第43話
部屋に戻ると一人で楓の作り置きを食べていた。
ただ、やはり一人で食う食事はさみしいな。
早く帰ってきてくれるといいが……。
ただ、告白間際までいったのにそのままの状態だと少し過ごしにくいかもしれない。
それでも楓と居られるなら……。
◇
数日が過ぎ、ついに楓の作り置きがなくなってしまった。
「しかたない、今日からはコンビニを買いに行くか……」
ちょっと前の状態に戻っただけだからと俺は苦笑を浮かべながらコンビニに夕飯を買いに行く。
購入するのはいつも買っていた焼き肉弁当と楓に注意されたから準備したサラダ。
それを袋に入れてもらい持って帰ると部屋の前で楓が待っていた。
何か中をうかがうように……、それでいて不安そうな表情を見せていた。
ただ、俺が帰ってきたことに気づくと嬉しそうに笑みを見せてくる。
「またコンビニのお弁当なんですね……」
「まぁな……」
「でも、今日はサラダも買われているのですね。たまにはそういう日もあっても良いですよね」
「……ただ、俺はやっぱり美澄の料理のほうが美味かったな」
俺がはっきり告げると楓は恥ずかしそうに頷く。
「そうですか……。ではまた明日から作らせて貰いますね」
そして、楓が顔を真っ赤にしていた。
「その……、なんだか照れますね。あの後だと……」
「あの後?」
「ほらっ、屋上で……、その……」
楓に説明されると俺もどこか恥ずかしくなってくる。
「と、とりあえず中に入るか? いつまでもここにいるわけには行かないからな」
部屋の外で話をしているのもおかしいからな。
俺は部屋の鍵を開けると楓を部屋へと招き入れる。
「お、おじゃまします……」
楓が不安げに中へと入ってくる。
「あれっ、普通に綺麗ですね……」
「まぁ散らかしてないからな」
「そうですか……」
なぜだろう、久しぶりに会った楓と会話が続かない。
別に何も変わったわけじゃないのに……。
「そ、そうだ、美澄の夕食を……」
「あっ、私はもう食べてきたので大丈夫ですよ……」
「そ、そうか……。それじゃあ俺は食わせてもらうから先に風呂にでも入るか?」
「そうですね……。では先に頂かせて貰います」
楓が風呂へと向かっていく。
その間に俺は部屋で夕食を食べさせて貰う。
◇
「先に入らせていただきました。ありがとうございます」
楓が風呂から上がってくるとお礼を言ってくる。
お風呂上がりだからだろうか、楓の頬は赤く紅潮し、その髪は水が滴っていた。
そんな彼女の様子に俺は思わず息を飲み込む。
「えっと、その……、俺も風呂に入ってくるよ」
「は、はい……、ごゆっくりと……」
楓がぽつんと床に座る。
どこか緊張した様子を見せていた。
取りあえず俺も早く風呂に入るか。
風呂から上がってくると楓は既にすやすやと眠りについていた。
ずっとバタバタしっぱなしだったから仕方ないだろう。
俺はかるく楓の頭を撫でる。
そして、楓の上に布団を被せてあげる。
「さて、それじゃあ俺も寝ておくか」
楓の隣に寝転がると俺もそのまま眠りについていた。
◇
翌朝、懐かしい朝食を作る音と匂いで目が覚める。
懐かしいな……、この音。
なんだか心が落ち着くような気持ちになってくる。
少し頬が緩んでくる。
そして、楓の楽しそうな鼻歌がキッチンの方から聞こえてくる。
「ふふっ……、ここで料理をするのも久々ですね。何だか落ち着きます……」
嬉しそうな声が聞こえる。
そして、楓が微笑んでいた。
「それにしても、岸野さんは相変わらずゆっくり眠られてますね。……俊さん、って呼ぶ日がくるのでしょうか? って私は何言ってるんでしょう。まだ完全に告白されたわけじゃないのに……。でもでも、あのとき、邪魔されなかったら……」
顔を真っ赤にしている楓が容易に想像がついた。
「でも、そろそろ起きて貰わないとお仕事に遅れてしまいますよね。ご飯も準備ができましたしお弁当もできてますから……」
キッチンの方から楓が近付いてくるのがわかる。
そして、ゆっくり俺の体が揺すられていた。
「岸野さん、岸野さん……、そろそろ起きてください。会社に遅れてしまいますよ……」「んんっ……、もう朝か……」
ゆっくり目を開けると楓がすぐ近くで微笑んでくる。
「おはようございます……、岸野さん」
「あぁ、おはよう、美澄……」
「朝食の準備ができていますよ。一緒に食べましょう……」
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