第2話 夢

「まさかお前が『ぺったんこ』の方が好きだなんて考えもしなかったぁ。」

 ケレンスキーは頭を抱え、ウォッカを一気に飲みながらリーパーに寄り添った。

「胸が『ぺったんこ』の方がスリムに見えるだろう?あと、俺は女性を性的な目では見ない。」

 リーパーはボルシチを飲みながらパンをちぎって食う。ボルシチは、濃いトマトの味と丁度良い暖かさで冷えた体を温めた。

「ほぉ。それは大変品の良い紳士様で、、、。」

「いや。それは『人間』である上では常識的な事だ。」

「それもそうだな。」

「理性を保てなくなった人間はもう人間ではない。人間は理性があってこそ人間と呼べるからな。もう、理性の無いやつはただの『害獣』であるが故に人権など存在しない。だから、仲間が一定の理性を保てなくなったら俺が殺す。もう仲間では無いからな。」

 リーパーは、マガジンの入っていないG18Cのスライドを引く。スライドを引いた時の音は快くも残酷で恐ろしい音がした。

「なぁ、何でお前は戦うんだ?」

 ソコロフがパンをむさぼりながらリーパーに問う。

「俺が戦う理由は無い。だが、少しでも昨日よりも良い世界になったらそれは俺の戦う理由かもしれない。」

「そうなのか、、、。」

「お前の戦う理由は?」

 今度はリーパーがソコロフに問う。

「俺はこの国がもっと安全に暮らせるように。この国から戦争を無くす為に戦っている。だから、ウクライナが平和になったら観光に来てくれ。待ってるからよ。」

「そうだな。」

「俺は戦争が終わったらカメラマンになりたい。」

 ケレンスキーがポーチの中からカメラを取り出す。

「俺は人の笑顔を撮りたい。皆が笑顔でいてくれるように戦うんだ。」

「じゃあ皆で写真を撮ろう。」

 ソコロフがウォッカの入っていたコップを置き、そう言う。

「クソ野郎共!全員集まれ!写真撮影だ!」

『ダー!』

 ソコロフの部隊がケレンスキーが立てた三脚の前に集合する。しかし、リーパーは前に集まらなかった。

「おい、リーパーも来い!」

「俺は写真映りが悪いものでな、、、。」

「うるせぇ!さっさと来い!」 

 ソコロフは怒鳴りつける。

「いや、これはお前の部隊の集合写真だ。俺はお前の部下じゃない。」

「何言ってんだ!お前はとっくに俺の部隊だ!もう一度だけ言う。こっちに来い。これは隊長命令だ!」

「無視したら?」

「カラシニコフ《AK47》で体に穴を開ける!」

「おっと、そいつは大変だ。」

 リーパーも三脚の前に集まる。

「ほら、カメラの方を向け。」

「分かった分かった。」

 仕方が無くカメラを向く。

「それじゃあ撮るぞ!」

 ケレンスキーはカメラのタイマーをセットし、急いで三脚の前に集まる。

「面白い事してんな。俺も混ぜろ。」

「俺も」

「俺も入れてくれ!」

 丁度通りかかったウクライナ軍兵士も三脚の前へ。そして、

「チーズ!」

 パシャッ!とカメラのシャッターが切られてフラッシュがたかれた。

 戦場で少しの間だけだが、平和が訪れた瞬間だった。

「この戦争が終わったらもう一度写真を撮ろう。」

 ソコロフが部隊の皆に笑顔でそう言う。しかし、

「その時に誰が生き残っているか、、、。」

 ケレンスキーが暗い顔をしてそう言う。

「テメェ!何を言いやがる!全員生き残るんだ!」

 ソコロフがケレンスキーの襟を掴みかかる。

「でも、この戦争で俺は家族を失った!」

「だからって弱気になるのか?親ロシア派は全員ぶち殺す。絶対だ。」

「止めて!ウクライナ人同士で殺し合うなんて馬鹿げてるわ!いつか暴力の無い和解交渉をするべきだわ!」

 チェブラーシカがソコロフとケレンスキーのケンカに参戦する。

「お前達の事情は知らない。だが、俺の部隊が到着すれば戦争なんかはすぐに終わる。」

 リーパーのその一言で、ケンカは収まった。しかし、部隊は三つに割れてしまったようにも思えた。それを見たリーパーは、部屋の隅にあるM4A1を指差す。

「前も説明したが、そのM4A1は誰が支援したと思う?ストライク・ブラックだ。ストライク・ブラックは最強の連合組織で、世界中に構成員、構成組織がいる。有名なところはEU《ヨーロッパ連合》だ。そして、俺達は世界征服をして、もう二度と戦争の無い平和な世界を造る。その為には平和を願う兵士達の団結が必要だ。味方で争っている暇は無いんだ。分かったな?」

「そうだ。俺達は争っている暇などない。祖国ウクライナを平和にする為に戦っている。」

「自分達が戦争の元を造ってはならないのよ。」

「ありがとうリーパー。お前のお陰で目が覚めたよ。」

 すると、リーパーに周囲が暖かい拍手を送る。

「何を言っているんだ。俺は兵士として、いや、人間として正当な事を言ったまでだ。」

「普通の事が出来るってすごいことなんだぜ。リーパー。」

 ケレンスキーが、リーパーにウォッカの入ったコップを持ってくる。

「ちょっとケレンスキー!子供に酒飲ます気!?」

 チェブラーシカが両胸の『ツァーリボンバ』を揺らしながら止めに入る。

「大丈夫だ。酒は強いほうだからな。」

 リーパーはそのコップを受け取って、本日二回目にウォッカを一気に飲み干す。

「でも、ウォッカは強い酒だな、、、。」

 うはー、とリーパーが息を吐く。

「やっぱりリーパーの両親も酒が強かったのかしら?」

「!」

 チェブラーシカの何気ない質問で、リーパーは机を叩き、キレてしまった。

「す、すまない、、、。」

 リーパーは謝る。しかし、周りは驚きを隠せていない。

「いいえ。こちらこそ、、、その、、、。ごめんなさい、、、。」

「リーパーは両親で何か嫌な事があったのか?」

 ケレンスキーが心配そうに聞く。

「俺に家族などいない。」

「そ、そうか、、、。」

 何かもっとツッコミたい所がたくさんあったケレンスキーだが、ここはしっかりと空気を読んだ。

「と、ところで、何なんだこれは?」

 ソコロフはリーパーの外したVRのようなものを指さし、話の話題を変える。

「あぁ、これは視野角を広げたり、ズームをしたり、その他情報を映し出すインターフェースだ。」

「どうして視野角なんざ広げる?」

「視野角を広げると、敵を瞬時に判断する事が出来る。そして、敵が大体いるような所を撃ちまくる。でも、遠近感覚がマヒする。精密射撃には向かないから、スナイパーをする時はズームを使う。」

「ほー。結構便利なんだな。」

「UAV《無人偵察機》なんかと情報をリンクする事だって可能なんだ。んで、俺はそのテストのモニターだ。」

「俺にも貸してくれよ。」

 ケレンスキーがインターフェースを子供のような眼差しで見つめる。

「大丈夫だ。もうちょっとでこれが世界中の軍隊で採用されるだろう。」

「そんなのが採用される前にこの戦争は終わって、俺達は退役。各自の『夢』に向かっているだろうがな。」

 ソコロフが笑いながらそう言う。

「それもそうだな。」

 部隊の皆はうなずきながら笑う。

「今日はもうお開きだ。さぁ、明日も早いからさっさとベッドで寝ろ。」

 ソコロフはそう言って自分の部屋に向かった。

「リーパーもしてねぇでさっさと寝ろよ。」

 ケレンスキーはリーパーの事をからかってからベッドに向かった。

「そんな事は良いとして、あなたはどこで寝るの?」

 チェブラーシカがリーパーに聞く。

「あぁ、俺は乗ってきたヘリで寝る。」

 そう言ってリーパーは、窓の外のヘリを指さす。

「あらそう。でも、寂しくなったらいつでも私の部屋に来て良いのよ?」

「その時になったら行く。まぁ、行かないと思うが。」

「おやすみ、リーパー。」

「あぁ、おやすみ。」

 そう言って、チェブラーシカは自分の部屋に戻って、リーパーは自分のヘリに戻った。


 リーパーのヘリはUH-1Yヴェノム。アメリカ軍やイギリス軍で採用されている輸送用ヘリコプターだ。リーパーはヴェノムのハッチを自ら開けて中に入る。

「お疲れ様です。リーパー。」

「お前もな。コリブリ。」

 パイロットのコリブリがリーパーをいたわる。

「もうちょっとでミーティングの時間ですね。」

「そうだな。」

 そう言ってリーパーはもう一度インターフェースを装着する。

 インターフェースで、ミーティングチャットに接続する。

『ギリギリだったな。リーパー。』

 ミーティングチャットは、ストライク・ブラックの幹部による会議だ。

 インターフェースには、各組織のマークがたくさん映し出されている。

『ウクライナはどうかね?』

 青い旗に星が円状に描いてある組織、『EU』の大統領がリーパーに聞く。

「思った以上にロシアが関与している状況だ。」

 幹部達がざわつく。

「しかし、我々が本格的に参入すればロシアもすぐに手を引くだろう。」

『分かった。EUの特殊部隊を一個中隊派遣しよう。』

「協力感謝する。よろしいですね。『マスター』。」

『あぁ。その件についてはリーパー。君に一任しよう。』

「ありがとうございます。」

 剣に大蛇が巻き付いているマークの組織、、、。いや、ストライク・ブラックの長の『マスター』と呼ばれる男がそう言ったのだった、、、。

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