第16話 虫の音

 ディシェイド 朝 ルナの洞窟 寝室


 夜中まで生死の境を行き来した賢治は、朝になると洞窟の入口で健やかに目覚めた。

「20年以上生きてきて、なんか最高の目覚めなんだが?腹ラリアットで気絶した後なのに」

 痛みの消えた腹の上には、泣き疲れて眠ってしまったルナが寝ていて。その泣き腫らした目に体を起こす事は躊躇われたが。



 慎重にルナをベッドに運びテーブルに腰かけ、建築関連の資料に目を通す。

 賢治は自分が予想していた以上に難題だったディシェイドでの開拓。これを解決出来そうな人物に心当たりがあった。

 その人物に思いを馳せながら目は文字を追っていたが、内容は頭には入って来なかった。


(あいつに話すのは今の段階ではなしだな。いや、先に話しだけしてメタリカのダンジョンでレベルアップさせるか?)

 賢治の中では話しをするのは確定しているが、その時期を決めかねていた。

 理由はその相手が貧弱貧弱だから。

 異世界転移のクールタイムの最低3日はディシェイドで生活する必要があるのに、それに耐えられるイメージが浮かんで来ないほどだからだ。

 しかしその知識量とファンタジーに対する情熱は凄まじい。

 現代ファンタジーではなく異世界ファンタジーを好むので、メタリカのダンジョンには全く興味は無いようだったが。



 この時、賢治は油断していた。

 最初にディシェイドに来た時も、メタリカに異世界転移している間も。一切モンスターを見なかったし、洞窟にモンスターがやって来た形跡もなかった。

 だから油断した、ここは安全であると。

「賢治様ー!!」

 賢治は目覚め起き上がったルナに超高速で抱きつかれ、テーブルやイスを吹き飛ばして壁に激突して気絶した。

「がっは…」

「良かったー!賢治様が死んじゃったかと思って、ルナ心配したんだからー!!って、あれ?賢治様?賢治様ー!?」


 そしてまた、ルナが泣き疲れて眠るまでの間。賢治の耐性系や自動回復系のスキルが、有り得ないスピードで強化されていくのであった…



 翌朝賢治が目覚めるとルナは既に起床しており、酷く落ち込んだ表情で部屋の隅に膝を抱えて座り賢治を見つめている。

 それを確認した瞬間に賢治の脳はかつて無い程に高速で思考を重ねた。

 今この場で何を言ってどう行動すればルナの心の傷を回復させられるのかと。

(俺の出した誤魔化し程度じゃ、ルナのステータス値1兆を超えるであろう知性の前では見抜かれてしまう。だったら本心真向勝負で…ん?これだ!!)

 全知からの通知がある事に気付いた賢治は、そこに記されていたスキルを確認してルナを慰める方法を決めた。これしかないと確信して。






 ルナにステータスオーブを持ってきてもらい、賢治は自分のステータスのスキル一覧をルナに見せる。




 復活 膨大な魔力を消費して死より復活する。ただし肉体が蘇生可能な状態であること。


 頑魂精体 魂、精神、肉体をとても頑丈にする。常に健康状態を保つ。


 復元 魂、精神、肉体を健全な状態まで自動復元する。


 適応 環境や状況に適応してスキルにない強さを得る。


 変態 自身を物質の三態、または精神体に変態させる事が可能になる。


 他者復活 死者の肉体から魂が剥離していない、魂が呼び戻せる範囲にある場合のみ使用可能。精神と肉体を復活させ、魂に生きる力を与えて蘇生する。連続使用不可。


 完全耐性 一定以下の攻撃、魔法、状態異常に対して完全耐性を得、無効化する。効果はステータス依存。



「これって…」

「そうだ。ルナが俺を殺さない程度に瀕死に追い込んでくれたから、死なない体になる様にと身に着けたんだ。ルナならわかるだろう?このスキルがあれば俺は滅多に死なない。それこそ一瞬で全身を消滅でもされない限りな。だからルナは俺を強くして、死ななくしてくれたんだ。だから」

 ぐぅぅぅ〜。


 いい話しにすり替えてルナを慰めようとしていたが、賢治は自身の腹の虫に邪魔された。

 ベッドの縁に座り隣に座るルナの頭を撫でながら、賢治は話しを続ける。

「だから気にしてるなら、美味い料理を作ってくれないか?材料は鞄から好きに持っていっていいから」

「うん!」



 料理が出来るまでの間。賢治は排気口から流れてくる肉の焼ける匂いに空腹を刺激され、涎と腹の虫の音を止められなかった。

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