第17話 予想外の遊び方
ディシェイド 朝 開拓地
朝食を終えた賢治とルナは、このまま開拓を続けてもまともに進まないと感じていた。
「木が真っ直ぐに切れない。丈夫でしなやか、それでいて軽くて薄いと評判のノコギリを使ったのに。使い手が俺だと扱う技術が足りない」
(ルナなら綺麗に切れたけど、賢治様がルナだけ働くのはダメだって言うし。でも一緒に開拓して家を建てるんだし、賢治様も見栄があるからルナに任せっきりにしたくないみたい)
賢治が魔力量に物を言わせて魔法で空間固定して、こちらも魔法で木から余分な水分を抜いた。
真っ直ぐなまま乾燥して、加工可能なまでに強度の落ちた木をノコギリで切るも。大工初挑戦な賢治は切っているうちに、どんどん斜めに切っていった。
対するルナは最初の2割弱こそてこずったが、こつを掴んだのか残りは真っ直ぐに切り終えた。
そもそも素人が立派な家を建てようと考えるのが烏滸がましいのだが、人生を慎重に生きていて失敗経験の少ない賢治には門外漢について考えが及んでいなかった。
気楽に、やれば出来ると根拠のない考えを持っていた。
しかし現実は甘くなく、当然失敗する。
そこで練習して技術の向上を目指さずに、直ぐに別の方法で解決しようとするのは、賢治の探索者としてのスタイルが大きく関わっていた。
賢治は技術の向上に努力を惜しまない人間だが、ダンジョンのモンスター相手には搦め手を使い殺していた。
植物モンスターには油を撒いて火をつけ。
水中のモンスターには爆弾で気絶させ。
突進してくるモンスターにはリンダに魔法で落とし穴を掘らせる等々。
徹底的に戦闘を避け効率重視で探索していた。
それらを最大効率で扱う為の努力はしていたが、探索者として必要ではない技術の練習は全く価値を見い出せなかった。
そして今もノコギリが上手く扱えないので自分での加工は諦め、他に手はないかを考えている。
「賢治様ー。何でも最初は上手くいかないんだから、もっと練習して上手くなろ?急いで建てなくても、ルナの家があるから大丈夫だよ?」
(はっ!)
言われて賢治は気が付いた。
そして無意識に効率を求めていた事を反省した。
「そうだよな、そうなんだよな。せっかく文明から離れて来たのに、効率重視でのんびりを忘れたら勿体無いよな」
「うん!」
「そうと決まれは早速木を切る練習だ!失敗した木材はルナが狩ってきた肉を燻製にするのに使おう!じゃルナ、俺にノコギリのテクニックを伝授してくれ」
「うん!」
それから数日。賢治は自分が納得のいく技術を身につけるまで。ルナ指導の下、ノコギリを振るい続けた。
賢治がノコギリの練習をしている間、ルナは他の大工道具の練習をしていた。
そしてその集大成が、総木製の高床式倉庫である。
一切の釘を使わずに、木組みで作り上げた1品だ。
この日から賢治の日課はスキルの練習へと移行した。
(目先の事に気を取られ、本質を見失うとは…俺は大工じゃなくて忍賢者。忍術と魔法を練習しなくて、何をやってたんだ)
(下手な時空間魔法でも、魔力を大量に注ぎ込めば木の固定は可能だったし。無茶な運用をしたせいか、時空間魔法の制御が少し上達した。つまり戦闘でピンチになったら、魔力量でゴリ押しすればいいから。平時は精密制御を身につけるべく練習しよう)
賢治は開拓をする上で、どの忍術か魔法が最適化を考える。
(やはり木を制御する木遁と、開墾に必要な土遁に地魔法あたりか。畑が出来てからなら、水遁に水魔法も必要になるが。今は後回しだな)
(最初に使った時は地面から芽が出るだけだったが、木の切れ端を加工するのにも木遁は使えるはずだ。必要なのは想像力と折れずに練習し続ける心!!)
賢治は掌サイズの木切れを両手で包み込み、気合を入れて忍術を発動した。
「木遁!!」
木切れに魔力を浸透させていき、木切れの形を変えていく。
制御が未熟で慣れていない忍術に、変形速度は遅く。本当にジワジワとしか木が動いていかない。
それでも賢治は焦らず集中力を途切れさせず、手に新たな木切れを追加しては融合成形させていく。
木切れは薄く円形に引き伸ばされ、直径凡そ30センチになり。外周が内側に丸め込まれ持ちやすくなっている。
賢治が作っていたのは木製のフライングディスクだった。
高床式倉庫まで作ったルナに、何かプレゼントは出来ないかと思い。1人では遊べないオモチャをプレゼントする事で、遠慮なく一緒の時間を持つよ、というメッセージも込めて作った。
「賢治様、ありがとう!」
遊び方を教わるとルナな賢治に満面の笑みで礼を言い。早速2人で遊ぼうと誘った。
賢治は渡されたフライングディスクを投げ。ルナは大型犬サイズの黒狼になり、フライングディスクを口でキャッチ。
フライングディスクを賢治に渡すと、次はまだかと尻尾がフリフリ揺れる。
そして賢治は視線に耐えきれずに投げる。
賢治としては人間形態のルナと投げあって遊ぶつもりだったのだが。
「これ、なんか違がくね?」
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