第9話 ルナ、初めてのメタリカ

 迂闊、余りにも迂闊。

 賢治は詳細を確認してスキルの再使用には3日必要と読んだのにも関わらず、単独で異世界転移を使用してしまった。

(マズイマズイマズイマズイマズイマズイ。ルナを置き去りにしちまった…)

 現在地の確認もせずに、家族の愛を知らずに育ったルナを置き去りにしたと、自分の浅はかさを後悔している。


 何か方法はないかと考えながら周囲をグルグル歩き回る。

(異世界転移はまだ使えない、一体どうしたら…そうだ、口寄せだ!)

「口寄せ!来い、ルナ!」

 一瞬で賢治の前1メートルにルナが現れ、賢治が何か言う前に。

「ゲンジざまー!!」

 ドゴン!

 ルナが泣きながら賢治の腹に飛びついた。そして両者勢いのまま、かなりの距離を吹き飛んだ。

「グハッ!」


「賢治様のバカ!賢者なんだったら、もっと考えてからスキルを使って!」

 飛んで転がってなお泣き続けたルナが落ち着いて、賢治に対して寂しかった捨てられたかと思ったと文句を言っている。

「はい、すいません。この度の事はわたくしの不徳の致す所であります」

「そんな言い方で誤魔化されないんだから、悪い事したらなんて言うの?」

「ごめんなさい」



 ルナが泣き止んで機嫌も戻り、まだ現在地さえ確認してなかったと周囲を見回すと。

「あの時の深級ダンジョン…」

 マッケンジーに騙されて最下層のボス部屋まで転移させられた、あのダンジョン入口の裏手だった。

「マッケンジー…俺は生きて帰ってきたぞ」

 つぶやくように力強く言葉にすると、胸の中に闘志が湧いてきた。

 必ずその罪を償わせてやる、と。


「賢治様、どうしたの?」

 賢治の雰囲気の変化を敏感に察知したルナが心配そうに聞くが。

「これからどうしようかなって、考えてたんだよ」

 そう言って誤魔化す。

「だったらルナ、賢治様の世界を見てみたい!」

「そうか…どうせ3日はディシェイドへは行けないんだ。だったらルナにメタリカを案内してやるよ」

「やったー!」

 諸手を挙げて喜ぶルナに、本当にメタリカを楽しむのも悪くないかと考え始める賢治だった。

 そう思った賢治だったがルナのボロい貫頭衣を見て考えを改める。

「最初はルナの服とか靴を買いに行くか」

「うん!」



 まずは自宅の一軒家に帰り着替える。

 2サイズは違う服でダボダボな上に、ジーパンも何度か裾を折らなければならなかった。

 ルナにはTシャツを着せてハーフパンツを履かせた。

 大人用のハーフパンツなので長ズボンサイズになっていたが。


 身分証はギルドタグを首からかけているので、財布だけ持って出る。

 賢治の家や初めて着る服に興奮するルナにスリッパを履かせる。

 これも大人しかなかったので、隙間にタオルを詰めた。

(俺の靴も買わないとな。サイズが丸きり違う)



 服を買いに大型チェーン店にやって来た。

「おっきー!」

 はしゃぐルナの手を引き店内へと入る。

 女性店員を捕まえてルナの服と下着と靴、頭から足まで着衣10着に靴2スリッパ1のコーディネートを任せる。

 賢治は自分の着替えを適当に10日分籠に入れると、店内のベンチでルナを待った。


 時々かわいー!とかきゃー!と、ルナの声が聞こえ。

 女性店員が全員ルナを着せ替え人形にして楽しんでいた。

 会計が終わったのは入店してから4時間後だった。


 予備の魔法袋に買った物を入れてギルドに向けて歩く。

 途中のファミレスで遅い昼食を取るつもりだ。

 ルナは黒のウルフカットのロングヘアに合わせて白いつば広の帽子とワンピースとパンプス姿になっている。

「ルナ可愛い?服似合ってる?」

「可愛いよ、似合ってるよ」

 と、よほど嬉しかったのか何度も繰り返し賢治に聞いている。

「えへへー」

 その度に嬉しそうに笑うので、賢治もこのやり取りに飽きたとは言えずに付き合っている。


(ルナにはハンバーグセットにするか。見本を見せるのに、俺も同じのにするか)

 ファミレスの席に向かい合わせに座り、メニューも見ずに案内した店員に注文する。

「ハンバーグセット2つと、オレンジジュース2つで」

 注文を復唱した店員が去るとルナにメニューを見せて時間を潰した。

「きれーな絵だね!」

「これは写真って言うんだ」


 届いたハンバーグセットを食べ始めるが、案の定ルナはフォークの使い方を知らなかった。

 しかし知性のステータスも1兆あるので、1度見本を見せると瞬く間にマスターした。

「賢治様。ハンバーグ、美味しいね!」

「ああ、美味いな。これからメタリカに居る間は、こっちの料理を食べるからな。まだまだ美味しい料理が沢山あるから、期待してていいぞ」

「うん!ルナ楽しみ!」



 ファミレスで会計を済ませると、次は探索者ギルドでの情報収集だ。

(まだ1日しか経ってないからマッケンジーの事も把握してないだろうしな)

 探索者ギルドはそれっぽいからとサブカルチャー風にしようという意見もあったが、単純に使いにくくなるので却下されたという噂がある。

 なので外観は白塗りのコンクリートで、内観も役所そのままだ。

 ロビーは広く緊急時に探索者の集合場所になっているので、今の時間帯は人がまばらにしかいない。

 何やらザワザワしているなと賢治が思っていたら、ギルドの2階からダリアにリンダ、そして裏切り者が現れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る