1-2 静電気体質
三年女子のなかで一番と言っても過言ではないほど容姿端麗、誰もが認める良好な性格、周囲からのあつい人望――と、素晴らしい条件の揃い踏みな、僕の密かすぎる片想い相手・
そんな彼女から、まさか誕生日プレゼントを戴けてしまうなんて思ってもみなかった。何時間も経てど、ドキドキと胸の詰まるような心地は覚めやまない。はあ……本当に夢じゃあないんだよね?
部活があるからということで
皆本の言うとおり、自宅の自室に一人きりの状態で、僕は戴いた小袋の封を開けることにした。制服だってまだ着替えてない。鞄を置いて、手洗いうがいを済ませて、深呼吸を八回繰り返してから、ちょっと震える指先で皆本がくれたそれをジャケットの腰ポケットから慎重に取り出したところ。
「よ、よし……開けよう」
ゴクリ、思わず喉が鳴る。右手に持っているこれにどんなものが入っているのやら。まさか、一人きりで開けなければいけないほどヤバいものが入っているのか? いやいや、皆本に限ってそんなことはあり得ないだろう。
だって『あの』皆本柚姫だ。春先に芽吹いた柔い新芽が、淡い暖色の花弁を開かせたまさにその瞬間のような。無垢そうで、華やかで、害悪なんてひとつも知らないような。そういう雰囲気の女の子なんだ。
と、そんなことをモヤモヤ考えている間に封を開ける。中身を机上へと滑り出して、凝視。
「お、おお……」
思わず漏れた、感嘆の溜め息。胸の内側からときめきが薫る。
それは、細い革紐で編まれたブレスレット。『非感電タイプ』の材質であることは一目見れば簡単にわかる。手首のワンポイントになるようになのか、付属のチタン製の薄い板はそれだけでなんだかクールだ。
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感電体質が少しでも軽減されますように!
ゆずき
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「手紙まで入ってるッ!」
んああ、今度は興奮の発声。逆さまにした袋の中から一枚の紙が滑り出てきた!
優しい……優しすぎる。まさかあの皆本が、こんな冴えない僕を思い遣ってくれるなんて! 彼女はなんだ、神か? 天使か?
ああ、感動的だ。ありがたい。僕の厄介な特異体質を気にかけてくれるのは、親を除いて剣と皆本くらいだ。
そう。敢えて今まで言っていなかったけれど、僕は生まれてこのかたとても厄介な体質に悩まされている。
静電気体質――僕の父さんが仮にそう命名して永い。
その名のとおり、僕が触れるものすべてで僕自身が初手に必ずバチッとやらかす。『帯電体質』と言うと簡潔に伝わるだろうか。
ドアノブなんかの金属はもちろん、本に触れても靴に触れても椅子を引くときでさえも逐一バチッバチッとやっている。
いちいち説明しないのは、呼吸やまばたきと同じくらいの頻度でバチバチやっているからに相違ない。季節なんか関係ない。だから今だって初夏なのに、こうしてバチバチやってしまっている。
だから皆本も剣も、僕に贈り物を『手渡し』しなかった。一度卓上に置いて、それから僕が物に触れる。そうすれば相手に被害はないから――ということで、僕が強くお願いしたことなんだけれど。
だって、バチッとなるのは僕一人で充分だから。大切な人たちが、僕と関わるだけで痛い想いをするなんてのは不本意だもの。
このことを思い遣ってくれたであろう皆本は、僕に静電気避けのブレスレットをくれたわけだ。アクセサリーというだけでも嬉しいのに、更に『僕のために』特殊なこれを選んでくれたその気持ちが最も嬉しくて尊い!
まぁ、皆本は剣のことが好きなんだろうけど、今日くらいこの幸せを噛み締めて独占したっていいよね? ね? ねー?
ニヤニヤと頬が緩む僕は、そっとブレスレットへ手をのばす。ピトリ、右手の中指がそれに触れた瞬間、感電避けブレスレットなのに案の定バチッとなってしまった。うん、もうこの際関係ない。『皆本がくれたブレスレット』というご立派なブランド品なんだから、これは。バチッとやったところでダメージゼロでしょう。こんなの今更、今更。
左手首にカチャカチャと装着を試みる。うう、丸カン部分が上手くつけられない。アクセサリーなんて着け慣れていない上、そもそもこういうアクセサリー用の金具って苦手なんだよなぁ。いまいちスムーズに着けられな――
[どんくっさ]
「えっ?」
手が止まる。な、何? いまの声。どこから聞こえた?
[そんくらいヒョヒョイッと着けれんのけェ? いじっかしなァ]
ヒィ! な、なに……何語? カンサイベン?! 誰、誰の声っ?! この男の声誰ぇー?!
[おほー! 初々しーぃ反応やわいね。いいじいいじ、存分にびっくりしられま]
う、うーん。ちょっと早口で何言われてるかがはっきりわかるわけじゃあないけれど、どうやら僕の思考……というか心の声が全部筒抜けだってのは理解したぞ。
「ど、どこにいるんですか、あなたは」
[お前の中やで姿は見せれん。やで、声だけなんやぜ]
「お、お前の、中……とは?」
[お前ん中はお前ん中や。まぁ、簡単に言やァお前にとり憑いた、ってとこけェ]
「と、とり憑いた……?」
てことは、この人は幽霊かなにかなんだろうか。
[ヒヒッ。
潜められた、謎の男声。息を呑む、僕。
[ワシ、死神なんやぜ]
顔や姿が見えたわけじゃないけれど、やけにニッタァと粘り気のある笑みをされたような気がする。その言葉をゆっくりなぞった僕は、頭に大きなハテナをドンとひとつ浮かべた。
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