されたAK-74のNATO弾が発射可能なモデルだ。

「私は兵士だったもので、、、。」

「ロシア軍か、、、。」

 リーパーは、この男がロシア軍であることはすぐに分かった。なぜなら、彼の着ているズボンの迷彩がロシア軍のものであったからだ。

「はい、、、。元ロシア軍です、、、。」

 その男は下を向いた。

「大丈夫だ。今ロシア軍で無いなら殺す必要は無いからな。」

「ありがとうございます。私の名はマレンコフです。」

 男は頭を下げた。

「あの娘はお前の事を『おじさん』と呼んでいたが、親ではないのか?」

 リーパーが男に尋ねる。すると、その男は深呼吸をしてから話始めた。

「私はあの娘の父親ではありません。親戚でもありません。」

「じゃあ何なんだ?」

「私は、、、、。あの娘の父親を救えなかった、、、。いや、殺したのです。」

「どういう事だ?」

「私は以前、ロシア軍で親ロシア派の支援をしていました。所属は前線から少し離れた基地です。そこで、捕虜の面倒を見ていました。そこに彼女の父親のイワンコフが捕虜としてやってきました。最初は、彼とは捕虜と看守の関係でしたが、話をしていくうちにだんだん打ち解けて、友達になりました。そして、私の日課は毎日檻の中の友達と話すことになりました。そして、戦争が終わったら彼の家に遊びに行く。そう約束をし、手書きの地図を貰いました。そんなある日。親ロシア派の兵士が捕虜の『粛清』を始めました。そして、彼も連れていかれて粛清されました。彼の最後の言葉を忘れたりしません。『サーシャをよろしく。』と、、、。私は、彼を救う事は出来ず、ただただ、彼が『粛清』されるのを眺めているしか出来ませんでした。」

「捕虜を殺すのは国際軍事条約のなんかで禁止されていたはずだ。」

「そうです。親ロシア派の人間は、平気で条約を破棄しました。そんな彼らを私は許す事は出来ませんでした。上官に報告しても見て見ぬふり。そんな腐りきった軍と国を捨てて、私は脱走しました。そして、何日もかけてこの街にたどり着き、ボロボロになったイワンコフの家にいたサーシャを発見しました。彼女は大量の乾パンを食べて生き残っていたようです。そしてサーシャにこう言いました。私はお父さんの友達だ。帰りが遅くなるから君の面倒を任された、、、。と。そしてサーシャは今でも帰ってくるはずもない父親を待ち続けているのです。」

「そうか。それで、彼女の母親は?」

「もうとっくに犠牲になっているとイワンコフから聞きました。」

 そんな暗い雰囲気が漂う店内に、サーシャが戻ってきました。

「はい。お待たせしました。」

 明るい笑顔で暗い雰囲気を吹っ飛ばしてくれた。

「お客さん、お友達って誰?」

「あぁ、、、。リョウという面白い男の墓だ。」

 リーパーは、適当に思いついた名前を言う。

「そういえば、お客さんってへーたいさんだよね。」

「まぁ、そうだ。」

「あの、、顔にへんなの着けたへーたいさん知ってる?」

 おそらくサーシャはリーパーの事を言っているのだろう。

「さーな。俺は知らない。」

 またリーパーはサーシャに嘘をついた。

「そっか。残念、、、。」

 サーシャは少しだけ残念そうな顔をした。

「さぁ、これはいくらだ?」

「5グリヴナです。」

「分かった。」

 そう言うとリーパーは、大量の札束を渡した。

「お、、お客さん、、、。お代は5グリヴナですけど、、、?」

 そう言われたが、リーパーは、

「どー見ても5グリヴナだが?」

 また嘘をついた。そして花束をもって店を出る。

「あなたは、、、一体?」

 マレンコフは背を向けたリーパーに話しかける。

「俺か、、、?俺は『天使セラフ』だ。」

 また嘘をつく。

「ありがとうございました!」

 サーシャが背を向けているリーパーに挨拶をした。しかし、リーパーは振り向かなかった。

 リーパーが持っている花束には、たくさんの黄色いユリが入っていた。

「バカ野郎。誰が嘘つきだ、、、。」

 黄色いユリの花言葉は『嘘』だった、、、。

「あのお客さん。面白い人だったな、、、。あの花。きれいだと思ってくれたかな?」

 サーシャはそんな花言葉を知らないのだった。

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